第932話 裏路地から匂いがする。1(予定変更。)
武雄達は夕飯前のお茶を通りに面したテラスでしていた。
お茶というよりも武雄は今見て来た情報をまとめようとしているのだが。
「ん~・・・」
武雄が腕を組んで悩んでいた。
「マイヤー。ごはん・・・たべりゃれる?」
「マイヤー様。ビエラがご飯はもうすぐかと聞いています。」
「もうすぐですね。
宿に戻ったら所長が作るでしょう。」
「タケオ。何を悩んでいるのですか?
先ほど保護施設の場所がわかって受付に挨拶をしたではないですか。」
「そうですね。
で。今日の見学は断られましたが、明日の昼過ぎに訪問を予約したら二つ返事で許可されました。
マイヤーさん。あり得るのですか?」
武雄が難しい顔をさせながらマイヤーに聞く。
「所長。訪問できないと思って訪問したんですか?」
「8割くらいの確率で見れないだろうと思っていました。
覚悟はさっき言った通りなのですが・・・まさか本当に見れるとは・・・」
「残りの2割ですか。引きが良いですね。
ですが、確かにそういった奴隷制度の暗部は普通なら他国の使者には見せないと思うのが普通でしょう。
事実。我が国で牢獄を見せろと言われたら断るでしょう。」
「・・・牢獄。刑務所のような物ですかね。」
「刑務所ですか?」
「法を犯した者が収容される施設です。」
「牢獄と同じですね。」
マイヤーが頷く。
武雄は目線を通りに向け「ま。中世レベルの国家の刑務所だからなぁ。」と行く気は起らなかった。
と。通りの向こう側の少女と目が合ってしまい。少女が近寄って来る。
「おじさん。花を買いませんか?」
「花ですか・・・おいくらですか?」
「銅貨1枚です。」
「なら2つください。」
「はい。ありがとうございます。」
少女はお辞儀をして通りの人混みに消えて行く。
「・・・今の子。首輪なかったですね。」
マイヤーも少女が消えて行った道を見ている。
「奴隷として衣食を与えられ玩具として生きる者もいるし、自由という名の下にその日のパンの費用を精一杯稼ぐ者もいる。
・・・私から言わせればどちらも不幸でしょう。」
「私達の所ではそういう者はなくしていきたい物ですね。」
「全ては救えない。救えるのは限りある数のみ。
理不尽だと言われようとも現実に資金が無限にある訳でもないですからね。
救う命は選別させて貰うしかないでしょう。
優先度が高いのは私達に有益である事。
そしてその者達で金銭を稼ぎ、他の者を救えるようになれば良い・・・時間がかかるが他に選択肢はないんですよね。」
「そうですね。
1人を救えば3人が救いを求め、3人を救うと10人が・・・終わりなき救済が始まるでしょうね。」
「お金が沸いて出てくればなぁ。」
「所長。現実逃避はしてはいけませんね。」
「そうですね。
やれることをして自分達の勢力を大きくしましょうかね。
と・・・さっきから思っていたんですど。この匂いは何でしょうかね?」
武雄が通りを見ながら言う。
「焦げてる匂いの事ですよね?」
マイヤーも気になっていたようで通りを見る。
「ん~・・・ミア。何だと思いますか?」
「わかりません。ただの焦げた匂いです。ねー。ビエラ。」
「あ。」
ミアとビエラが頷く。
「んー・・・パナ。これなんでしょうかね?」
「・・・タケオ。麦茶に似ていませんか?」
パナが考えながら言う。
「麦茶か・・・なるほど。
作っている所を見てみたいけど・・・どこから漂っているんでしょうかね?」
「とりあえず歩いてみますか。」
マイヤーがそう言うと武雄達は席を立つのだった。
・・
・
「ここです。」
「あ。」
裏路地に抜ける路地の入口で胸ポケットに居るミアと抱えているビエラが声を上げる。
「えーっと・・・この先は前に説明のあったカファロ一家の勢力圏ですね。」
「面倒ですね。」
武雄が疲れた顔をさせる。
「どうしますか?」
「ん~・・・」
マイヤーの問いかけに武雄が悩む。
「あ・・・あの・・・そこ通りたいのですけど。」
武雄の後ろから先ほどの花売りの少女が声をかけて来る。
「あ。これは失礼。」
武雄が路地を開けるように下がる。
「いえ・・・その身なりは旅人さんですか?
この先は結構危ないですよ?」
「ええ。それは教えて貰ったのですけどね。
この匂いが何なのか・・・知りたくてですね。」
「匂い?・・・あぁ。お茶を煮出しているんです。
今は婆ちゃんが作っているのかな?」
少女が首を傾げながら言ってくる。
「お茶?」
「はい。」
「飲めますか?」
「え・・・ちょっと聞いてきますけど・・・
待っていてください。」
少女が路地の奥に走って行く。
「所長。大丈夫でしょうか?」
「逃げられる用意はしておくべきでしょう。
殺生はしないようしないといけませんかね。」
「街区の奥だったら難しいのではないでしょうか。」
「その時は・・・まぁその時でしょう。」
「お待たせしました。」
少女が男性と共にやってくる。
「お連れするのは構いませんが・・・」
「腰の物をお預けください。」
少女がそういうと隣の男性が武器を渡せと言ってくる。
「大事にお願いしますね。」
武雄は即決で腰の小太刀をベルトごと取る。
マイヤーもため息を付きながら腰の剣をベルトごと取り外すのだった。
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「あれ??ちょっと・・・おっちゃん。路地に入っちゃったよ・・・」
セイジョウが武雄から離れた場所から観察していて呟く。
「・・・ほぉ。動いたな。
周囲には向こうの監視は居ないと。ふむふむ。」
バロールが顎にしゃくりながら感心する。
「いやいや。なんでこの治安の悪い所に丸腰で入るかな・・・
おっちゃん。大丈夫かな?」
「ルイ。どうする?」
「屋根伝いに行こう。
バロール。向こうの精霊の場所はわかる?」
「当然。」
「よし。行こう。」
セイジョウとバロールも動くのだった。
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