第923話 闘技場にて観戦を。2(最下層者。支配者。観察者。)
エルフの男性・・・壮年のドナートが前の試合以降に置かれた物陰に隠れながらオーガを見ていた。
「くっ・・・」
オーガは2体とも妻のボーナと娘のエンマとフローラを見ているのがわかる。
妻のボーナと次女のフローラは弓を構えられるようにしている。
だが、まだ弓の射撃体勢には移行していない。
だからこそオーガ達も様子見なのだろう。
後ろを付いてきている息子のジッロに目線を送ると頷いてから離れていく。
対戦相手を知らされたのは朝の段階だった。
そこで家族会議を開き、後衛のボーナとフローラが注意を引いている隙に、ドナートとジッロはまず1体目の動きを弱くする為に足を攻撃する。
動きを抑制したらすぐに移動し、動ける2体目に全員で攻撃し早々に終わらせる。
簡単だがそれしか出来ない戦術だった。
「・・・オーガ2体か・・・
流石に13戦目だと上の魔物を出すか・・・勝てる気がしない。
だが!子供達の明日の為に殺る。」
静かな闘志を燃やすのだった。
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武雄とは別の部屋の貴賓室。
カファロ家の当主ロターリオ・カファロが側近達と見下ろしていた。
「ふふん。今日も儲けさせて貰えたな。」
優雅にワインを飲みながら楽しんでいた。
「主。それにしてもオーガ2体で大丈夫だったのですか?
昨日のゴブリン8体というのはギリギリで倒しました。
主の指示で回復は1試合2体までとしていましたが・・・前々回で1名が使い物にならなくなってしまいました。
本当によろしかったのですか?」
側近が話しかけて来る。
「あぁ。エルフは弱いとは言え、やはり粘りがあったからな。
本当は2名動かさなくしたかったんだが・・・ま。だからこそ見ごたえがあるんだよ。
毎回、毎回準備万端で双方を戦わせても面白くないだろう?
見ろこの観衆を。
やはりエルフという高位の魔物が徐々に弱まっていくが何とか勝ちあがるという筋書きに観衆は喜ぶんだ。
それに12連勝してくれたんだ。儲けもトントンで損失はない。
この新企画は上々だ。
これで俺の運営者としての地位は上がるだろう。次はどんな対戦を企画するかな。」
カファロが嫌な笑みをしながら言ってくる。
「・・・あの一家。今日辺りが限度でしょうか。
どう処分を?」
「手負いのエルフをか・・・今日の結果次第だな。
生き残るのなら明日処分すれば良い。
明日か今日かの違いで、結局は廃棄だ。」
カファロが何の感情も乗せないで言い放つ。
「ちょっと!ロターリオ!
今日の約束どうしたのよ!」
ノックもせずに扉を開け女性がお付の奴隷と一緒に入って来る。
「お。エマか。」
「『エマか』じゃないわ!
まだ昼間よ?」
エマと呼ばれた女性が片目を釣り上げて言ってくる。
「失礼した。エマ・ドローレス様。
今日はどうされた?」
「私の約束をすっぽかすな!
昼間から私の部屋だったでしょう?」
「そうだったか?」
「はんっ!
まぁ良いわ。行くわよ!」
「まぁ待てよ。エマ。
今うちの最大の稼ぎ頭が戦っている。」
「奴隷のじゃれ合いに興味はない。
どうせどちらもロターリオの指示で戦わせているんでしょう?」
「先々週から始めたんだがな。
この企画で入場料と賭け金が良い感じで増えている。
今後も面白い企画をしないとな。」
「アンタの仕事に興味はないわ。
私が興味あるのはロターリオ。アンタの体だけ。
アンタは平民なんだから。私に従いなさい。」
「そうもいかん。
俺は仕事をしているんだ。
せめてこの一戦が終わるまで待て。」
「・・・ふん!
ならここですれば良いだけ。
ほら下半身出しなさいよ。」
「好き者だな。」
「これも一風変わった趣向として今日来なかったのは許してあげるわ。」
エマがスカートに手を入れながらカファロに近寄っていくのだった。
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こっちは武雄達。
目下のエルフたちは1体目の動きを弱めてから2体目と戦っていた。
だが・・・明らかに劣勢だ。
と若いエルフがオーガの右拳を剣で受けるが飛ばされる。
「・・・あ!」
アンダーセンが勢い良く立ち上がると拍子に闘技場側の壁を蹴ってしまい穴を開けてしまう。
「あ~ぁ。」
「何やってんだよ。」
アーリスとブレアが棒読みで答える。
「はぁ・・・あ。これ脆いな。」
マイヤーが追撃をして穴を広げる。
「いやいや。私が原因ですけど。
被害を拡大させないでください。」
アンダーセンが苦笑する。
「「・・・」」
バートとフォレットは壁際に立ち観戦している。
オールストンとアーリスは扉の前で椅子に座ってお茶を飲んでいる。
武雄はというと部屋の奥に机や椅子を自分達で密集させており、並べられている下の床にしゃがみ、リュックに銃身を置き、小銃改1を構えていた。
誰も武雄の方を見ないし、気にもしていないで観戦している。
そして密集している机の下の武雄は外から見ても発見は出来なそうだった。
机の上はビエラが大の字でお腹を上に向けてお昼寝を敢行している。
「・・・」
武雄は開けて貰った穴を通してスコープで戦況を眺めている。
この旅で毎日毎日オーガを仕留めて来たおかげで大体のスコープで見た際の距離がわかるようになっていた。
本来はこういった催し物に関わってはいけないのだろうが、あまりにも不平等過ぎて1回だけ干渉しようとしていた。
弓を撃っている2名は両方のオーガに向けて順次放っている。
狙えるのは今前衛が応戦していない方のオーガ。
武雄はタイミングを見ている「・・・あと2歩・・・」もう少しで穴からも狙える。
一歩。そして次の足が地に付きかけ
「タケオ。バロールが近づいてきます。」
構えている武雄の横で座っていたパナが状況を伝えるのだった。
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