第917話 奴隷商組合入店。3(武雄達は退出。)
「はぁ・・・」
武雄達が去り、セスコは応接の長椅子に仰向けで寝そべっていた。
と扉がノックされたので入出の許可を出すと最初に武雄達を案内した女性が入って来る。
「失礼します。
使節団殿方は出て行かれました。」
「あぁ・・・わかった。
それにしても一農家の息子が他国の貴族になぁ・・・」
天井を見ながらセスコが呟く。
「貴族然としていなかったのはそういう事なのですね。」
「・・・ナサリオ。
事務方最上位としてどう思った?」
「隣室で聞いていましたが・・・組合としてアズパール王国との繋がりを持つのはよろしいのではないでしょうか。
今まで非合法に豪商相手に入れていたのが、解放期限付きで公式に認めるという法律になったという説明でした。
その情報だけでも今後の計画が立てられると思います。
それに使節団殿が中央に副組合長を推薦すると言ってくれています。
取引金額は少ないかもしれませんが、向こうの中央との繋がりは今回の依頼より相当重要な項目かと思います。」
「・・・取り扱いが丁寧な奴らはカトランダ帝国に優先的に行かせている。
残るは国内の人間主義派御用達のカファロの息のかかった者か穏健派御用達のカプートの息のかかった者か・・・
どちらも難しいか・・・だが俺個人の商機とも言える・・・」
「アズパール王国が奴隷を兵士に迎えるという事は向こうは何かあるのでしょうか?」
「・・・ウィリプ連合国としては4年半後だったな。
アズパール王国も薄々感づいているという事だろう。対奴隷魔物戦の訓練かもしれないな。
その第一弾を若旦那が仕入れるか。」
「新人貴族を派遣ですか。失敗したら首が切りやすいですね。」
「・・・お前はそう思うか?」
セスコが目線をナサリオに向ける。
「ええ。」
「そうか。」
セスコが体を起こして腕を組んで考える。
「副組合長は違うと思いますか?」
「若旦那が言った経歴・・・綺麗過ぎるな。」
「そうでしょうか?
アズパール王国は貴族制です。
緩い国家との報告を裏付ける形になりましたが、事なかれ主義の国風なのでしょう。
鳴り物入りで作られる研究所の所長としての成り手が居なかった為にあの使節団殿が指名されたという事はご本人の口から説明がされています。
誰かに押し付けられたと考えるのが普通ではないでしょうか。」
「・・・ふむ・・・まぁ良いだろう。
とりあえず今回の依頼を完璧に終わらせる。
今の事前市の出順リストと購入した奴隷商のリストをすぐに取り寄せてくれ。
今後数十年の付き合いになるかもしれん最初の品を見繕う。
ナサリオは若旦那に引き渡すまで俺の補佐を。」
「わかりました。
すぐに情報を集めて参ります。」
ナサリオが礼をして退出して行った。
「・・・事なかれ主義で成らされた貴族が・・・あの交渉は出来んと思うがな。
・・・もしかしたら魔物への目利きが出来るのか?そういえばあの時も早かったか・・・
まさか。敢えてこちらの目利き力を試そうと?
・・・下手な者を用意すればこちらの評価を落としかねないか・・・」
セスコは資料が来るのを待つのだった。
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武雄達は奴隷商組合を出た後、個室型のカフェでお昼を取っていた。
「ん~・・・塩味です。」
武雄が料理を食べながら頷いている。
「所長。会談の手ごたえはどうでしたか?」
ベイノンの聞いて来る。
「ないですね。
明日の情報が待ち遠しいですよ。」
「端から見ていると今後がある事を匂わせ、総額金貨990枚の取引をして欲しいという要望を伝えた事は交渉の前段階としては順当かと思いますが。
所長は奴隷の原価をどのように見ますか?」
「・・・さて?
市場価値がどうなるか・・・ヴィクターとジーナは300枚で売られていた。実際の売値は金貨240枚。
たぶん金貨200枚程度だと思います。
なら同程度で兵士が出来そうな年齢なら2人で金貨220枚程度が仕入れ値と想定しますね。
粗利等々を考えれば・・・おっちゃんならヴィクター達と同じ金貨240枚で売ってくれそうではありますが・・・
まぁこちらの上限が金貨290枚と言うなら金貨280枚程度で見繕って来るでしょう。
ミア。ビエラ。」
「はい。」
「あ。」
ミアとビエラが返事をする。
「魔物の素質を見抜いて貰います。
ミアは前回のヴィクター達でわかっているでしょう。
その感覚をビエラに教えておいてください。
基準はヴィクター程度としましょうか。」
「わかりました。」
「あ。」
ミアとビエラが頷く。
「所長・・・あの2人が基準なのですか?
難しくないですかね?」
ブレアが聞いてくる。
「・・・低くても良いとは局長達は言っていますけどね。
でも今回はダメでしょう。」
武雄が難しい顔をさせて言う。
「そうでしょうか?」
「皆がヴィクターとジーナを通して奴隷の素質を見ています。
低い者は居るとわかってはいても私が買いに行ってあの2人より格下の者しか手に入らないのなら・・・私の評価が下がってしまいます。
研究においては下げて貰っても良いですが、今回に限ってはダメです。
最低でも同程度は必要でしょうね。」
「格下ですか・・・」
「まぁあの2人は文官の気質ですから今回の武官気質を探すのは同じ能力という訳には行かないでしょうけどね。
私達の感覚で言うなら地方貴族の騎士団並みの武力と知力持ちでしょうか。」
「所長・・・そんな上位が売られているのでしょうか?」
オールストンが聞いてくる。
「私は買えましたけどね。」
武雄がさらっと言う。
「絶対売っていないと思うんですけど。」
フォレットが呆れながら言う。
「その答えは資料を貰って、ミア達が確認してからわかるでしょう。
それより。皆さん。昼食。昼食。折角地元料理を出して貰ったんです。
堪能しましょう。」
「「はい。」」
武雄が楽しそうに食事を再開し、他の面々も食べ始めるのだった。
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