第914話 104日目 悩める観察者ととある一家の就寝前。
「・・・ん~・・・」
セイジョウが武雄達の宿を見られる一室から武雄達の部屋を見て唸っていた。
「覗き趣味か・・・」
バロールが呆れている。
「監視ってそういう物でしょうが!
そう言えば俺達向けの監視さん達、ドローレスに入ってから気配無いんだっけ?」
「・・・やはり目線を感じないな。」
バロールが首を傾げながら言う。
「諦めた・・・訳ないよね。」
「もしくは彼の御仁と合流したか・・・2名増えたのは確かだ。」
「普通はあり得ないと思うけど・・・監視員じゃなくておっちゃん達用の先行組だったのかな?」
「は?何の為に監視を?
相手は国家だぞ?先行偵察と監視という違う任務を兼務はさせん。
仕事なんだ、中途半端になんかさせないだろう。
まぁ、彼の御仁が来たら数名が監視から外れ、新たに監視に付く者を入れるとか人員の再配置はあり得るかもしれんがな。」
「なるほどね。」
セイジョウがバロールの言葉に頷く。
「頭を使え。
だから部下が出来んのだ。」
「ちゃんといるでしょうが?」
「・・・いたか?」
バロールが真顔で返す。
「え・・・いたよ?
・・・うん。いた。間違いなくカトランダ帝国に行く時もいた。
その後のも付いてくれているし。
部下のはずなんけど。」
バロールが真面目顔で聞いてきたのでセイジョウが不安になりながら確認する。
「あのかなりの割合で失敗する者が部下とはな・・・嘆かわしい。
最初見た時は・・・今もだが、押し付けられたとしか感じていないぞ・・・」
「わかってるじゃん!」
「彼の御仁の部下は人間種では上位に入る武力や知力はありそうだがな。
それに比べて・・・はぁ・・・」
バロールが盛大なため息を付く。
「バロール・・・おっちゃんと比べないでよ・・・」
「うちのルイがもっと使えたらあんな部下ではなかったはずなのに。」
バロールが目に涙を浮かべながら言って来る。
「いや。良いところだってあるんだよ?」
「例えば?」
「例え!?・・・えーっと・・・お使いを頼むと新種のお菓子を買ってきてくれるよ。」
「本来の使い用件はおざなりだがな。」
「・・・率先して仕事に取り組んでくれるよ。」
「確かカトランダ帝国では、任せたら追手が付いたか。」
「・・・他部署と分け隔てなく接せれるね。」
「組織内の反抗的な者に言いくるめられて、情報収集に一役買ったんだったか?」
「・・・上司、部下分け隔てなく接すれるよ。」
「飲み会で上役の胸ぐらを掴むという任務が有ったらしいな。」
「・・・留守番出来てるかな?」
「お前が帰りたくない理由の一つだな。
始末書がなければ御の字だ。」
「・・・俺が悪いのかなぁ?」
「さてな。だが、部下の失敗は上司の統率力欠如と取られるのが世の常だな。」
「厳しく言っても響きそうにないし・・・どうしよう・・・」
「どうしようもないな。
他部署に行かせるか、新たに中堅を入れて面倒を見させるか。」
「ん~・・・その2択かぁ。
ちなみに俺が育てるという選択肢は?」
「現状出来ていないのに、出来るようになるのか?」
「無理だね。
まぁ。だからこそ、間に人を入れて教育して貰おうという事だしね。」
「あぁ。」
「はぁ・・・おっちゃんに相談しようかなぁ・・・
おっちゃんの部下優秀そうだし・・・」
「他国の者の手を借りてどうするんだか・・・」
セイジョウの愚痴にバロールが呆れる。
「だって、おっちゃんは人をまとめられていそうだよ。
何かノウハウがあるかもしれない。」
「マニュアル人間は嫌われるがな。」
「マニュアルがなければ組織は維持出来ないよ。」
「それも然り。
まぁ。部下一人を育てられない未熟者の悩みなど彼の御仁は一蹴して終わりだろうがな!
この未熟者の盗賊が!」
「くぅーーー!
この際言っておくけどね!盗人と部下が育たないのは別だからね!」
「部下が育たないんじゃない!お前が成長せんのだ!」
「なにおう!?
俺だって頑張っているんだよ!」
「結果を伴わない自己主張など幼児がする事だ!
金を稼ぎたいなら結果を出せ!ほれほれ!」
「くぅ!その結果がないんだよ!」
「やはり。穀潰しだな!」
バロールが意気揚々と言い放つのだった。
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ドローレス国のとある一室。
石張りの部屋に小さいベッドが複数置いてある。
「・・・子供達は寝たか?」
男性が問いかける。
「ええ・・・貴方。ごめんなさい。
今日の勝利で子供達の怪我を治す予定だったのに。
私が怪我をしてしまったばかりに。」
男性に声をかけられた女性が涙ながらに答える。
「・・・気にするな。
今日の勝利でお前の腕が治ったじゃないか。
あのままなら動かなくなっていたかもしれない。
あと3勝・・・そうすれば、自由になれる良い医者も見つけて治せる手立てがあるかもしれない。」
「・・・貴方。本当にアイツは約束を守ると思っているの?・・・」
「・・・」
男性は何も言わない。
「・・・貴方・・・」
「今はそれしか信じる物がない。
それ以外にここから出るのなら死か。大怪我をして捨てられる時だけだ・・・」
男性が苦渋の顔をさせて呟く。
「・・・まずは3勝・・・その後の事はその後ね・・・」
「あぁ。今日という日を生きるために、子供達を少しでも長生きさせる為に。」
「そうね。」
男女は頷き合う。
「もう寝よう。明日も組まれているだろうからな。」
部屋の灯りが消えるのだった。
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