第908話 情報擦り合わせ。3(ドローレス国の事。)
「つまり、所長は詰所で治安が悪い地域が裏稼業の支配地域で国の管理外になっていると言われたのですね?」
ベイノンが武雄の詰所での出来事の報告を聞いて返事をしていた。
「ええ。
そのカファロ一家とカプート一家というのがどういった力関係があるのかは知りませんが、わざわざ治安の悪い地域を指して支配地域と言うのです。
それなりに悪い事をしているんでしょうね。」
「キタミザト殿。
一応、先行して調べた結果なのですが、カファロ一家というのはこの街の裏稼業最大組織になります。
一家の特徴としては奴隷はゴミ同然という考えの人間主義者というのと、その当主であるロターリオ・カファロはエマ・ドローレス。この国の娘の愛人の一人という事です。
この国の領主とその娘との繋がりで潤沢な資金を活用し奴隷売買、娼婦街の運営で膨大な資産を持っています。
一方のカプート一家ですが、当主はマウロ・カプートと言います。
一家の特徴は・・・特にありませんね。
こちらはカファロ一家には及ばないものの街2番手の奴隷売買、娼婦街、歓楽街の運営で膨大な資産を持っています。」
フォレットが報告してくる。
「よくそんな情報を手に入れられましたね。」
武雄が感心する。
「街中の露天商に聞いただけでこれだけわかりました。
・・・後ろの机に購入品がありますが・・・」
フォレットに言われ皆が後ろの机を見るといろいろと雑貨が並べられていた。
つまりフォレット達は購入する際の世間話で情報を仕入れたようだ。
「あと3番手と4番手の裏稼業も聞いていますが・・・どうもこの2つは先の2つの系列の様です。
特には問題はないかと思います。」
「ふむ・・・街1番と2番の裏稼業の縄張りですか・・・」
武雄が腕を組む。
「所長。率先して入ってはダメですからね?」
「それはそうですけど・・・ん~・・・」
武雄があいまいな返事をする。
皆が「絶対に目を離さないようにしよう」と思うのだった。
「あとは目的地の奴隷商組合ですね。」
アンダーセンが言ってくる。
「場所はわかりましたけどね。
ここだと教えてくれました。」
武雄が詰所で兵士が丸した所を指す。
「・・・港寄りなのですね。
でも私の記憶ではここは飲食店が多かったと思うんですよね。」
ベイノンが考えながら言ってくる。
「・・・実はですね。
私もバートもここを探すのに苦労しました。」
フォレットが苦笑しながら言ってくる。
「どういう事ですか?」
武雄が聞いて来る。
「明日にでも外観を見て貰えればわかりますが、わかり辛くてですね。
場所を聞いていても建物の前を3往復してしまいました。」
「看板等の目印も特にないんですよ。
皆がわかっているからいらないのか。隠しているのかはわかりませんが・・・
とにかくわかり辛いとしか言えないですね。」
フォレットとバートが苦笑する。
「?・・・わかりました。
感想は明日建物の前でわかるのですね。」
武雄が不思議そうな顔で言い他の面々も不思議そうな顔をさせて頷く。
「「ええ。」」
2人が頷くのだった。
「で。所長が言っていたカトランダ帝国で奴隷を販売していた奴隷商は見つかったのか?」
「残念ながら・・・
対象は3人居る事はわかったのですが、3人とも不在と言われています。
個人名も教えないとの事で直接名前を言って頂ければ相手方に連絡を取るとの事ですが・・・キタミザト殿。奴隷商の名前はわかりますか?」
「すみません。聞き忘れていますね。
まさかまた会う事になるとは思ってもいませんでしたから・・・
ん?・・・マイヤーさん。あの時私達芝居しましたよね。」
「ええ。所長。今思い出したんですね。
万が一、会えたらその続きですが・・・あの設定を覚えていますか?」
「え・・・確か綿花農場の3男・・・次男だっけ?」
武雄が口元に手を当てながら「マズい。覚えていない」と焦る。
「・・・ここはセイジョウ君に話した内容に合わせましょうかね。」
武雄はにこやかに上書きをする事を決める。
「所長・・・
嘘を付くから後々苦しくなるんですよ。」
アンダーセンがため息を付く。
「正直に言うとまた会うとは思っていなかったですからね・・・
それにあの時は身分を隠して聞いたから怪しまれずに買えましたしね。
その場での判断は間違っていないと思っていますよ。
・・・・まぁ。これで私の出自は一本化出来て筋書きが楽になると思いましょう。
悲観しても仕方ありませんからね。」
「当分はその経歴で行くのですね?」
「ええ。まぁ。」
武雄は伏せ目がちに答える。
皆は「これはしっかりと記録に残さないといけないヤツだ」と気を引き締める。
「それに何だか奴隷組合で対応してくれるような事を詰所で言っていましたよね。」
武雄が考えながら言う。
「ええ。
まぁ上の人間が出て来ると見ますが、所長はどう見ますか?」
マイヤーが言ってくる。
「他国の使節団に団長は貴族ですよね・・・
逆の立場なら・・・まぁ普通に私かマイヤーさんが相手をするしかないでしょうか。
流石に実力はあろうとも役職なしの隊員に案内は任せられないでしょうね。」
武雄が頭の後ろに手をやり考えながら言う。
「本心はどうでしょうか?」
アーリスが楽しそうに聞いて来る。
「アンダーセン小隊長に一任。適当に案内しておけ。」
武雄が天井を見ながらぶっきら棒に言う。
「・・・」
アンダーセンも上の立場である武雄の気持ちはわかるので何も言わずに嫌そうな顔をするに留める。
「少なくともちゃんと対応するなら相応の人が出て来る訳ですね。
そして・・・役職以外が出るなら舐められてるという訳ですが。」
ブレアが明日の想定を話す。
「個人的には下っ端が付いてくれた方がいろいろ行けると思っているので良いんですけどね。」
武雄が手を組み机に肘を付いて言う。
「はてさて・・・どうなるんでしょうね。」
マイヤーも考えながら言う。
「さてね。
とりあえず明日は奴隷商組合に行ってみましょう。
そこでの対応がどうされるかによってその後の行動が変わるでしょうから。」
「「はい。」」
皆が頷く。
「さて・・・後は自由にして結構です。
私は夕飯作りですね。
あ~・・・そうだ。バートさん。フォレットさん。
何人か連れて買出しに行ってください。」
「あれ?準備は出来ているんですよね。」
フォレットが聞いて来る。
「下地は出来ているんですが、油を買い忘れました。
今日はコロッケの予定なんですよ。
なので油と深鍋を買って来て下さい。
出来たら後は野菜とパンもお願いします。
基本食べたい物を買って来たら私が手を加えますよ。」
「「了解しました!」」
フォレットとバートが「久しぶりのコロッケ♪」と喜ぶのだった。
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