第902話 鴨釣り。3(情報の擦り合わせ。)
武雄はさっきとは別の店の個室タイプの部屋でアンダーセン達を待っていた。
「あ~!あ。」
「パナ。メニューを教えて下さい。」
「はいはい。
ビエラは肉が良いでしょうね。
ミアは魚にしますか?」
「あ!あ!」
「ビエラは肉で私はまずはサラダで!」
「わかりました。」
パナがビエラとミアにメニューの中身を言っていく。
「・・・」
「・・・」
武雄は難しい顔をさせて腕を組んで悩んでいるし、マイヤーは素知らぬ顔で簡易報告書を書いている。
と小隊の5名と昨日の2名が入ってくる。
「所長。遅くなりました。」
「失礼します。」
各々が席に座る。
「はい。皆さん。お疲れ様です。
何事もなく?」
武雄は少しホッとして皆を労う。
「ええ。ちゃんと存在感を出して尾行しましたよ。」
アンダーセンが武雄の質問に頷く。
「初めてあんなに気を許した尾行をしましたよ。」
「まったくだ。
で。第一情報分隊の監視に怒られたんだが・・・」
ブレアとアーリスが軽口を叩いている。
そして皆が昨日の2人を見る。
「はぁ・・・二研殿。やり過ぎです。」
こちらも呆れているようだった。
「うん。ごもっとも。
とりあえず私達がした事を報告します。
マイヤーさん。お願いしますね。」
「あぁやはり私ですか・・・まぁそうでしょうね。
じゃあ。皆。話を擦り合わせて行こう。」
武雄達がさっきの事について擦り合わせを始めるのだった。
・・
・
「外交局に難しい事をさせますね。
二研殿の情報のやり取りは報告しても問題ないでしょうか?」
第一情報分隊の男がため息混じりに言う。
「逆にちゃんと伝えておいて欲しいですね。
外交局等々で対外情報を得る時に絶対に私達新貴族の話をしているはずです。
私が言った事も含めて武器にしてほしいですね。」
「・・・所長の説明は時系列的には間違っていないんですけど、少しずつ間違えているんですよね。
すぐには発覚しないかもしれませんが上手く行ったと捉えるべきでしょうか。」
アンダーセンが呆れる。
「それでもエルヴィス領に来て調べるとわかってしまう程度の嘘ですけどね。
・・・もう一度同じ説明をするのは難しいでしょうね。」
武雄が苦笑する。
「行き当たりばったりなんですから・・・
所長も暗記が必要ですね。」
オールストンが呆れながら言ってくる。
「・・・もっと簡単にするべきでしたね。
さてと。これで私の情報は当分は攪乱出来るでしょうね。」
「はい。
マイヤー殿の話が考慮されると考えると一研のアルダーソン殿が狙われるでしょう。
所長とマイヤー殿は上手く意識を一研に反らした形ですね。」
「一研は確か指輪でしたか。
確かに所長がする公にしている盾の研究よりか見栄えも良いですか。」
ベイノンとアーリスが言ってくる。
「ふむ・・・見た目かぁ・・・
第一情報分隊は報告を陛下に上げますね?」
「ええ。
二研殿達が明日出立でその後をセイジョウ達が追うでしょう。
私達は更にそれを追いますが、その際に2名程入れ替えですね。
報告に戻して新しい人員を入れます。
再集結は3組とも同じ奴隷市となるでしょう。」
第一情報分隊の男が頷く。
「なら今の話を陛下にして陛下経由でニール殿下とバビントン男爵。アルダーソン男爵に指示をして貰いましょう。
どう出るかは陛下に任せて私達は慰安旅行続行です。」
「・・・上手く行けば一研殿の所に間者が来ますね。
情報が抜かれるのはどうなのでしょうか?」
第一情報分隊の男が考えながら言う。
「元々私とアルダーソン殿は研究所と言う機密を扱う組織を運営しますからね。
ある程度の情報漏洩は致し方ないとは思っています。
知らぬうちに持って行かれるくらいなら持って行かれる情報を用意した方が国益ですよ。
あとは外交局が上手く情報を流せれば良いんですけど。
ま。私の関知する所ではないですね。」
「うわぁ・・・所長。やりたいようにやって丸投げですね。」
「ふふん。私にお使いを頼むからこうなります。
それに二研なら私が監督しますし、トレーシーさんとパナと鈴音が研究員ですよ?
第二研究所から情報取るって結構大変だと思うんですよね。」
武雄が考えながら言う。
「まぁ・・・厳重そうです。」
「・・・いや。逆でガバガバ過ぎて良い事も悪い事も漏れそうなんですよ。
それに約2名は皆さんからすれば突拍子もない事を研究させるしなぁ・・・
まともなのは盾くらいですか?」
「・・・そういった意味では情報の真偽が難しいと言えなくもないですね。」
「ん~・・・情報管理かぁ・・・
マイヤーさん。どうしましょうかね。」
「そうですなぁ・・・
迂闊に施設外では話さないのが良いんですけど。
確か試作品作成はステノ工房でしたよね。」
「今はステノ技研ですね。
確かに外部に委託しますね。
それに実際の製造はさらに別工房です。
まぁどちらにしても情報は洩れる体制ですね。」
「所長。良いのですか?」
「別に漏れても影響があるのは鈴音くらいでしょうが、そこは私が遊んでいる分野なので・・・少し外見を弄ってわかり辛くしておけば問題ないでしょう。
まぁ始まってから考えれば良いとしましょうか。」
「お気楽ですね。」
「ええ。本人は楽しんでいます。
鈴音は汗をかきながら図面を描いているでしょうけどね。
ま。追々考えましょう。」
武雄がそう言うと皆が「今言っても仕方ない事か」と先送りにする。
「さて。王都への報告は第一情報分隊に任せて私達は囮に戻りますか。
第一情報分隊の方々もそうですが、今回は無理はしない。
セイジョウ君はたった2人で王城に侵入出来る組織が付いています。
舐める事は命取りです。
深追いも禁止。今はねぐらがわかるだけで良しとする事。
ちゃんと調べるならもっと人と金をかけて慎重に事に当たるべきです。
わかりましたか?」
「「はい。」」
その場の全員が頷く。
「では。仕事に戻りますか。」
武雄が満足そうに頷くのだった。
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