第901話 鴨釣り。2(情報の発信をしよう。)
「戻りました。」
「うん。おっちゃん。おかえり。」
武雄が気分一新で戻って来る。
セイジョウは若干憐れみの目を向けるが直ぐに気持ちを切り替える。
「で。おっちゃん。前に言っていた仕事に2人で来たの?」
「いえ?あと5人居ますよ。
ただ今は別行動ですね。街中を見るとか言っていましたけど。
そうそう同行している人達は王都の上位軍に居た方々なんですよ。
いや~他国に行くのに良い護衛を付けてくれましてね。」
「あ・・・そう・・・上位を付けられたんだ。」
セイジョウは「いや。おっちゃんの出身が出身だから、それ護衛じゃなく監視じゃないの?」とどんどん武雄を憐れんでいく。
「あとは仕事を済ませて戻れば完了です。」
武雄がやる気を見せる。
「おっちゃん。本当に口利きいらない?」
「いりません。」
武雄がきっぱりと断る。
「他国の支援を頂くわけにはいきません。
この仕事を任せてくれた方々も『好きに買ってこい』と言ってくれています。
それに条件は『人間に敵対しない。そこそこ強い。割と若い』という前に話した通りです。
その条件に合った者を選定し資金の中から買ってくれば良いだけです。
そしてこれも前にも言いましたが、自分の目を信じて探し、そして会えたならやりたい事を説明して納得して貰うのみです。」
「おっちゃん。大丈夫?」
「何を心配されているのかわかりませんけど・・・特に問題はないですよ。
なるようになります。
それにこれは買い付けですからそこまで難しくはないですよ。」
武雄があっけらかんと受け答える。
「そっか・・・バロール。行くよ。」
「ああ。」
「ん?もう行くのですか?」
「うん。おっちゃん。次は奴隷市で会おうか。
たぶんおっちゃんも俺もそこに行くことになるから。」
「奴隷市・・・そうですか。
ま。その時はその時でしょう。
じゃ。また。セイジョウ君。」
武雄がひらひら手を振る。
「ええ。ドウさんも。」
「キタミザト。」
「はい。キタミザトさんも」
セイジョウ達が店を出て行くのだった。
・・
・
「面倒だなぁ。」
武雄がセイジョウ達の行った先を見ながら言う。
「所長。この心労は嫌ですね。」
マイヤーが疲れた顔をさせる。
「ま。伝えたい事は言いましたし、精霊の数も誤魔化しましたし。」
「良いんですかね~・・・」
マイヤーが腕を組んで考える。
「パナとの契約のみの方が不自然でしょう。
それに誰に付いたかは言っていませんよ。
それに事実としてアリスお嬢様とスミス坊ちゃんとジーナには付きましたし、陛下やエイミー殿下もですね。
クリナ殿下とアン殿下とジェシーさんにもカリテス達が付きました。
ここから2名にすれば良いんですから楽な物です。」
「まぁ確かめるすべはありませんか。」
「内から出ない限りはですけどね。」
武雄が目を細めて言ってくる。
「なるほど。
事実あのセイジョウはどこかに所属しているのでしょうね。
でなければ我らの王城までは来れません。」
「・・・ここにはどこにも寄らずに来たと第一情報分隊の方は言っていましたよね。
現状では確かめられない。
だが、本国かどこかで別ルートからの情報と照らし合わせると。
一方は10名の精霊魔法師の報告。私からは現場で見たという報告。
・・・さて。どうなる事か。」
「イヤらしいですね。」
「ふふ。情報なんてそんな物ですよ。」
「タケオ。あの奥に座ったの精霊ですよ。」
パナが報告してくる。
「確か・・・バロールでしたか。」
「タケオ。名前から察するにケルト神話の魔神です。
確か。視線で相手を殺すことができる魔眼持ちでした。」
「あの眼帯ですね。
それにしても視線で殺せるのですかね?」
マイヤーが首を傾げる。
「さぁ?パナ達同族が出来るというなら出来るのでしょう。
それに威圧の魔眼持ちは2名ほど近くに居ますよ。
あれの別方向なのでしょう。」
「確かに。」
「それに人間は5感と言われる視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という主な感覚に刺激を加えたり惑わすというのは往々にして聞く話ではありますよね。
なので視覚から何か情報を入れて体力を奪うのでしょうが・・・
まぁその時は目を見ないで戦うしかなしですかね。」
「それ無理ですからね。」
「やらないと死にますよ。」
「はぁ・・・精霊は規格外ですからね~・・・」
マイヤーがため息をつく。
「さてと。
朝の打ち合わせで決めた合流場所に移動しますか。
アンダーセンさん達も深追いしないと良いのですけど。」
「まぁ平気でしょう。」
武雄達は席を立つのだった。
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セイジョウ達は少し遠回りをして向かいの部屋に戻って来ていた。
「・・・さてと。
どう?」
「ふむ・・・新手の尾行が5名・・・監視の方は動きは無いようだ。
明らかに今まで監視していた者とは別組だな。」
「新たな・・・ねぇ。
誰に向けてなのだか。
で。バロール。おっちゃん達の感想は?」
「流石に精霊付きは読心は出来なかった。
本心は言ってないが強ち嘘も言っていない風だったか。
もう一人の男性はあそこまで警戒されると無理だな。
・・・何と言うか・・・不安がっていたか。
詳しい内容までは遠くてわからんな。それにもっと気持ちを落ち着けられたらもう少しわかったかもしれん。」
バロールが腕を組んで考える。
「流石にわからないか・・・読心も距離が問題とは何とも使い勝手が悪いね。」
「読心が遠距離でも出来たらいろいろ問題だろう?規制という物だ。
まぁ読心が広範囲で出来る神も確か居るはずだが・・・」
バロールが難しい顔をさせる。
「別にいいさ。
それにしても。まぁ言葉は誤魔化していたんだろうけど・・・バロールの評価を鑑みると6割は信用が出来るかな?
はぁおっちゃん人が良すぎだね。
でも精霊と妖精が付くぐらいの逸材か。」
「抱えていたのは・・・ドラゴンだな。」
「はぁ!?なわけないだろうが。
どう見ても獣人の子供じゃないか。」
「あの御仁・・・相当人との縁が良いな。
本人は気にしていないというか・・・ドラゴンとわかっていないようだが・・・
精霊や妖精はわかっているが伝えていないかもしれないな。」
「ドラゴン・・・人間が手にするなんて普通考えられないよ・・・
普通怖がるだろうし、ドラゴンが人間の命令なんかには従わないだろう。」
「あぁ。だからあの2人は伝えていないかもしれないと言った。
人間種なら怖がって逃げるだろうしな。
それにいくらドラゴンが穏和だとしても膝上に乗せて頭を撫でるのを許すとは思わん。」
「ドラゴンが穏和なんて・・・ありなのかい?
ドラゴンは最強種。今までどれだけ捕獲に失敗したか。
未だかつてドラゴンの奴隷化は出来ていないんだよ?」
「そうなのか?
だが、あの御仁はドラゴンの奴隷化を成している。
実際は知らないかもしれないがそれが事実だ。」
「はぁ・・・おっちゃん。
何ていう人なんだか・・・」
セイジョウはため息を付くのだった。
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