第891話 厄介事2(ん?状況が想定と違うよ。)
「おう!おじさん達!今日は良い天気だね!」
武雄達は若い男性陣14名に半包囲されていてその内の1人が話しかけて来ていた。
武雄達は何も言わずに見ている。
正確にはどちらでも即応出来るように構えている。
場所はドラゴンと思われる足が草むらから出ている所だ。
ここならいきなり襲って来ても武雄が素早くシールドを展開でき、尚且つ近くに仲間が居れば成獣にもなり辛いだろう。そして別々の組なら向こうを囮に逃げようとも・・・実際は離れていようが近かろうが成獣になられれば大して関係はないと皆も思うが、仲間を巻き込まないだろうからという超甘い考えにやけくそ気味の達観が相まって近寄っていた。
「ん?・・・おい・・・婆さん、いつまで寝ている。
さっさと起きろ。」
男がそう言いながら軽く足で寝ている者の足を小突くと首輪を付けた初老の女性がよろよろと立ち上がり男達の後ろに行く。
武雄達は「え?あれがドラゴンだよね?なにやってるのコイツ?」と驚いている。
だが、これで仲間だという事がほぼ確実になった。
「あ~・・・俺らはこの辺で活動してる慈善活動家なんだが・・・
おじさん達、地域貢献の為に少しばかり寄付をお願い出来ないかなぁ?
なぁに、別に身包みを剥がそうってわけではないんだ。
見た所、おじさん達金ありそうだね。
だから少し色を付けてくれないかな?」
男がニヤニヤしながら武雄達を見ている。
「・・・ん~・・・」
武雄はまずはこの状況を考え始める。
ドラゴンが率いる集団というのとは違うのでないかと。
そしてそう見せかけるのかも知れないとも。
・・・さて、どうしたものか・・・
「ん?おじさん、どうする?
今なら痛い目に遭わないけど?」
男がそう言ってくるがマイヤー達は交渉をするはずの武雄が動くのを男達を観察しながら待っている。
「・・・一つ聞きたいのですが?」
武雄が考えながら聞いてくる。
「何だい?払う気になったかい?」
「それは・・・まぁ・・・少し待ってください。
私達はアズパール王国から来たのですが、今の女性は奴隷ですか?」
「ん?アズパール王国・・・ははぁ。
そうだ、これが奴隷だ。初めて見るのかい?」
「へぇ・・・
どうやって手に入れたのですか?」
「市場だね。」
「市場?売られているのはそのくらいの年齢の方なのですか?」
「ん?いや違・・・あぁ!皆このくらいだ!
おじさんも欲しいなら買ってみると良い。」
「・・・ん~・・・
若い方も居るのですよね?」
「居るには居るが高いな。」
「高いのですか・・・ん~・・・」
武雄が悩む素振りをする。
「おじさん、良かったらお試しでうちの婆さんを買うかい?
奴隷の扱いには慣れておいた方が良い。」
「・・・慣れ?」
「あぁ。あれやれこれやれと言えばそれなりに動くさ。
若いのより動きは遅いがそれなりに気は利くようにはしてある。
一度教えればその通り動くよ。
若いのは高い癖に何だかんだ言う事を聞かないんだ。」
「そういうものですか。
で、いくらで譲ってくれるので?」
「き・・・金貨90枚でどうだい?」
「はぁ!?金貨90枚!?」
男が金額を提示すると武雄が眉間に皺をよせながら驚く。
「す・・・少し待ってください。
ちょっと集合!」
武雄が男達に背を向けてマイヤー達と丸くなって打ち合わせを始める。
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男達も集まり話始める。
「おい!いくらなんでも婆さんに金貨90枚はないだろう。」
「そうだぜ。元々は中古のわけありで金貨30枚じゃないか。
初めて買うから俺らもお試しで買ったし。
それに婆さんが話せない事言ってないし。」
「流石に3倍は引くわ。」
「俺らも真っ当な人間ではないがよ・・・流石に3倍はなぁ・・・
いくら他国で奴隷を知らないおやじ達だからってやって良い事と悪い事ぐらいは俺だってわかるぞ。」
「う・・・うるさい。
最初は高くが基本だろうが!
あの驚きようだ。こっちが妥協した金額にすれば平気だろう。」
「ちゃんと交渉してくれよ。」
男達がため息を付くのだった。
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武雄達の方はというと。
「なんで90枚なんですかね?
ミア、本当にドラゴンですか?」
「主、あれは絶対ドラゴンです。
クゥやクゥの姉と同じです。」
「ミアが言い切るなら種族は確定ですか。
皆さんいくらと思って聞いていましたか?」
「ヴィクター殿達の合計ぐらいで金貨250枚かと。」
「金貨150枚以上かと思っていました。」
マイヤーとアンダーセンが言うと他の4人も同じ程度を想像していたみたいで頷いている。
「所長はいくらだと思いましたか?」
「同じくらいですよ。
金貨250~400枚までだろうと。
ただ見た目通りの年齢なら高齢となるでしょうからアンダーセンさんの考えの通り金貨150枚以上が無難な想定だと思いますね。
どちらにしてもそれが金貨90枚か。」
武雄が悩む。
「所長はドラゴンを買って何がしたいのですか?」
「前に話した人工湖の事業は覚えていますか?」
「はい。
新たな物流網の一端だったかと記憶していますが。」
「そうです、それです。
新しく場所を拓くと魔物が近寄って来そうですからね。
睨みが利く魔物を住まわせたいんですよ。
クゥに頼んでみようかと思ったんですが、交代要員が確保出来そうですね。」
「所長がやりたいことはわかりました。
ですが、いくらなんでも安すぎではないかと思います。
どこか欠損があるのではないでしょうか。」
「欠損・・・少し見ただけでしたが、2足歩行はしていましたよね。
腕は・・・ありましたかね。」
「両腕、両足はありました。
片目とかでしょうか。あとは片腕や片足が満足に動かないとか。」
「ふむ・・・そのぐらいであれば成獣化すれば何の問題もなく威嚇は出来るでしょう。
問題は精神系・・・いきなり凶暴化とかは迷惑ですよね。」
「所長、その時はどうしますか?」
「・・・まぁ・・・人型であれば目覚めないようにエレクを打ち込み続ければ寝ていてくれるでしょうからその状態で関間に捨てれば、あとは両国の兵士で取り締まってくれるでしょうね。」
「悪の所業ですね。」
「・・・この面子で暴走状態のドラゴンとの戦いは無理でしょう?」
武雄が皆の顔を見ながら言う。
「ええ。」
皆が顔を反らす。
「とりあえず買ってから考えても遅くは・・・えーっと、お金あったかな?」
武雄が革袋の中を確認するのだった。
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