第888話 95日目 武雄の宿題。(また面倒な物を。)
第3皇子一家の執務室。
「はぁ・・・で、なんだっけ?タケオさんの第3弾の企画は。」
アルマがお茶を飲みながらエリカに聞く。
「今回は3都市間の意思伝達構想案です。」
「確かエリカさんがタケオさんの構想案を元に関係文献を探して精査するという話だったのよね?」
レイラが考えながら言う。
「はい。概要から話をするとタケオさん的には物流が難しいなら言葉や伝言が出来るようにして遠くの出来事を・・・例えばウィリアム殿下領で起こっている災害等の情報を即日中に王都に伝え、救援物資の到着までの日数を短縮出来るような体制を作るという考えです。
これのメリットは計り知れないのです。
特に」
「関での情報ね。
確かにエルヴィス領の関もゴドウィン領の関からもどんなに早くても私達に情報を届けるのなら3日から4日はかかるわ。
さらに王都なら1日半。実質2日。
関で事が発生してから王都まで6日はかかる可能性がある。
そこを3都市で伝達が出来れば4日で済む。
さらに研究が進み貴族間でも出来れば私達を経由しても王都に2日程で来るのね。」
アルマも考えながら言う。
「はい。
正式には書面での報告と支援要請は必要でしょうが、書面が届くまでに支援準備を整える事が可能です。
騎士団もしくは輸送隊の準備時間はそうそう短縮は出来ないでしょう。
なので情報の伝達速度で短縮を図ろうとするのは正しい事かと思います。
また、報告書と支援要請が到着するまでに王都側で当該地までの経路の選定と支援隊の動きを入念に検討出来る事も良い事かと考えます。」
「うん・・・確かにメリットはあるわね。
それに情報伝達の速度向上はタケオさんの輸送船構想の一端に入っている重要な事。
タケオさんがそういった考えになるのはわかるわ。
エリカさん、逆にデメリットは何?」
「これが私が頭を悩ませている事なのですが・・・伝える・・・それも王都からウィリアム領まで直線距離で最低でも250kmは優にあります。
ニール殿下領になると王都から少なくとも300km・・・こんな遠距離間での伝達手段というのは前代未聞の魔法具の開発をしないといけません。
その知識は現状ではない物と考えます。」
エリカが意気消沈しながら言う。
「なるほどね。
ここ数日のエリカさんの苦悩は構想は良くても技術がないという事ね。」
「はい。
魔法関連の文献を探してもそのような魔法や器具はありません。
どうやってこちらの意思を違う場所に飛ばすのか・・・」
「ん~・・・タケオさんは何て言っているの?」
「王家専属魔法師に頼めと。
開発手段も未知数で開発費用も莫大だろうから決して殿下領ではやらずに王都にやらせる事と厳命されています。」
「なるほどね。
確かに遠距離の伝達手段は魔法関連になるはずだから私達は専門外よね。
ん~・・・王家専属魔法師部隊か・・・ただ提案するのもダメかもしれないわね。」
「はい。
王家の一員として依頼するのは簡単ですけど、何も具体的なやり方を示せないまま提案をしても一蹴されるだけです。
タケオさんは『糸電話』の原理が初歩ではないかと書いてあるのですが・・・」
「イトデンワがわからないわ。」
「はい。
その単語も探したのですが・・・魔法関連ではないのです。」
「・・・いやそもそもタケオさんが魔法がない所から来たのだから魔法関連で調べても見つからないのかも。
もっと関連が無さそうな本を見てみるとかしないといけないのかもね。
建物とか馬車とかの文献も探してみる?」
アルマがエリカの説明を聞きながら調べる先を考える。
「エリカさん。」
今まで黙って聞いていたレイラが声をかける。
「はい。」
「タケオさんは王家専属魔法師に頼めと言ったのね?」
「はい。
それがどうしたのですか?」
「おかしい・・・」
レイラが手を顎に持って行き前かがみになりながら眉間に皺を寄せていた。
「ん?何が?」
「王家専属魔法師はお義父さま直轄組織。
ある意味で王都守備隊とタケオさんが所管する研究所の同格組織よ。
そこに直接持って行く訳でなく第3皇子一家を通して依頼すると言う。
それに3都市間の情報伝達・・・それって冒険者組合のカードでの入出金と同じ・・・いや、違うか。カードに記録されている物を読みと・・・らない!
違う!そうだわ!冒険者組合が今回のタケオさんが考えた同じ方式を取り入れている!各事務所間で情報の共有は計られているんだわ。
でも待てよ・・・即日いや1日じゃ無理か・・・2日はかかると見た方が良いのかしら?
ん?・・・王都からの各貴族報酬が出たとして確認は翌日だったような・・・
いやいやいや、大事な事は日数がかかっても情報がやりとりされているという事。
この仕組みはタケオさんはわかっている・・・ん~・・・これはどういう事?・・・
冒険者組合が取っている方式とは別に何かをしろという事なのかしら・・・」
レイラが一人思案している。
「レイラ?」
「レイラ殿下?」
アルマとエリカが心配そうにレイラを見る。
「アルマお姉様、エリカさん、とりあえずこの3都市間の意思伝達構想案は誰にも言わなくて良いです。
タケオさんが戻って来て話を聞いてからにしましょう。」
「ん?そうなの?
まぁ急いでする物でもなさそうだから私は良いんだけど。
エリカさんはどう思う?」
「はい。
タケオさんの真意を聞かないと何とも言えないのはわかりました。」
アルマとエリカが頷く。
「ま、この話はもっと長い年月がかかるだろうしね。
とりあえず発起人の考えを聞かないと出来ないわ。」
レイラが苦笑するのだった。
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