第875話 夕飯。2(アンとクリナの将来の夢。)
「タケオさん、タケオさん。
このバターサンド、何か違います!」
アンとクリナが武雄の横の席に来て話をしている。
「ええ、バターの味が薄く、乳の味が強いですよね。
これしか今日は手に入らなかったのですけど。
私も料理長も料理人達も『面白い結果になった』と話していましたよ。」
「バターが手に入らなかったのですか?」
「んー・・・バターになる前の物を大量に仕入れたという感じですね。
なので若干バターの味が薄いんですよ。
なぜだかわかりませんが、こういったスイーツになりましたね。」
「料理は不思議です。」
アンが腕を組んで思案始める。
「アン殿下は今後は何か作りますか?」
「ん~・・・何でも作りたいです。
この間のゼリーは問題なかったのですけど、次はお肉のシチューを作ってみようかと思います。」
「スイーツではないのですね。」
「はい。
スイーツ以外では楽そうな物は鍋系だと思いました!
私は割りと楽に作れる物を習得していきたいと思います。
ゆくゆくは王家一番の料理人になりますよ!」
アンがやる気のポーズをさせながら言ってくる。
「それも良いかもしれませんね。」
武雄が朗らかに頷き返す。
「クリナ殿下は領地に帰ったら何かしますか?」
「私は食べるのが専門ですからアンみたいには作りませんよ。
私はタケオさんに教えて貰った豆腐を根付かせる方法と販路を考える事になりました。」
「え?・・・クリナ殿下がされるので?」
武雄的には若すぎると思うのだが。
「はい。
エイミーお姉様は寄宿舎ですし、お母様は弟を身籠りましたので私しか空いてないのです。」
「しょ・・・消去法ですか。
クリナ殿下が発案するのですよね。
おいくつになりましたか?」
「10歳です。
それにエイミーお姉様は私ぐらいの時にはいろいろと領内の事に携わっていたそうです。
なら私もしないといけないです。」
「ん~・・・」
武雄が悩む。
端的には社会科の実地の勉強と捉えれば10歳児でもそれなりな提案は出来るだろうが、果たしてどこまでクリナが見えているのかが肝になるだろうと考える。
それにクリナの提案をどれだけ広く解釈し、自分達の考えている方向をクリナに説明し、納得をさせないといけない。
思考や部署間の問題事でも柔軟に対応出来る人材を配置しないと難しいのではと思っていた。
「タ・・・タケオさん。
私では出来ないんでしょうか?」
クリナが不安な顔を武雄に向ける。
「出来るとは思います。
ですが・・・販路構築は大変ですから・・・
自分の意見は大事、でも意固地にならずに他者の意見も尊重して、方向性を打ち出して・・・さらに売り先でも8割方自分の意見は潰される覚悟と相手を説き伏せるだけの演説力と資料があれば・・・
結局はクリナ殿下の精神力次第ですかね。」
「え・・・そんなに難しいのですか?
タケオさんはどうやったのですか?」
クリナが聞いて来る。
「私の場合は作って欲しい商品の良い所と流行らせる方法を具体的に考えて、最終的にどれだけの利益が見込めるのかを説明して相手をやる気にさせました。
まぁ元々やる気があった人達と出会えたのも大きいですね。
クリナ殿下の配下の方々は場を作る事に慣れていますが、商売人ではありません。
なので利益をどう見るかという所が難しいかもしれませんね。
どんなに美味しい物でもどんなに目新しい商品でも商売人はそこに利益があるのかで動くか考えます。
ですが、ただ利益があるだけでも動かないですよね。
その仕事をする事によってどんな未来を語れるのか、そこも人を動かす要因です。」
「んん~・・・」
クリナが悩んでしまう。
「そうですね・・・
クリナ殿下は豆腐を使ってどういう街を造りたいのでしょうか。」
「街を?・・・豆腐を使って?」
「はい。豆腐や魚肉のつみれもありますね。
これらを街に広めてクリナ殿下は何がしたいのか。
まずはそこを考えると良いかもしれません。
そしてその考えを文官が賛同し、商売人が賛同すればおのずと根付いていくと思いますよ。」
「それは細かく決めないといけないのでしょうか?」
「そうですね・・・
決めると説明はしやすいですね。ですが、他の文官達が説明を聞いた時に何か意見を言って来たら、クリナ殿下のしたい事も少し修正出来るようにしておくのも重要ですね。」
「んん~・・・
タケオさんはエルヴィス領で大豆関連の商品を作るのですよね?」
「作りますが・・・クリナ殿下達のように急速な普及を考えていませんね。」
「え?そうなのですか?」
クリナが意外そうな顔をさせる。
「私の場合は、エルヴィス伯爵やアリスお嬢様、私の部下達に私の料理を食べさせたいから食材を集めています。
その一環で研究所の1階には喫茶店が出来ますが、そこで小規模でしょうが住民の方々にも提供します。
そこで話題になれば作りたいと言い出す人が出て来るかもしれませんが、私の方から豆腐などの大豆関連の食材を売り出す店を出す気は今のところないですね。」
「タケオさんでも出店はまだ出来ないと思うのですか・・・
これは私が思っているより難しいのですね。
タケオさんならどうしますか?」
「そもそも食文化という物は早々変わりません。
なのでじっくりと待つのが良いのでしょうけど・・・
まぁ大豆料理の専門店を1つ作って街中で様子見ですね。」
「専門店・・・」
「最初の数年は利益は出ないかもしれませんけど。」
「数年もですか!?」
クリナが驚く。
「ええ。最初は目新しさで人々は来るでしょうが、その後が問題ですね。
毎日もしくは数日に1回来てくれるような常連さんを作らないといけないでしょうから。
料理も一辺倒だけでなく、いろいろ作ってみて住人の好みを探らないといけないでしょうし・・・
店で食べたい人もいるし、家に持って帰って食べたい人もいるから商品数はある程度流用が利く物を作らないといけないですかね。
・・・やはり安定するには数年かかるかもしれないですね。」
「んんん~・・・難しそうです。」
「ま、領地に帰っていろいろ考えてみるのが良いでしょう。
焦らずに考えるしかありません。
売れる売れないというのはまだ考えるのは早いですよ。」
「わかりました、何か考えます。」
クリナがため息交じりに頷くのだった。
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