第867話 武雄の散策。4(戦利品は執務机。)
「?・・・!?・・・執務机・・・と?」
商会長が不思議そうな顔をしてすぐに汗をかきだす。
「ええ。今すぐにください。」
「・・・今すぐですかな?
明日までお待ちいただければ、も」
商会長が乾いた笑いを武雄に向ける。
「今すぐです。
金貨を頂いたのに現物は後日は変でしょう?
それに仰ったではないですか。即日解決が望ましいと。」
武雄がにこやかに言う。
「品質も見た目も良く、価格も高い机を後日お送りさせて頂くのではダメでしょうか?」
「今使われている机が良いですね。」
武雄が微笑みながら答える。
「それは・・・」
商会長は目を若干右往左往させる。
「引き出しの中身は要りませんので出してください。
人手が足らないと言うなら。」
武雄が警備局の班長を横目で見る。
「卿、私どもが手伝いますので問題ないです。
直ぐに入れ替える箱を用意いたします。」
目の合った警備局の班長が即答し、他の兵士が退出していく。
「入れ替えている間は・・・皆様はどうするのですか?」
商会長が腕を組み武雄を若干睨みながら言ってくる。
「王都の警備局なら守秘義務もしっかりしてそうです。
ナニが入っていても捜査対象以外の個人的な情報は洩らさないでしょう。
それとも警備局に見られたくない物が入っているのですか?」
「それは平気ですがね。」
商会長が幾分落ち着いたのか目を細めながら言ってくる。
「そうですか。
では箱を待ちますか。」
武雄は相変わらず微笑んでいる。
・・
・
「お待たせしました。」
兵士4名が箱を手にやって来る。
「さて、兵士達にさせますか?」
武雄が商会長に顔を向ける。
「それには及ばないですな。
おい。」
「へい!」
いつの間にか所属の男達も来ていて執務机に近寄る。
「室内の真ん中でするのも不便で邪魔でしょうから。
机を移動しますか。」
「・・・」
武雄がにこやかに言うと商会長が軽く睨んでくる。
「・・・何かご不満が?」
「・・・この場でしてはいけないのですか?」
「いえ、言葉の通りですよ。
部屋の真ん中でして警備局の方の邪魔をするつもりはありませんから端っこに持って行ってやってください。
それとも何か動かしたくない理由が?」
「特にありませんがね。
おい、指示の通り、机を移動させるぞ。」
「へ・・・へい。」
商会長達が机を隅に移動させる。
と武雄が執務机があった位置にしゃがみ込む。
「ミア、どうですか?」
武雄は小声ボソッと呟く。
「ん~・・・壁の所と床ですかね。
何かしら魔法具があります。」
ミアが胸ポケットから顔を出して報告してくる。
「なるほど、面白そうですね。」
武雄がそう言いながら目をミアが腕を伸ばして指している方に向ける。
「見た目ではわからないですね。」
「タケオ、そういった時は小槌でコンコン叩いて音で判断するべきです。」
パナも顔を出して進言してくる。
「・・・果たして私でもわかる程度に音の違いがあるのですかね。」
武雄が懐から小槌を出すのだった。
コンコンコン・・・コンコンコン・・・
室内の2つの陣営の者が武雄の奇行を見守っている。
一方は心配そうに。もう一方は真剣な眼差しで。
「・・・ここかな?」
武雄が立ちあがり床と壁を見比べながら腕を組む。
「卿、何かありましたか?」
「ここに何かあります。」
武雄が目線を警備局の班長に向けて言う。
「・・・見た目ではわからないですね。」
警備局の班長も壁や床に手添えて確認しながら言う。
「音がここだけ・・・若干軽いんです。
中は空洞なのかもしれません。」
「確かめても?」
「ええ、どうぞ。」
武雄が警備局の班長に小槌を渡し、警備局の班長も確認する。
「ん~・・・言われてみれば若干ですね。」
「そうなんですよね。
間違いかもしれないですが・・・」
「そうですね、微妙ですね。」
「ここには何があるのですか?」
タケオが商会長に向かって言う。
「・・・」
商会長は「ある」とも「ない」とも言わずに見ている。
武雄は「あると言えば出さないといけなく、ないと言ってあった場合は虚偽になるか・・・」と商会長を見ている。
「さて・・・」
武雄が思案し始める。
「おい!『鍵開け13号』と『鍵開け16号』を持ってこい。」
「はっ!すぐにお持ちします!」
警備局の班長が室内の兵士に言うと退出していく。
「『鍵開け13号』とは何でしょうか?」
「鍵のかかった蓋を開ける魔法具です。」
「鍵穴は見当たりませんが・・・」
「ええ、王家専属魔法師が作った鍵開けです。
魔法で解除する型の鍵を開けれます。
ただ時間がかかりますが。
まぁ実物を見て貰えればわかります。」
警備局の班長が言うので武雄達も待つのだった。
・・・
・・
・
持って来られた鍵開け機は武雄の見た目では「かき氷製造機」のような外形で、対象の真上5cmに設置し淡い光を照射するのみな装置だった。
壁の方も器用に設置(あと施工アンカーのような物体を打ち付けて)し、作業を同時にしていた。
武雄は「ツッコんだら負けなんだろうね」と作業をボーっと見ている。
・・
・
30分後。
「壁、床共に開きました!」
兵士達が武雄と警備局の班長に伝える。
「はい、ご苦労様です。」
武雄が労う。
警備局の班長と一緒に中を確認すると壁からはノートが。
床からは封書が出てくるのだった。
「これは?」
武雄が商会長に聞く。
「・・・」
商会長は腕を組んだまま目を閉じ何も言わない。
「中を確認しますよ?」
警備局の班長が言う。
「・・・」
商会長は体勢を変えずにただ沈黙するのみだった。
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