第864話 89日目 武雄の散策。1(騙し騙され。)
朝食後、武雄とジーナは各皇子一家に挨拶をし、王城内の各局や部下達の部屋に顔を出してから街中に出て来た。
ミアとパナは両胸ポケットで寝ている。パラスもジーナの胸ポケットに居る。
アリスやスミス、ジェシーは皇子妃達が詰めている場所でのお茶会のお誘いで出向いているので別行動です。
「さて、警備局で教えて貰った場所はここですかね。」
武雄が路地を確認してから周辺を見わたすのだった。
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ジーナと武雄は路地が見える少し離れた喫茶店の窓際に陣取り、仲良く並んでお茶をしていた。
「・・・ご主人様、来ました。」
「はい、見えていますよ~。」
ガラの悪そうな3人と気弱そうなリュックを前に抱えている男性が路地に入って行く。
昨日の今日でするかは謎だったが、とりあえずルークが証言した人物に近い人間が最低2人いるように見られた。
「先程、警備局で書き写した人物像とほぼ一緒です。
1人いませんね。」
ジーナがメモ帳を見ながら言ってくる。
「ま、そういう日もありますよ。
じゃあ行きますか。」
「はい。」
武雄とジーナは席を立ち上がるのだった。
・・
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気の弱そうな男性を壁際に立たせ男3人で囲んでいた。
「あぁん!!ワインどうしてくれんだ!」
「こらぁ!わかってんのか!?あ!?こっちは服も汚れてるんだぞ!」
「おいおい、その辺にしとけ。兄ちゃんが怖がっているじゃないか。
でもな、兄ちゃん。
人様のワインを割っただけでなく、服まで汚されて『ごめんなさい』では済まないだろう。」
「そ・・・それは・・・」
「何もうちらは無理を言っている訳ではないんだ。
ワイン代に替えの服代と慰謝料だけで良いんだよ。
それで手打ちにしようや。」
「で・・・ですが、銀貨8枚なんて・・・」
「兄ちゃん。
無いなら無いなりにあるだろう?」
「と・・・とりあえず手持ちは・・・」
気の弱そうな男性が革袋を懐から出す。
と囲んでいた1人が奪い取り中を確認する。
「ふん!・・・なんだぁ?銀貨6枚しかないじゃないか!?
あと2枚はどうするつもりだ!あ!?」
「・・・明日・・・いや夕方までにあんたらに渡す!だからもう勘弁してくれ・・・」
「ほぉ・・・殊勝な心掛けだ・・・
なら、そうだな!」
「あぁ!」
気の弱そうな男性が抱えていたリュックを奪い取る。
「これを担保に銀貨2枚と遅延料で銀貨2枚追加で手を打とうか。」
「な!・・・それでは合計銀貨10枚・・・金貨1枚分・・・」
「おいおい、こっちは十分待ってやるんだ。
今払えなければ遅延料が発生するのは当然だろう?」
「・・・わかった・・・ならすぐにでも取りに行って渡してやる!
あんたらの居場所はどこだ!?」
「ははは、昨日の小僧と違って物分かりが良くて助かる。
俺らは城門から東に3つ通りを渡った所にあるコロバル商会の者だ。
そこに今日は居てやるからすぐに取ってこい。
もちろん兄ちゃんの荷物の中身は見ないでおくさ。
あ、それと俺らは強ーい方が後ろについているんだ。警備の者に言っても無駄だ。
むしろ言ったら・・・兄ちゃん、家族って大切だよな?・・・ふふ、そう怖い顔するなよ。
ほら兄ちゃん、行きな。」
「くっ・・・」
気弱そうな男性がよろよろと路地から出て行く。
「ふん。
何ともまぁ・・・さ、帰るか。」
「兄貴、どうするんで?」
「あん?何もしないさ。
ちゃんと向こうが払うなら対応してやるまでだ。
それに今後ともお付き合いが出来るかもしれないだろう?
何事も無下にはしちゃいかんよ。」
「ははは、兄貴も他人が悪い。」
「何を言う、俺ほどの善人はこの界隈にはいないさ。」
3人が路地から出て来る。
先頭を歩く男が通りに出た瞬間、ふと左を見ながら進んでしまう。
と
「え!?」
ガシャン!・・・
前方不注意で男性にぶつかってしまう。地面では何か割れる音もする。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
男性がその場に四つん這いになって奇声を上げるとすぐに立ち上がる。
「お・・・お・・・お前・・・何してくれる?」
はい、武雄の登場です。
「へ?いや、てめぇ」
「てめぇ・・・じゃねえ。
お前がぶつかってきておいてなんだその言い草は・・・
このブランデーはな、ドルトルというんだ。昔の陛下の名が付いた酒だぞ?
それにこれはウィリアム殿下が生まれた年に仕込まれたブランデーで・・・入手が困難なのに。
どうしてくれる?今からお得意様の所で飲むんだぞ?
どうしたい?ん?商談がかかっているんだぞ?ん?」
武雄が詰め寄る。
男達は路地に後退する。
「・・・いや、それは・・・悪かっ」
「悪かった?・・・そうじゃないんだよ。
俺が言いたいのはお前はどうするんだという事だ?
え?商談はどうする?今後の俺の商売は?おい、答えろよ?おい?」
武雄が鬼気迫る目をしてにじり寄る。
「いや・・・いや!お前も前方不注意だったん」
「路地から出てくる方がまわりを見ろよ!
で、お前どうするんだ?おい?」
武雄の目が本気モードで威嚇している。
「・・・替わりを用意し」
「お得意様はこれを飲むために来て貰っているんだ。
この酒を手に入れるのにニール殿下領まで行ってきたんだぞ?
おい・・・どうする?おい?」
武雄は向こうの言い分を飲まないし聞く気もない。
ただただ詰め寄る。
男達は少しずつ後退していく。
「じゃ・・・じゃあ金でどうだ?」
兄貴と呼ばれた男が武雄に何を言っても通じないと考えると妥協案を出してくる。
「あ?・・・金?これから商売だって言っているだろう?」
「その補填を俺がしよう。」
「金貨400枚だ。」
「は!?そんな金あるわけねぇだろうが!?
なんだそりゃ!?その酒がそんなにするものか!」
「するしないではなく、金貨400枚相当の商談が潰れるんだ。
払うのか払わないのか?決めろ。」
武雄が目を細めて首を傾げて笑う。
「・・・そんな馬鹿な話は通らねぇ。
おい!俺らは行くぞ。」
「おや?踏み倒すと?
酒を用意するか、お前が言った補填をするか選べ。
それ以外はこの路地から出さない。」
武雄が通りに出る通路に立ちはだかる。
「・・・」
男3人が小さなナイフを取り出すのだった。
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