第854話 武雄。お呼びだし。
こっちは王城の門横の詰め所。
武雄が呼ばれて詰め所に来て横たわってる者を見て一言。
「・・・で?これが私への土産だと。
男の子ですね。」
「ははは、見てしまったので放置できなくて・・・
でもスミスが連れて行くと言ったのです。
当主代行がやると決めたんです。
私はそれを支持します!」
アリスが武雄を説得する。
「タケオ様!勝手な事をしたのはわかっています!
でも放置は出来ませんでした!」
スミスも弁明する。
ちなみにエイミーは先に王城内に戻っていった。
エイミー曰く「流石にこの場に王家がいるといろいろ言われそうですから」との事。
ただその言葉を言っているエイミーは眉間に皺を寄せていた・・・エイミーも王城では自分勝手には出来ないと痛感しているようだった。
「いや、別に怒っていませんよ。
放置をしたらそっちを怒ります。
貴族として領主として施政者として・・・時には倒れている者を助けず違う事に専念しなくてはならない事もあるとはわかっています。
ですが、今は緊急時ではありません。そのような時に助けられるのに助けないのはただの傲慢です。
スミス坊ちゃん、その判断を私も支持します。
それで私やエルヴィス伯爵に迷惑がかかっても私達は・・・いや少なくとも私は怒りません。
むしろ言ってきた相手と対決してあげます。
スミス坊ちゃん、良くやりました。」
武雄の言葉にその場の警備局員も頷く。
ちなみに詰め所にいた数人が王城内の警備局の部屋に報告に行き、今後の捜査をどうするか確認している最中です。
「さて、パナ、やっちゃいなさい。」
「はい。どこまでしますか?」
「最大級にしましょうか。
治せる所は隅々まで・・・1か月前の怪我まででしたよね?」
「はい。
ではそのようにしますか。」
「お、パナちゃんの最大魔法だね♪」
アリスの肩に乗るコノハが嬉しそうな声をあげる。
「コノハ、私はこれしか出来ませんよ。
ちなみにここに来るまでに誰かケアをしましたか?」
「私もパラスちゃんもアルちゃんもマリもしてないわよ。」
「アル・・・出来ませんでしたっけ?」
「さぁ。本人がしないならそうなんじゃない?」
「コノハ、パナ、その辺は確かめようもないし、出来たとして今は事後。
今は目の前の事をするのが先決だと思うが?」
マリがコノハとパナに言う。
「そうね。
どちらにしても今からの事が重要よね。」
「そうしましょう。
では・・・んー・・・まぁ良いか。」
とパナが両腕の白衣をまくり、手をかざして小声でつぶやき始める。
「我が名はパナケイア。父アスクレーピオスの娘にして癒しを司る女神なり、汝の全ての病魔を我に捧げ命の躍動させよ、我は汝の傷を癒す!治癒!」
パナの言葉で全身が一瞬光る。
「・・・こんなもんでしょね。
タケオ、終わりました。」
パナが振り返り武雄に報告する。
「へぇ。呪文というやつなんですね。」
武雄が感心している。
「無詠唱でも出来るんですけど・・・こっちの方が神々しいでしょ?」
「変に気を使いますね。」
パナの言葉に武雄が訝しげに聞き返す。
「私は有能だと教えたかったのです。」
「精霊である時点で有能なのは知っていますよ?」
「きゅ・・・給料アップを・・・」
「前に言った規定の通りです。」
「うぅ・・・」
パナがガックリとする。
「パナちゃん、何が欲しいのよ?」
「実験器具を買い集めたい・・・本も欲しいです。」
「ある程度は研究費から出すからとりあえずそれを使いなさい。
実績が上がれば実入りも増えて研究費も増やせると思いますよ。」
「!頑張って研究します!
タケオ!研究させてください!」
「エルヴィス邸に帰ったらね。」
「うぅ・・・」
パナがガックリとする。
「とりあえず、欲しい物リストを作っておきなさい。
順々に買っていきましょう。」
「は~ぃ・・・」
「ねぇタケオ、私はどうするの?」
コノハが聞いてくる。
「どうもこうも作付けと酒については、エルヴィス家との折衝があるのでそれまではわかりません。
コノハも必要な物や建物・・・その辺の欲しい物リストを用意してください。
いきなり言われてもわからないし、出来るかもわかりません。
その辺の事前折衝を済ませてから報酬等々の話になりますよ。」
「わかったわ。
とりあえず最小規模でのリスト作成かな?立地も関係するか・・・」
コノハが思案し出す。
「うちの精霊達はお気楽ね。」
アリスが寝ている人を見ながら言う。
「だって、パナちゃんがケアをしたなら完治していますよ。
何を心配するの?」
「すっごい自信ね。」
アリスが呆れる。
「ふふん♪アリス、精霊の魔法は超強力よ。
この傷が呪いとかなら考えるけど・・・普通に怪我だし、私達の魔法が効かない訳ないわ。
それに治癒は終わったのだからもう気にもしないし。
あとはスミスが対応すれば良いのでしょう?
スミス頑張れー。」
コノハが左右に揺れながら言っている。
「はは、わかりました。頑張ります。」
と寝ていた男の子が身じろぎを始める。
「・・・ん・・・ここは?」
「おや?起きましたか。
生きてますね。」
武雄が声をかける。
「あの・・・俺は・・・」
男の子が体を起こす。
「路地で倒れていたそうですよ。
そこの男の子が助けたんです。」
「あ・・・そうだった。路地で男達に・・・
傷は・・・治ってる?」
「ええ、そこの男の子の要請で治しました。
ここは王城の門横の詰め所です。」
「王城の!?」
「ええ。
とりあえず何かあったかそこの大人達が聞きますからちゃんと取り調べを受けてくださいね。」
「はい・・・助けて頂いてありがとうございます。
そちらの・・・えーっと・・・」
「スミスです。」
「スミス様、見つけて下さりありがとうございました。
このご恩は忘れません。」
「はは、良いですよ。
そう言えば名前を伺っていませんでした。」
「あ!はい!名乗らずに申し訳ありませんでした。
俺・・・僕はルーク・マイヤーと言います。
父は今は王城に勤めています。」
「「「・・・」」」
皆が一斉に武雄を見る。一様に「面倒事ですよ!」という顔をさせている。
「・・・そうですか。
とりあえず警備の人達に経緯を話しなさい。」
「あ、はい。
この度はありがとうございました。」
ルークが深々と頭を下げる。
「では私達は戻りましょうか。」
「え?・・・はい。」
「?・・・わかりました。」
武雄が扉に向かうとアリスとスミスも不思議そうな顔をさせながらも詰め所を退出していく。
詰め所の数人も一緒に外に出るのだった。
・・
・
詰め所から王城に向かう道すがら。
「キタミザト殿、マイヤー姓・・・第二研究所のマイヤー殿ですよね?」
一緒に出てきた警備局員が聞いて来る。
「他にマイヤー姓の者はいますか?」
「調べますが・・・たぶん居ないかと。」
「はぁ・・・第八兵舎のアンダーセン小隊長を呼んで立ち会わせてください。
そちらから報告して貰います。
あと、マイヤーさんが居たら・・・立ち会わせない事。
して良いのは隣室なりなんなりで声だけ聞かさせてください。」
「はい、わかりました。
マイヤー殿が先走ると思いますか?」
「家族に不幸があれば動くのが人です。
取り押さえておいてください。」
「王都守備隊の隊長をですか?」
警備局員が嫌そうな顔をさせる。
「・・・アンダーセン小隊長に言って、今いる試験小隊でマイヤーさんを抑え込むように伝えておいてください。」
「はい、わかりました。
ではこれから本部と話して捜査を始めます。」
「よろしくお願いします。」
武雄が会釈をするのだった。
・・
・
警備局員と別れ。
「タケオ様、平気ですか?」
スミスが声をかけて来る。
「スミス坊ちゃん、いえ・・・エルヴィス家次期当主殿。
この度はうちの部下の家族を救って頂きありがとうございます。」
武雄がその場に止まりスミスの方に体を向けると深々と礼をする。
ヴィクターとジーナも礼をする。
「タケオ様・・・僕はタケオ様の部下だから助けたのではありません。
困っている人を助けたまでです。」
「はい。
そのお心感謝いたします。」
「さて、タケオ様、どうなりますか?」
アリスが聞いて来る。
「この時期にうちの部下の家族をですよね?
結構な問題になりそうな雰囲気ですが。」
「「ですよねー。」」
アリスとスミスが苦笑する。
「とりあえず第2皇子一家の料理を作らないといけませんけどね。」
「あ、大豆料理ですよね。」
「タケオ様、出来たのですか?」
「今終盤戦ですね。
もう少しで出来ますよ。
エイミー殿下もたぶん厨房でしょう。
一緒に行きましょうか。」
「「はい♪」」
アリスとスミスが返事をする。
武雄達はニール達が待つ厨房に向かうのだった。
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