第851話 拾い者。
アリス達はのんびりと王城に向かっていた。
「んー・・・タケオ様にお土産がないですね。」
アリスがきょろきょろしながら言ってくる。
「タケオさん、何が喜ぶのですか?」
エイミーがアリスに聞いて来る。
「なんでしょう・・・人材でしょうか?」
「じ・・・人材ですか?」
アリスの突拍子もない回答にエイミーが呆れる。
「食べ物系はタケオ様は作ってしまいますし。
人しかないかと・・・あと無難なのは新しい料理か珍しい食材があれば喜ぶかもしれないですね。」
「アリス様があげている物は既に無難というくくりではないと思います。
はぁ。それに紹介できる人材が居ればそもそも第2皇子一家で雇っていますよ。
どの貴族も優秀な人が欲しいですからね。」
エイミーが腕を組む。
とガラの悪そうな人達とすれ違う。
口々に「あのガキ何だったんだ?」「弱いくせにからかったらすぐだったな」「楽な仕事だ」等々話しながらすれ違う。
「あと通り沿いなら干物問屋ぐらいしかないですね。」
「エイミー殿下、普段食べないような干物がご主人様には喜ばれるのではないでしょうか。」
「ジーナ、私達が食べてないのが良いと思いますか?」
「はい。」
エイミーの問いかけにジーナが頷く。
「でもジーナちゃん、普段食べないような物は味がいまいちか調理が複雑かの2通りよ?
タケオ様でも試作なく今日の夕飯には出ないと思うわ。
それに今日の夕飯は大豆料理のはずよ?」
アリスが首を傾げながら言う。
「!!すぐに戻りましょう!
お土産はアリス様とエイミー殿下と私の笑顔で十分です!」
ジーナは食に素直だ。
「ん?マリ、どうしたの?」
マリが立ち止まったのに気が付きスミスが声をかける。
「いえ、路地に。」
「・・・」
その言葉でスミスもマリの目線の先にある物を見る。
暗くて詳細はわからないが、スミスと同じくらい背格好の人間らしき物が壁に寄りかかりながら足を開いて座り、項垂れていた。
「・・・浮浪者にしては態度が大きいですね。
まぁ王都の浮浪者はああなのかもしれないけど。」
スミスが顎に手を当て考えながら言ってくる。
「・・・主はどう思いますか?」
「各街で一時的な宿と食事が取れる場所の設置が義務づけられています。
そちらの管轄になるのではないでしょうか。
それに一人を助けると後から数十、数百人を助けないといけない可能性がありますね。
・・・うちの領内であれば僕は助けます。そしてその後の数百も助けて見せます。だけど・・・」
スミスは難しい顔をさせる。
「スミスの判断は貴族としては正しいわ。
ここは王都。担当部局に事前の許可なく勝手な事をすればいらぬ噂が立ってもしかたないわ。
今は各皇子一家の挙式と懐妊で文官自体が私達に緩くはあるけど・・・流石に王都の治世に手を出すのはマズいという判断は当然ね。
何をしても良いわけではないし・・・タケオ様は何でもしそうですが。」
アリスがため息を付く。
「タケオさんはその辺は事後でどうにでもしそうですけどね。
まぁ王都に住んでいる第3皇子一家も出来ますね。」
エイミーもアリスに同意する。
「・・・アリスお姉様、エイミー殿下。
確認だけでもしてはダメですか?」
スミスが呟く。
「うん、良いんじゃない?
貴族として正しくなくとも施政者として正しい事をする姿勢は大事よ。
でもどんな状態であれ施設に連れて行きなさい。
私達が助けてはいけません。」
「そうですね。
あくまで状況を確認して必要なら施設に送り届けるとすれば平気でしょう。
誰かが何か言うなら私が出来る範囲で擁護してあげます。
送るだけで文句を言う者はいないと思いますけどね。」
アリスとエイミーが頷く。
スミスは2人に頷き1歩踏み出すが直ぐに止まり腕を組んで考える。
「・・・マリ、ヴィクター。
見てきてくれますか?」
「はっ!」
「はい。」
マリがヴィクターの肩に乗り、その者に近づいて行くのだった。
・・
・
「戻りました。」
マリを肩に乗せヴィクターが戻ってくる。
「「「どうだった?」」」
アリスとスミスとエイミーが聞いてくる。
「私が見た感じでの報告になりますが、身なりや体格が浮浪者にしてはしっかりしています。
衣服も汚れはありますが、匂いがほぼありませんでした。
ここ数日前の段階では汚れはなかったのではないかと考えられます。」
「なるほど。」
スミスが頷く。横でアリスとエイミーが考えている。
「また擦り傷や打撲等の外傷もありました。そして腕の骨に何かしら異常が発生しているかもしれません。」
「何かしらの異常?」
スミスが聞き返す。
「はい。腕の鬱血痕が打撲なのかヒビ等による内出血なのか私では判断が出来ませんでした。」
「「「・・・」」」
「現状は意識はなく、その原因はわかりません。
頭部へ衝撃を受けたのかはわかりませんが、出血は見られませんでした。
また顔面の腫れも無いことから顔面への攻撃はなかったと思われます。
マリ殿はどう思われますか?」
「浮浪者ではなく普通に暴行傷害でしょう。
金品はどうなのかは触れていませんがわかりません。
人間の世の理なら警備をする者に任せるべきでしょうが・・・」
マリがヴィクターに目線を送る。
「ふぅ・・先ほどの呟きですか・・・」
ヴィクターが目線を落とす。
「何かあったのですか?」
アリスが聞いて来る。
「いえ・・・意識はないのですが、うわ言を言っていました。」
「『ごめん、父さん。』とたどたどしく言っていました。」
ヴィクターとマリが言う。
「・・・どうしましょうかね?
怪我をしているのなら相応の救護はしても良いかもしれませんが・・・警備局の誰かを連れてきますか?」
アリスが呟く。
「とびっきりのケアが出来る者が今王城にはいますけどね。」
パラスが言う。
「確かにパナちゃんなら確実に直せるね。
それにそうすればタケオにも伝わるか。」
コノハも頷く。
「ん~・・・許可なく王城内には連れて行けないでしょう。
門の所に連れて行ってタケオさん達を呼んでみても良いかもしれませんね。
スミス、どうしますか?
施設に送るか、警備を呼ぶか、王城の門でタケオさんに見せるか、どれを選びます?」
「・・・エイミー殿下をここに留まらせる事も施設に寄り道をさせる事もしたくありません。
ですが、怪我をしている者を放置したくはありません。
マリ、その者を王城の門まで連れて行きます。」
「畏まりました、主。」
マリが大きくなり路地に向かっていく。
「・・・スミス、この程度であれば何か言われても嫌味ぐらいでしょう。
お爺さまに迷惑はかかりません。」
「はい、お姉様。」
アリスの言葉を聞きながら目線は外さずに頷くのだった。
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