第850話 ジェシーと陛下と宰相と議長と。
ここは王城のアズパール王の執務室。
ジェシーがアズパール王に呼ばれてお茶をしに来ていた。
参加者はアズパール王にジェシー、オルコットにクラークだった。
「ゆっくりとしている所を済まぬな。」
「いえ陛下、お呼び頂ければすぐに参ります。
それでどういったご用件でしょうか。」
ジェシーが麦茶をゆっくりと飲む。
「うむ。
今度クリフが王都に異動になった際にカトランダ帝国側で新たに辺境伯を置く可能性がある。
現辺境伯はゴドウィン伯爵のみだ。
率直な所、傍で見ていた者として必要な資質や性格について教えて欲しい。」
「・・・カトランダ帝国側ですと候補貴族は3名しかいないはずです。
それに伯爵は1名しかいないと思いますが。」
「・・・そこだな。
格上げしてすぐに辺境伯というのはマズいだろうか?」
「地域内の友好関係に依るかと思います。
魔王国に面した3伯爵家の内、エルヴィス家が元々辺境伯。今はゴドウィン家が務めてはいます。
そしてテンプル家はした事がないです。
基本的に3伯爵家は昔から見知っていますし、エルヴィス伯爵も辺境伯という肩書を誇示する事はありませんでしたのでゴドウィン家に移す際には何もなかったと思います。
もちろん今度ウィリアム殿下が参られれば即刻辺境伯は返上いたします。
ただ・・・今度就任される方が誇示され始めると、その後王家が後ろに来る際に調整が大変なのではないでしょうか。」
「ジェシーもそう思うか。」
「誰しもが思います。
いくら地方に長年居ようとも孫が後ろに来れば意見を言いたくなったりするのが人という物かと。
その時に他の者が辺境伯で自分と違った意見を通そうとするならばさらに複雑化する可能性があると愚考いたします。」
ジェシーが面倒そうな顔をさせる。
「その通り、面倒だな。
ジェシーの言葉だと伯爵にしてすぐに辺境伯だと・・・周りが納得しないという事か。」
アズパール王がため息を付く。
「なら、順当に第2候補の男子を後ろに据え現状の伯爵を辺境伯にするしかないでしょう。
辺境伯が後援になるのでしょうか。」
「・・・んー・・・それなぁ・・・正室も第1側室も王都出身だ。
現状の通りと言えなくもないが・・・そうなれば王都に孫がいるのか。
発言力がおかしくなりそうだな。」
「はい、難しい物と考えます。」
アズパール王の呟きにジェシーが答える。
「ジェシー殿が言われるようにどちらにしても難しいというのが正直なところです。」
オルコットが言う。
「だが、後ろに据える事を考えて今から準備をしないといけないというのも当然の考えでしてな。
貴族会議としてもどの皇子が行かれるのかによって意見集約をしておかないといけないのです。
これは時間がかかります。
ウィリアム殿下の場合はアルマ殿下、レイラ殿下、2人の実家と姉の嫁ぎ先の中間だろうと事前にわかっていましたので、意見集約が簡単でした。」
クラークが言う。
「・・・」
ジェシーが考える。
結局の所、アシュトン子爵家の待遇をどうするかなのだが。
将来をみた時に良い事も悪い事も同じくらいあるのが問題だった。
「陛下、やはりまだ3人目が出来たわけではありません。
なので、あくまで現状が続くと想定するべきだと思います。」
「3人目が生まれるまではそのように推移させておくのが望ましいでしょう。」
オルコットとクラークが言う。
「なら、地域の総代は現状の伯爵に任せるしかないか。
アシュトンの出方がわからんがな。」
「クラリッサ殿下の懐妊の時にどう動くかを見極めてからでしょう。」
「それが良いでしょう。
一応、貴族会議でもどちらになっても良いような概要を用意はしておきますが・・・
アシュトン現子爵ではなく息子がどう動くか見ておくべきでしょうな。」
「陛下、宰相、議長。
私達魔王国周辺の貴族には何もないのでしょうか?」
「・・・西側の事に首を突っ込んできたい者がいるとは思わんよ。
アルマとレイラとジェシーの子が成人するまで何もないと思っているぞ。」
「そうですね。
魔王国自体が脅威です。
それに対する4領主が仲が良いのは良い事です。
現状の領土の保持をして頂けるのなら王都からは特にありません。」
「貴族会議も特に魔王国方面への注文はありません。」
「・・・西側も大変ですね。」
ジェシーがため息を付く。
「降って湧いたような・・・違うか。
全ては我が決めた結果だ。それにいつかはしないといけない事だったのは確かだ。
で、辺境伯に必要な資質はなんだと思う?」
「戦いに慎重である事、他の領主に頭を下げられる度胸がある事、部下からの進言を真摯に受け止める度量がある事、1領地ではなく地域全体で物を見れる事・・・最後に他人を羨まない事。
以上かと思います。」
ジェシーがきっぱりと言う。
「・・・はぁ・・・
アシュトンは伯爵にはなれん器だろうな。」
「ええ、そうでしょうね。」
「まぁお話を聞く限りは。」
アズパール王もオルコットもクラークもため息を付く。
「そこまで酷いので?
こう言っては何ですが、うちのフレッド・・・ゴドウィン伯爵も能力はそれなりで頑張っています。
あの程度で伯爵なのですから何とかなるのではないでしょうか。」
ジェシーが自分の旦那をぼろくそに言う。
「・・・うん、ジェシー、お前の方が上手く旦那を転がしてくれるからそうなっているのだぞ?
資質的にはゴドウィンも大した者なのだからな?
あれでも学院次席なんだぞ?」
アズパール王がため息を付く。
「そうなのですか?というより陛下は良く知っておいでですね。」
「クリフと同期だからな。
王城にも遊びに来ていたんだ。まぁ若い時しか知らんがな。」
「・・・そこは聞いていませんでしたね。
そうですか、ふーん。」
「・・・ジェシー、旦那を大事にしろよ?」
「わかっております。
子供が出来るのですから・・・もっとしっかりして貰わないといけませんね。」
「たまには気を抜かせてやれよ?」
「はい、わかりました。」
ジェシーが苦笑する。
「ジェシー、すまんがもう少しこの話に付き合ってくれ。
オルコットもクラークもな!
全然決心が付かないぞ。」
「はい、畏まりました。」
「はいはい。」
アズパール王の執務室で雑談がはかどるのだった。
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