第844話 アンとクリナの考え。
武雄達が居る厨房。
氷柱に武雄が止めどなくお湯をかけて簡単に解凍を終えていた。
そして海水の火加減を見ながら調理人達が魚を捌いている。
(魚の鱗は綺麗に取ってくれた)
武雄は「3枚におろしましょう」と言ったら「3枚とはなんでしょうか?」と返されたので「日本以外だと通じないのか」と認識し、まずは3枚おろしの説明を始めた。
で、流石は王家の料理人。説明したら「あぁ、身と背骨を分けるのですね。」と直ぐにわかり対処してくれている。
今、武雄はおろしはせずに鯛のような少し大きめの魚の尾を持ち上げて見ていた。
「ん~・・・タケオさん。」
クリナが武雄に話しかけてくる。
「クリナ殿下、どうしましたか?
あ、そろそろお腹が空きましたか?
立派な魚なのでこれを焼きましょうかね。
魚は食べられますか?」
「あ、はい!魚の塩焼きは好きです!
・・・違います。
昨日のアンのやりとりなのですが。」
「クリナ殿下、何か考え込んでいましたね。」
「あ~・・・タケオさん、昨日のはクリナには何も言っていないわ。」
リネットが苦笑する。
「昨日?俺らが部屋に入る前か?」
「ええ、ニールでん・・・ニール。
アンとクリナがタケオさんにリバーシで勝負を挑んだのだけど・・・
ちょっと特殊だったんです。」
「ほぉ、どんなだったんだ?」
リネットの顔を見てからニールが楽しそうに武雄を見る。
「ではクリナ殿下、その場の話を見たままを説明して貰えますか?」
「私ですか?」
クリナが首を傾げる。
顔で「タケオさんが話した方が早いでしょう?」と語っている。
「私はこの魚の準備をしながら聞きますよ。
ニール殿下、リネット殿下も焼き魚で問題ないですか?」
「問題ないぞ。」
「何が出て来るのかしら?」
ニールとリネットが頷く。
「わかりました。
私は作業をしながらクリナ殿下の話を聞いていましょうかね。」
武雄が魚の内臓を取り除きにかかるのだった。
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こっちは第1皇子一家の部屋。
パット以外がお茶をしていた。
今日のお茶は特訓を受けたアンが出していた。
クリフは「うん。アン、美味しいぞ」と言うに留まったが、内心は「うちのアンは優秀だ。こんな美味しいお茶を作るなんて天才なんじゃないか?」と小躍りしたい衝動を抑えていた。
ローナとセリーナはそんなクリフを見ながら「アンには甘いんだよなぁ」と思っている。
クラリッサは「良かったですね、アン殿下。3人とも嬉しそうですよ」と感動している。
で、こっちでも昨日の話をしている。
「つまりアンはタケオにスイーツを作らせたいから勝負を挑んだということだな?」
「はい、お父さま。
で、タケオさんが『5回のうち3連続で勝てば作ってくれる』という条件で・・・2戦目と3戦目で負けてしまいましたが。」
「ふむ?
ローナ、セリーナ・・・いや、クラリッサに聞いてみようか。
クラリッサはどう思った?」
「・・・タケオさんは正確には『5回戦う内で3回連続で勝てば』と言ったのですけど。
殿下、これって・・・」
クラリッサが難しい顔をさせる。
「・・・それは・・・
だが、その条件が提示されてもアンもクリナも何も言わなかったのだな?」
「はい。」
「クリフ、これって言葉遊びになってしまうけど・・・タケオさんの意図は何だと思う?」
「そもそもスミスの交渉力と度胸付けが目的だったのだろう?
アンとクリナの意識改革の一環だろう。
敗北の時の条件が・・・このお茶だな。」
「ええ。アンが料理の腕を上げてくれて頼もしいわ。
アウクソー殿、ありがとう。」
セリーナがアウクソーに言うとアウクソーは頷く。
「そして結果的にはタケオさんは皆にスイーツを作ってくれたわ。」
ローナが言う。
「ふむ・・・5回戦う内で3回連続で勝つか・・・タケオはちゃんと逃げを用意しているな。
だが、その後すぐにスイーツを作ると言ったという事は作る事自体を嫌がっていない。
やはりアンとクリナへの教育だったと結論付けるしかないか。」
「まぁね。
でも、アン。あの時即答で返事をしない方が良かったのよ?
少なくともクリナと話す必要はあったわね。」
セリーナが言う。
「え?だって5回の内3連続で勝てば良かったのですよね?
即答も何もタケオさんは私が受けるかどうかを聞いたから答えたのですけど?」
アンが「はて?」という顔をする。
「3回連続・・・普通に考えるなら3連勝で良いとなり、確かにタケオさんからすれば3戦目に1回勝てば良い簡単な勝負で、アン達からすれば最初の2戦は落とせて3戦目以降全勝すれば良いとなって、アン達に不利ではあるけど勝負に対等なんてないんだからそれでアンがやると言ったのなら成立するわ。
でもね、タケオさんの口から3回連続と言われて違和感があったのは確かなのよ。
本当はここでクリナと1回打ち合わせをする必要があったわね。」
セリーナが考えながら言う。
「はい。
そこで一緒に勝負に来ているクリナで・・さんと話をして確認をするべきだと思うのです。
それにタケオさんは『2連勝を3回すれば』と言っているようにも聞こえました。
普通に考えれば3連勝なのですが、タケオさんが『3回連続』と言った後にアンさんが『3連続』と言い直しているのを訂正はしていないので・・・問題はないと思うのですが・・・」
「相手に寄るがその不安は真っ当だろう。
万が一、タケオが負けて『2連勝を3回と思っていましたが、確認されませんでしたよね?』と言われたらこちらは受けた立場、何も言えないだろう。
良くてその勝負は無効だろうな。」
クリフが難しそうな顔をさせて言う。
「・・・あの・・・父上。
5回戦う内の2連続で3回とはつまりは6勝する事。
どうやっても勝てませんが?」
アンが「何を言っているのですか?」という顔をさせる。
「だからね、アン。
アンの考えとタケオさんの考えが違っていたかもしれない勝負をしたのよ。
これってとてもマズい事でね。
即決をする前にクリナと話してタケオさんに確認すれば良かったという教訓なのよ。」
ローナが言う。
「?・・・タケオさんがそんな『やる前から決まっている勝負』を私にするのですか?
負けているので確認は出来ませんけどぉ。」
アンが首を傾げて考える。
「そうね、もう確認は出来ないわね。
でもタケオさんだからその結果だったけどね。
もし・・・そうね、何か重要な交渉をしている時に双方の見解が違う事が無いようにしないといけないというのが基本なのよ。
なので次回は条件が相手から提示されたら即決をするのではなく周りに誰かいるのなら相談する。
確認が必要ならその場で確認をする事を学ばないといけないわね。」
「はい!わかりました!」
アンが返事をするのだった。
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