第839話 ライ麦の交渉価格。11(スミス本番。)
ここは厨房の横にある休憩室にて。
席に着いたスミスは周囲を見回し「おかしい・・・」と首をうなだれていた。
席には武雄、スミス、料理長と専売局長と経済局長とオルコットが居た。
パナとマリは武雄達の後ろに立っている。
「・・・なんでオルコット宰相と専売局長と経済局長がいるのですか?
貴族会議はどうしたのですか?」
武雄が呆れている。
「先ほど終わりました。
キタミザト殿、ジーナ殿の関連法案は通りました。」
オルコットが会議結果を報告してくる。
「・・・クリフ殿下、何を言ったのでしょうかね。」
「いえ、説明内容は普通でしたが状況が状況ですのでジーナ殿の為の法案だと思ったまでです。」
「はい、ありがとうございます。
それでどうしてこちらに?」
「いえ・・・会議後に経済局長と話をしようと一緒に局長室に戻ったらどこぞの貴族の方が国内の穀物生産高の資料を要求されたと伝言がされておりましてね。
その後に料理長からも価格動向の資料要求が来ていたようで事情を聴きに来たのが今なのです。」
「やましい事はしていませんよ?」
「なら同席しても平気ですね。」
「まぁ・・・良いですが。
専売局長はどうしてですか?」
「経緯的には私もオルコット宰相殿と同じですね。
私の場合は料理長に呼ばれましたが。」
「・・・担当官で良かったんですが・・・」
料理長が苦笑する。
「はぁ・・・初交渉なのに・・・上過ぎる・・・
スミス坊ちゃん、頑張ってください。」
武雄は諦めるのだった。
「うぅ・・・頑張ります・・・」
スミスは呟くのだった。
「皆さま、こちらが新種のお茶でございます。」
ヴィクターが皆に麦茶を配膳する。
「ほぉ。」
「色が濃いですね。」
「見た目では味がわからないですね。」
新たに見た3人が麦茶を見ながら感想を言う。
「うん。ヴィクター殿、味も先ほどと同じですね。」
料理長が1口飲んで頷く。
「ありがとうございます。」
その様子を見て3人も口を付けて無言で頷く。
「さて、これはライ麦から作った妊婦と子供用のお茶です。」
「「「ほぉ。」」」
3人が頷く。
「この度、こちらのエルヴィス家次期当主より王城の料理長に直接納入出来ないか。
そのご提案と見積りを提出しに参りました。
料理長、お時間を頂きありがとうございます。」
「いえいえ。
ではエルヴィス殿、ご説明をお願いしてよろしいですかな?」
「は、はい!皆さまよろしくお願いします!」
スミスが頭を下げ、初交渉が開始されるのだった。
・・
・
「以上が私どもの所から買われる際の利点だと思います。
そして3年間ごとに卸し価格の改定をお願いいたします。」
スミスは汗をかきながらさっきの打ち合わせで決めたことを説明していた。
「ふむ・・・エルヴィス殿、見積もりはありますか?」
料理長が頷きながら聞いて来る。
「はい。
こちらが月毎にお納めする30㎏毎の卸値になります。」
スミスが書面を料理長の前に出す。
厨房に入る少し前に武雄がスミスに言っていた「見積書は最後に提出を心掛ける」を実践していた。
スミスは最初から提示すると思っていたので「なぜですか?」と聞くと。
「金額が最初だと話が入ってこないんですよ。なのでまずは最初に言いたい事を言っておくのです。」
と苦笑していた。
「・・・ふむ。
オルコット宰相、こちらがうちの予算とエルヴィス殿の見積書です。
7番目の項目で買おうかと思っています。」
料理長が傍らに置いていたノートと一緒にオルコットに見せる。
「なるほど・・・では、ここはこうでしょうね。
あとで財政局には言っておきましょう。」
オルコットが料理長のノートにペンを走らせる。
「ほぉ・・・わかりました。ありがとうございます。
で、専売局長。」
「担当官に了承は貰ってきました。
一部負担でお願いします。」
「わかりました。
ではエルヴィス殿、この見積りは30㎏ですが、40㎏にして貰えますか?
もちろん30㎏の価格を1㎏にして頂いてから40㎏分にして構いません。」
「え・・・」
スミスが想定外の事に固まる。
武雄は「そうかぁ、想定量が少なかったかぁ」と隣で思っているが何も言わない。
スミスがどう判断するか見守る。
「わ・・・わかりました!
月々40㎏、年480㎏を3年間卸させて頂きます。」
スミスは小さいが確実な1歩を踏む。
武雄はスミスの即決を目にして嬉しそうに頷く。
「ではエルヴィス殿、この金額をあとで書き換えて持って来て貰えますか?
正式に総監局を通じてエルヴィス家に発注書を送付させて貰います。
また、3年間、毎月月初めの発送をお願いします。
月末に専売局の馬車がエルヴィス邸がある街に到着しますのでその帰りに積んで貰ってください。」
「え?・・・はい!わかりました!」
スミスがコクコク頷く。
「ではエルヴィス殿、これからよろしくお願いします。」
料理長が席を立ち手を出してくる。
「あ・・・はい!よろしくお願いします!」
スミスもすぐに席を立ち料理長の手を取るのだった。
・・・
・・
・
スミスとマリとパナ、そしてヴィクターは先に妃達がいる部屋に返した。
見積は清書し再度持って来るとした事と輸送方法も記載しようとなり、ヴィクターが清書する事になったので一緒に戻した。
武雄は今、厨房の料理人に指示を出しながらスイーツの作成をしている。
「で・・・お三方、まだいるのですか?」
武雄が厨房の隅にいる幹部3人を見ながら呆れる。
「美味しい物が出来そうな予感なんですよね。」
「会議で頭も使いましたしね。」
「お茶が美味しいですね。」
武雄の言を全く気にもしないでのほほんとしていた。
「はぁ・・・もうすぐ準備が終わりますよ。
もう少し待ってください。」
「「「ほぉ♪」」」
大の大人が嬉しそうに答える。
まぁ年齢関係なく美味しい物は待ち遠しいのはわかるのだが。
「キタミザト殿、スミス殿は初陣を飾りましたね。」
料理長が夕飯の指示を出し終わり武雄の下に戻って来る。
「そうですね。
オルコット宰相どうでしたか?」
「初々しさが良いですね。
上手く即決もしていたようです。
初めて即決をする時は小さい事でも緊張しますからね。」
オルコットの言葉に専売局長と経済局長も頷く。
「孫の年の子が初交渉ですよ。即決する時の緊張が伝わってきました。
もう泣きそうでした。」
「いやぁ、あの30㎏を40㎏にする覚悟をした時の顔。
将来有望でしょう。あはは。」
3人とも孫の年齢の男の子の初陣が楽しいようだ。
「それにしても料理長、輸送を専売局に頼むのですか?」
「ええ。直接購入だと輸送料がうち持ちですからね。
で、キタミザト殿が専売局に行ったのを思い出して。
『あ、そう言うやり方もあるか』と思って相談の手紙を書き置きしたのですが。
局長が来るとは思っても居ませんでした。」
「いや、部長も課長もウィリアム殿下の方の打ち合わせに行っているみたいでしたのでね。
下の者が困り顔で相談に来たので私が対応したのです。
それに面白そうでしたし。」
専売局長が楽しそうに言う。
「キタミザト殿、材料の用意出来ました。
如何しましょうか?」
料理人が聞いて来る。
「はい、では作ってみましょうか。」
武雄が席を立つ。
「「「試作期待しています。」」」
年甲斐もなく楽しそうにする3人に見送られるのだった。
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