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第832話 ライ麦の交渉価格。4(エリカの独白。)

「不安ですか・・・

 人それぞれ大なり小なり不安がある物でしょうけど。」

「タケオさんもあるのですか?」

「ありますよ。

 私がしている事業は説明しましたよね?」

「えーっと、服とか酒とか文房具とか・・・」

「あれ、失敗したらその店潰れるんじゃないですかね?」

「は?」

エリカが呆気にとられる。

「5軒くらいですけど・・・はてさて、その家族の命運も私の事業の出来栄え次第ですね。」

「・・・タケオさん、何を呑気に・・・」

エリカが呆れる。

「私は出来る事はしました。

 あとは勝手に動いています。

 陛下も気に入ってくれたみたいですし、王家の方々も楽しそうですし・・・これなら当分は賄えるとは思っていますよ。」

「・・・タケオさん、何もしないのですか?」

「たぶん今はごり押しをする時期ではないでしょうね。」

武雄が腕を組んで考える。

「時期・・・ですか?」

「今は王家の人達や同期の貴族に紹介出来たという実績で十分です。

 他の・・・例えば文官にも教えるとか街の店に卸すというのはしてはいけない時期でしょう。」

「・・・一気に売るのではないのですか?

 その・・・大量に売れないと店が・・・」

「それは次の段階でしょう。

 今は最初の目的が達成できたので良しとします。

 それにすぐに店が潰れる訳ではないですよ。

 エリカさん・・・最終目標だけが(・・・・・・・)仕事ではない(・・・・・・)のですよ。

 もちろん私達は具体的な人材の配置や建物の形、机の並びまで考える必要はありません。

 私達は起案、発案する為の人材であって、具体的に行動するのは他の人です。

 物事を起案し、説明し、了承が取れたのなら、その物事が工程通り進んでいるのか。

 具体的に誰かが物事を進めた際に起案とズレていないのかを確認するのがお仕事です。

 そして結果的に最終目標を達成していれば良いのです。

 何でもかんでも自分一人でしなければならない事なんてありませんよ。

 誰の為の組織で何の為の説明だったのですか?」

武雄が優しく言う。

「・・・卸売市場は私の起案・・・だから私の責任で・・・」

「まぁ責任感を持ってするのは良い事ですけど。

 それ根本の所を間違って解釈してはダメですからね?」

武雄がワザと呆れた顔をさせて言ってくる。

「え!?」

エリカが顔を向ける。

「エリカさん、貴女は第3皇子一家に雇われているに過ぎません。

 確かに起案はエリカさんでしょう。エリカさんの頭の中にしかない物を作るのですから決める事は多いでしょうね。

 でも、その全ての決裁権はウィリアム殿下が持っています。

 エリカさんが単独で決められる物はありません。

 どんな書類も殿下方へ説明し、承認がされているはずです。違いますか?」

「あ・・・」

エリカは今までの作業をフラッシュバックで思い出す。

ウィリアムもアルマもレイラも「好きにして良いよ」と言いながら要所要所でエリカの仕事を見ているし、エリカも随時3人には説明をしている。

文官や領民に説明する際は第3皇子一家の名と列記して配布もしていた。


「エリカさん、卸売市場はエリカさんに全責任を負わせる体制で行ってはいないはずです。

 第3皇子一家・・・いや、一家付きの全文官と領民、皆の事業なのです。

 文官も領民もそれがウィリアム殿下達がやりたい事だから成し遂げようとしているのです。

 エリカさん、自分一人で全てを考えないといけないと思うのはダメです。

 わからないなら局長達に振れば良い。彼らは専門家です。

 適切に判断するでしょう。

 エリカさんはその自分ではわからない事を専門家に提案させ、それがエリカさんが欲しい答えかどうかの判断をすれば良いのです。

 そしてそれをまとめて殿下達に報告する事がエリカさんのお仕事です。」

「・・・それは・・・そうですが・・・

 もしこの卸売市場が失敗すれば多大な損失が・・・」

「失敗・・・ね。

 ・・・エリカさん、エリカさんの言う失敗とは何ですか?」

「え・・・それは・・・人が来ない事・・・皆に愛想尽かされ相手にされない事・・・」

エリカがボソッと呟く。

武雄は「最後は本音が出たかな?」と思う。

「人が来ない・・・

 誰かに言われましたか?」

「いえ、皆その点は気を使って言わないです。」

「・・・まだ数年先の出来高を考える段階ではないからではないですか?」

「そうなのでしょうか。

 皆で私に気を使って言わないだけではないですか?」

エリカは負の考えを繰り返している。

「局長達に聞きましたか?

 卸売市場をした場合に想定される流入量を試算しているはずです。」

「あ・・・しているでしょうか?」

「宿や城門の警備等々で概算はしていないと街区が作れないと思いますよ。

 それに・・・1つの政策で人の流入が足らないなら他に入るような政策を考えれば良いだけでしょう?」

「た・・・例えば?」

「例えば・・・冒険者組合の魔王国に面した4地域の長会合を定期的に開いて貰うとか、あるかはわかりませんが、輸送組合とか衣服組合とか組合の会合を誘致したり・・・あと4貴族の軍務局長の集まりがある時に武器商や魔法具商店の組合とかを呼んで見本市を開けば、商店主だけでなく冒険者達も集まりそうです。」

武雄はポンポン発案する。

「タ・・・タケオさん、それはエルヴィス家では・・・」

エリカが身体を抱きながら言ってくる。

「地域の会合をエルヴィス家が招致して・・・あまり利益は無さそうですね。

 この手の会合は中心地(・・・)でする事に意味がありそうですよね。

 まぁ最前線の関を見学するとかならわかりますが、毎回は無理でしょうし。

 それよりも会合にひょっこり殿下が遊びに行けば楽しそうですよね。

 特別感がでそうです。」

武雄が首を傾げながら考えを言う。

「・・・」

エリカは目を見張るしかないのだった。

「エリカさん、責任感を持って仕事をするのは大切です。

 でも1つの政策だけで領地運営が傾く事はありませんし、あってはならないのです。

 卸売市場は確かに新しいやり方で注目はされるかも知れませんが、誰もやった事がないなら失敗して当たり前です。

 それについて責める人がいるなら・・・ま、どこにでもいるでしょうかね。

 それよりも人が来ないかもしれない?商品が届かないかもしれない?業者が集まらないかもしれない?

 不安を言い出したらキリがありません。

 そしてエリカさん、それは皆も思っている不安なんですよ。」

「!?」

「特に不安に思っているのはウィリアム殿下にアルマ殿下とレイラ殿下だと思いますし、各局長だって不安でしょう。

 皆が皆初めての事なのです。不安がない方が変ですよ。

 エリカさん、殿下達に報告はしているのですね?」

「はい。」

「では、エリカさんは殿下達に自分の不安の話をした事はありますか?」

「ない・・・です。

 でも殿下達に不安を相談して良いものなのでしょうか?」

「何故ダメだと思いますか?」

「・・・私が・・・役立たずと・・・思われ・・・」

エリカは顔を伏せてボソッと言うのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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