第830話 ライ麦の交渉価格。2(スミスの成長。2)
「え?数年後?」
スミスが聞き返す。
「そうね。
流通量が少ないライ麦が王家でも買われることを想定するとライ麦の販売価格が上がる可能性があるわ。
ならスミスが想定している現状のライ麦の価格をいつまで続けるかというのを確約する事で王城内の予算編成に着実に反映させようというのが1つ。
そして予算よりも多い金額で納入する他の業者・・・特に問屋達は値下げという形を取らないといけない。
高々360㎏程度の穀物の取引で値引きをするかというと・・・しないわね。
他に納入している穀物も値引きの対象になりかねないのに1品目では対抗は出来ないわ。
もしかしたら穀物全体の値引きならするかもしれないけど・・・そこは難しいわね。」
ジェシーが腕を組んで言う。
「スミス、価格の上昇は確かに予算を組む私達施政者からの考えでは嫌な事ではあります。
でも価格上昇というのは農業に従事している者の実入りが増えるという考えもまたあります。
なので一生とかの長期の低価格は打ち出せません。
そこを考えていつまで現状の価格で卸すかの判断をしないといけません。」
アリスが指摘してくる。
「んー・・・ライ麦を作ってくれている人達・・・何年後・・・
例えば3年でも良いのでしょうか?」
スミスがアリス達に向かって聞いて来る。
「なんで3年なの?」
レイラが聞く。
「えーっと・・・
予算編成はタケオ様の言う通りなら最低でも1年前から始まります。
という事は今年はもう決まっています。
ライ麦を買うなら今年は何とか金額を見繕って貰って、2年後と3年後の予算ではうちの価格を反映してもらいます。
そして3年というとウォルトウィスキーの増産完了の時期になります。
そこで王都にもウォルトウィスキーが卸せるようになります。
ならその時点でライ麦の価格交渉をするべきだと思います。」
「「「??」」」
ジェシーとレイラとアリスが「え?どういうこと?」という顔をさせる。
武雄は「なるほどね」と頷いていた。
「え?・・・タケオ様、ダメですか?」
姉達が反応しないのでスミスは武雄に顔を向ける。
「私個人としては、その考えは好きですよ。
でもウォルトウィスキーと一緒に輸送をして輸送代を浮かせようというのは見積上ダメですね。
それは輸送業者がする手段で私達が今からそれをしなさいという物ではありません。
なのでその手段は頂けませんね。
それに輸送代は基本向こう持ちにして欲しいですね。」
「・・・そうなのですか。」
スミスがシュンとする。
「え・・・タケオ様、どういう事ですか?」
アリスが聞いて来る。
「ん?アリスお嬢様、物を輸送する際にどちらが負担するというのは事前に決まっていますよね?」
「はい・・・基本的には仕入れ先がする物かと。
あ!スミスはそれをうち負担だと!?」
アリスが驚き顔をスミスに向ける。
「え??」
スミスがアリスの慌てように驚く。
「ダメよ!スミス!基本は向こう持ちなの!
余程の事がない限り発送者側では負担しないの!
それに王都のこの価格だと輸送費用は見込めないのよ!?」
「そうなのですか・・・」
スミスがガックリとする。
「あ・・・危ないです・・・」
アリスもガックリとする。
「ん~・・・アリスの言い方に問題があるけど。
王都のその価格はその問屋や販売店が全穀物を仕入れた際の輸送費用の総額から換算して乗せられているし、経費も乗せられている。
ライ麦単体の価格だけだと輸送費用は見込めないわね。
まぁスミスが言ったウォルトウィスキーに相乗りで輸送という手段も今の段階では確実性に乏しいから難しいわね。」
ジェシーが言う。
「でもスミスのいう3年後というのは現実性があって良いんじゃないかな?
それにジェシーお姉様の言う利益分は3年間の利益としては十分だしね。」
レイラが言ってくる。
「そうですね・・・
それと料理長に3年後にどうやって価格交渉をするかの考えもここで提示しないといけません。
スミスはどう考えていますか?」
アリスが聞いてくる。
「今回のように王都内の穀物屋さんの金額の平均を取ってその金額で交渉をさせて欲しいと思うのですが。」
「それは真っ当ですね。その通りで良いと思います。
タケオ様はどう思いますか?」
「その通りで良いのではないですか?
出来れば『最上位と最下位の価格を抜いた残りの価格の平均を卸値とさせて欲しい』とすれば料理長は喜ぶでしょうね。」
「タケオさん、いやらしいわ。」
レイラがジト目で言ってくる。
武雄はそんな言葉を気にもしていない。
「え?レイラお姉様、どういう事ですか?」
スミスが聞いて来る。
「スミス、それは『王都で最上位の価格』とは王城に卸している問屋を指しているからよ。」
いつの間にかエイミーが来ていてスミスに言う。
「エイミー殿下、混ざりに来ましたか?」
武雄が楽しそうに言ってくる。
「た・・・楽しそうでしたから、つい。」
エイミーがそっぽを向く。
武雄が王妃達の方に目線を向けるとリネットが手を合わせて「ごめーん」と楽しそうにしていたし、他の面々も楽しそうにしているのだった。
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