第822話 87日目 第二研究所の会議。1(トレーシーに教えよう。)
朝食前に武雄とマイヤーはアズパール王の書斎に行きウィリプ連合国への買出しの命令書と軍資金を貰い、ついでにテイラーへの依頼金も貰っていた。
そして武雄はマイヤーと別れ朝食を済ませてから、彩雲にエルヴィス邸までの連絡(手紙運搬)をお願いして身支度を整えてから王城を出ていた。
ちょっと寄り道をしたものの武雄とアリスは皆が来るよりも早く着いてしまい、第八兵舎の第3会議室でのんびりとしていた。
ちなみに王家一家は貴族会議に臨むと考えていたがアズパール王とオルコットが話し合い、結局「皇子達だけで良い」となり、結局は皇子妃達は暇になったのでジェシーとスミスを呼んでのお茶会を開催する事になった。
「・・・タケオ様、誰も来ませんね。」
「ええ、来ませんね。
ですが昨日、アンダーセンさんから言伝があったのでしたよね?」
「はい。タケオ様がバーに行っている時にブルックさんが来てくれました。
あ~・・・まだ早いと言えば早いですね。」
アリスが懐中時計を見ながら言う。
「そうですか・・・」
武雄は1枚の書面を見ていた。
「タケオ様、何を見ているのですか?」
アリスが手持ち無沙汰の様で武雄に聞いて来る。
「ここに来る途中で冒険者組合に寄った際に書いてもらった現在の入金されている金額の証明書を見ているのですけどね。」
「タケオ様も入金していましたよね。」
「ええ、しましたね。
まぁその合計の金額を見ているのですが・・・まぁ過度の期待というのは大変ですね。」
武雄がじーっと証明書を見ながら言ってくる。
「??・・・タケオ様、何が言いたいのですか?」
「・・・金額は教えませんが・・・」
「教えてくれないのですね・・・」
「旦那のへそくりまで管理はして欲しくないですよ。
まぁいつかはわかるでしょうけどね。今見たいですか?」
「今見たいです!」
「じゃあ良いですよ。」
武雄があっさりと許可を出すとアリスが覗き込んでくる。
「・・・え?・・・一、十、百・・・あれ??・・・一、十、百・・・」
アリスが何回も桁を数えている。
「・・・アリスお嬢様、そんなに数え直さないといけない程の桁はないですよ。」
「いや・・・タケオ様。昨日は冒険者組合に入っているのは170枚で手持ちと合わせても230枚程度と言っていましたよね?」
「ええ。」
「・・・何で金貨770枚になっているんですか?」
アリスが静かに聞いて来る。
「金貨100枚はさっき入金したんですよね。
たぶん残りの金貨500枚が総監局からですね。」
「・・・これが報奨金なのですか?」
「そうなりますね・・・貴族報酬より多いとはなんでしょうね?」
武雄がため息をつく。
「まぁ、男子を産むのは国家の大事と捉えるとその切っ掛けを作ったのですから報奨金自体は順当なのでしょうけど・・・総監局は何を考えているのですか?」
「わかりませんね・・・他の貴族に身ごもった際に男女の性別を言わない事と祝福はしないというのしか言われていません。」
「それが金貨500枚・・・ですが、とりあえずこれで農夫を雇えそうですね。」
「2名か3名を雇えたら良いですね。」
武雄は朗らかに頷く。
と扉が開き隊員達が入ってくるのだった。
・・
・
程無くして鈴音とケイとパメラを除く研究所の全職員が揃う。
席はロの字形に机を配置してある。
ヴィクターとジーナは皆のお茶を出していた。
「さて、マイヤーさん、始めましょうか。」
「はい。
全員起立!所長に対し礼!直れ!着席。」
マイヤーの号令で全員が綺麗に礼をしてから座る。
「はい皆さん、改めておはようございます。」
「「おはようございます。」」
「トレーシーさん、学院は忙しいと聞きましたが?」
「ええ、とっても。
ある意味この会議が息抜きです。」
「・・・心労で倒れないでくださいね?」
武雄は若干哀れみながら聞いてくる。
「ええ、ご心配ありがとうございます。
まぁ後任の指導がほとんどなので精神的な疲れですから問題はないですよ。」
「・・・わかりました。」
武雄は「そっちじゃないけどね」と思いながらも頷く。
「では、前回の会議後から昨日までに起きた事、するべき事の概要をざっと話をしていきます。
質問は要所で・・・いや最後まで待っていただきましょう。
最後に皆で話し合いましょう。」
・・
・
武雄が語ったのは鈴音から始まる精霊の事と懐妊劇、国策による街道事業、今後5年間の軍事計画と現状は魔王国での慣例の戦争の可能性、スライムの各事業とスライムの共存体制、武雄の各事業の説明を行った。
そしてこの場にいるコノハとパナが皆に挨拶を済ませていた。
「はぁ・・・」
トレーシーが机に肘をつき、額に組んだ手を当ててでっかいため息をつく。
他の面々も武雄の幅広い事業内容に呆れている。
「さて、粗方話しましたかね。
トレーシーさんが倒れなくて良かったです。
では質問を受け付けますよ。」
武雄が苦笑しながら聞いてくる。
「・・・全部が驚きで、事業の手広さにも感心しますが。
私以外の研究員が精霊魔法師と精霊なのですよね?」
トレーシーが難しい顔をさせて聞いてくる。
「ええ。トレーシーさんの経緯を知っていると中々踏ん切りと言うか気持ちの整理が大変でしょうが・・・自力で乗り切ってください。
パナ、貴女の上司になります。」
「よろしくお願いします。」
「パナ、言っておきますが、トレーシーさんの報告で貴女が言うことを聞かないとか言ってきた場合、ペナルティがありますからね?」
「ど・・・どういった事を?」
パナが驚きながら聞いてくる。
「反省するまで研究をさせません。
研究所の1階には喫茶店がありますからそこで配膳係です。
さらに薄ピンクの超ミニスカでブリブリなフリル付き衣装を着て好奇の目にさらされなさい。」
「ぐっ・・・それは嫌です・・・」
パナが嫌そうな顔をする。
「嫌なら上司とちゃんとしたコミュニケーションを取りなさい。
何でも従えという訳ではありませんが、苦言にはちゃんと従いなさい。
わかりましたか?」
「はい・・・ちゃんと話し合います。」
パナが渋々頷く。
「タケオ、タケオ、私がそれを着て喫茶店で働くから給料アップでどぉ!?」
コノハがやる気になる。
「・・・なんでやる気になりますか?」
武雄が首を傾げながら言ってくる。
「いや・・・可愛らしそうでしょう?」
「嬉しがる人に着せるつもりはありません。」
武雄がため息を付いて答える。
「・・・タケオ様、『ちょうみにすか』って何でしょうか?」
アリスが不思議そうな顔をさせて武雄に聞いて来る。
他の面々もわからないようだ。
「「「・・・」」」
武雄とコノハとパナが顔を見合わせる。
「・・・タケオ、確かにこの世界だと(足を)出していない事が普通らしいわ。」
「そうですか・・・なら、知られる前にコノハ、パナの罰用衣装は作ってください。
店は・・・ラルフ店長で良いでしょう。
帰ったら店は教えますから金貨5枚で作れるように交渉してください。」
「わかりました♪」
「罰則ありなんですか・・・
従いますよ!従います!」
コノハは嬉しそうに頷き、パナは凄く嫌そうな顔をさせる。
アリス達は「何を作るの?」と不思議そうな顔をさせるんだった。
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