第813話 武雄は散策へ。4(めでたい時の食材と王都側の考え。)
武雄は王城への帰宅途中に干物屋に寄っていた。
パナは人間大になり、棚を隅々まで見ている。ミアはパナの肩に乗り一緒に物色している。
時折「パナ、この干物はどうなのですか?」「これは擂って粉にすると簡易的な回復の薬になりますね。」
等々食べ物の話というよりも薬の講義をしているようだった。
武雄は一人で物色してくる。
今回の武雄の探し物は吉事に出す食材。
まず最初に頭に浮かんだ鯛の尾頭付きを探していた。
「・・・鯛の干物がない・・・あ~でも鯛の尾頭付きは生でないとダメなのかなぁ?
これは・・・小魚の干物だし。」
武雄はブツブツ言いながら見ている。
王都は海に面していない為、鮮魚がなかった。
まぁ干物屋に来ているのである訳はないのだが、道すがら見た感じでは魚屋は存在していなかった。
「あ、アワビ・・・これを魚醤で煮付けてみるのもありかも。
そして刺身みたいに薄く切れば食べられるかなぁ?
でも煮つけには日本酒かぁ・・・ないからなぁ・・・んー・・・
砂糖、魚醤、塩・・・あとは料理長に言って香料を入れるかな?
あ、アワビを水で戻すのって大変そうだよね・・・
今日やり始めて1日か2日はかかるかな?」
武雄はしたことがない料理を考えながらお祝い料理を考えるのだった。
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ジェシーの部屋にて
「・・・」
「・・・」
「・・・」
アリス、ジェシー、コノハは保健のノートの書き写しをしていた。
スミスはスーをお腹の上に乗せベッドで寝ている。
室内には紙とペンの音しかない。
静寂の中、マリは床に正座をして黙想をして精神を鍛えているし、ヴィクターとジーナとパンニューキスは扉横で待機している。
・・
・
と部屋の扉がノックされ、ジェシーが許可を出すとオルコットが入ってくる。
「失礼します。
こちらにキタミザト殿はいらっしゃいますか?」
「いえ。オルコット宰相、タケオ様はまだ戻っていません。
タケオ様をお探しですか?」
アリスが聞き返す。
「はい。
先の精霊と懐妊劇の話をお聞きしたいのと・・・こう言っては何ですが、報奨金を出そうかと思っていまして相談をしたいのです。」
「報奨金ですか?」
「結果だけ見れば、王家に精霊と男子を授けて頂きました。
王家だけでなく国に対して最大の業績を上げてくれましたので、その恩賞になります。」
「・・・オルコット宰相殿、代わりにタケオさんからはその辺を口外しないとさせるのですか?」
ジェシーが聞いてくる。
「・・・やはりあからさま過ぎますかね・・・
私達総監局の意向としては、今後は王家とキタミザト殿に近しい貴族であるエルヴィス家とゴドウィン家・・・もう少し言えば、出来ればエルヴィス家の関係者以外には言わないとして頂きたいのです。
そうですね・・・精霊付きの条件については話されても問題ないと思っています。
街中にそうそう原本があるものではありませんから。
私が危惧する所は妊娠の方です。」
オルコットがコノハを見る。
「平気ですよ。子の選別なんかしませんし、近い人達のみに祝福をすれば良いのでしょう?
タケオも選別なんかに興味は無いようでしたね。」
コノハがオルコットに言う。
「それにコノハは産み分けではないですよね。」
アリスが聞いてくる。
「流産しないようにするだけ・・・母子を元気にするだけです。
男女の産み分けが出来る精霊は限られているはずだし・・・
マリ、実体化してないわよね?」
「某が知るなかでは実体化していませんね。」
マリが黙想を止め目を開けて考える。
「そうですか・・・選別はいろいろと謀略に繋がりますので、規制したいというのが本音ではあります。」
オルコットが難しい顔をさせながら話す。
「・・・とりあえず、タケオ様が戻ったら総監局に行かせれば良いのですね?」
アリスがオルコットに聞く。
「はい、よろしくお願いいたします。」
オルコットが深々と頭を下げるのだった。
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第3皇子一家の執務室。
「ウィリアム!わかっているの!?」
「ウィリアム!絶対ですからね!」
ウィリアムがアルマとレイラに詰め寄られていた。
その様子をエリカは「ははは」と乾いた笑いをさせて見ている。
パイディアーは黙ってその様子を見ている。
「・・・わかっています・・・
本当にわかっていますから・・・」
ウィリアムはガックリしながら呟いている。
事の発端というか会議を終えて第3皇子一家皆で執務室に戻ってきた際にレイラが気が付いたのだ。
『ウィリアムの夜の相手をする者が居ない』と。
で、アルマとレイラ両名によってウィリアムがエリカに手を出そうものなら王都守備隊全員で締め上げると宣言されていた。
「・・・ふむ・・・継続監視ですね。」
「そうね、レイラ。
継続監視です。」
アルマとレイラが頷く。
「はぁ・・・これはアリスにお願いして何か良い手を考えないといけないわね。」
アルマが腕を組みながら言ってくる。
「ん~・・・アルマお姉様、確かコノハ殿がタケオさんの保健に追記しているのですよね?」
「何か書いていたわよね。
まぁそれも後々来るんでしょうからそれを見て考えましょうか。
と、そうだ、パイディアー殿。」
「はい、何でしょうか。」
「貴女はレイラの子、ヒナの精霊だけど・・・具体的には何をするの?」
「・・・見守る、でしょうか?」
パイディアーが首を傾げながら答える。
「うん、何かして貰いましょうか。」
レイラが「穀潰しを置く余裕はない」と言ってくる。
「ならパイディアー殿を当分私の同僚として頂けないでしょうか。」
「ん?エリカさん、良いの?」
「はい。相談させて頂ければそれだけでも相当頼りになるかと思います。」
「エリカ、私は他の神々・・・精霊達と違って侍女の役割ぐらいしか出来ません。
特に何か出来るわけではないですが。」
「ん~・・・今卸売市場を企画していて何とか領地で軌道に乗せたいのだけど。
その辺の具体策の良し悪しを言って欲しいのだけど。
出来ないでしょうかね?」
「・・・私は歌や琴の芸能、芸術に縁があるのですが・・・
政策の良し悪しはわからないという回答しか出来ません。」
「そうですか・・・」
パイディアーの宣言にエリカが苦笑する。
「・・・パイディアー殿、芸術ってことは風景画は書けるの?」
レイラが考えながら言ってくる。
「ええ、風景画は出来ますね。」
「なら・・・例えば、街区図を見て風景画は書ける?」
「・・・レイラ、それは難しいです。
そこの建物を想像しろと?」
「難しい・・・出来ない訳ではないのね?」
アルマが聞いて来る。
「はい、出来ますね。
ですが、どういった建物なのか・・・3面図か4面図があればそれなりに書けるかと。」
「・・・レイラ、卸売市場の建物は外形図があったわよね。」
「はい。
・・・パイディアー殿、エリカさんと協力して卸売市場周辺の風景を想像してくれないかな。
そうすれば皆に話す際に説明が楽になると思うのよ。」
「わかりました。
エリカはそれで良いですか?」
パイディアーがエリカに聞いて来る。
「まぁ、政策については素案を考えるのが私の仕事です。
パイディアー殿の知識に頼ろうとしたのは甘えですね。
平気です。それに出来上がる建物周辺が想像できるのなら見落としている物がわかるかもしれません。
これは好都合です。」
「はい。
じゃあパイディアー殿は当面はエリカさんの同僚ね。
そして私達の子供のお世話もお願いね。」
「はい、畏まりました。」
レイラが嬉しそうに言うのだった。
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