第801話 延期になっていた馬車市へ。2(幌馬車と船の試作。)
武雄達はお茶を楽しみながらローチ社長と歓談をしていた。
「・・・あまり売れない物なのですか。」
武雄が腕を組みながら言ってくる。
「はい。幌馬車は国内で決められた規格というのはないのですが、概ねどこも同じ大きさになっています。
さらに運送用ですので、馬車に比べて利益があまり良くないですね。
まぁ大体月に8台が新規で来て、残りは整備や修理事業になります。
ですので大体どこの貴族領でも1工房が担っています。
私どももエルヴィス領内の各町に支店がありますのでそこで整備事業等をしています。」
ローチが難しい顔をさせながら言ってくる。
「ふむ・・・馬車はどうでしょうか?」
「元々顧客が少ないので今の数でもギリギリでしょう。
確かに単価は高く収益もありますが、そもそも新規客が少ないのでこちらもトントンでしょうね。」
「なるほど・・・
で、向こうに帰ってから幌馬車を作ってみたいのですが可能ですか?」
「はい、可能です。どういった用途でしょうか?」
ローチがカタログを出して「どれにします?」と聞いて来る。
「あ・・・そうか、そうとるか。
ローチ社長、私がお願いしたいのは開発をする為に協力して欲しいという事なのですが。」
「開発ですか?
・・・キタミザト様、何を考えていますか?」
「私の協力者には、研究をするステノ技研、盾や防具、日用品を作るサテラ製作所、木材と文具専門のハワース商会、酒屋の卸売をするローさん一家、ソース関係の製造販売をするベッドフォード夫婦、そして衣服の製造協力は仕立て屋のラルフ店長達が居ます。」
「はい。
それにしてもベッドフォードの青果屋がソースをですか?」
「ええ。ローチ社長が出立した後に販売を開始したのですが、上々の売り出しが出来ました。
『数年は死ぬ気で働け』と先に挙げた他の店達から言われているみたいで四苦八苦しながらしていました。」
「そうですか・・・良いですなぁ。」
ローチが若干遠い目をする。
「で、早々に幌馬車の需要が多くなると見込んでいるのですけどね。」
「・・・そんなに動きそうなのですか?」
「ええ。ですので、もっと運送効率の良い馬車が作れないかと思っているのです。」
「・・・運送効率の良い馬車ですか?」
ローチが真面目な顔つきで聞き返してくる。
「ええ。先ほどいろんな所の馬車や幌馬車を見てみたのですが・・・
どれも代り映え無いですね。」
「ええ。基本構造は一緒です。」
「車軸の転がりをする部分には丸い鉄が埋め込まれていましたが?」
「あぁ、あれは車軸が動く際の荷台との摩擦を低減させる処置ですね。
どこもあの機構を採用しています。」
「今、ステノ技研ではその部分の改良品の試作をさせています。」
武雄がしれっと言う。
「か・・・改良ですか?」
「上手く行けば1.5倍・・・2倍は無理かな?
まぁ今と同じ頭数で引いても今より多くの荷物が運べる可能性があると思っています。」
「んんん~・・・それは本当ですか?」
ローチが唸りながら武雄を見る。
「いえ・・・それを確かめたいので試作したいのですけど。」
武雄が苦笑しながら言ってくる。
「あ・・・そうでしたね。
良いでしょう、その試作を請け負いましょう。」
「はい、わかりました。
まぁまだ完成をしていない機構ですから、先の話になると思っています。
出来たらお話を持って行きますね。
あ、それと一つお聞きしたいのですが。」
「はい、なんでしょうか?」
「船を作れますか?」
「はぃ?」
ローチは武雄の唐突な質問に思わず聞き返してしまうのだった。
・・
・
武雄は今後の船の事を話していた。
「・・・確かにキタミザト様やウィリアム殿下の考えだと船の制作をする工房が必要なのはわかります。
わかりはしますが・・・流石にうちはした事がありません。」
ローチが悩みながら言ってくる。
「設計士はテンプル伯爵にお願いして紹介して貰う手はずになっています。」
「設計は出来ても・・・木材の加工が出来るのか・・・
船は一段上の・・・馬車とはまた違う技術ですしね。
んー・・・そこがどう作れるか・・・」
「・・・木材以外で作れば良いのに・・・」
ローチが悩むのを見ながら武雄がボソッと本当に消えるくらいの音量で呟く。
「ん?何か仰いましたか?」
ローチは聞こえていなかったが隣に居たスミスは驚きながら武雄を見ている。
「いえ・・・とりあえず、試しで作ってみたいのです。
良し悪しは別としてください。
相応の費用は捻出しますから試作して貰う事は可能でしょうか。」
「可能です。ですが、本当に船を作ったことがないので出来栄えは保証しかねますが、よろしいのですか?」
「構いません。」
「ではご依頼下されば幌馬車も船も試作に協力させていただきます。
上手く行けば我々も品揃えが良くなりそうですので。」
「ええ、上手く行けば面白い事になると思いますよ。
と、少し長居してしまいましたか。
ではスミス坊ちゃん、行きましょうか。」
「はい、わかりました。」
武雄に言われスミスが席を立つ。
「ローチ社長、また屋敷に戻って試作が出来るようになったら伺います。」
「はい、お待ちしております。」
ローチは「こりゃ数か月以内に忙しくなりそうだ。」と思うのだった。
・・
・
王城への帰路の途中。
「タケオ様。」
「ん?どうしましたか?
美味しい物でも見つけましたか?」
武雄がスミスに呼び止められて振り向く。
「あはは、まだお腹は空いていません。
それより・・・木材以外にどうやって船を作るのですか?」
「簡単に考えれば鉄です。
加工のし易さという観点では木材よりも扱いやすいでしょう。」
武雄が即答する。
「て・・・鉄が浮かぶのですか?
船の形をしても相当重量がありますよ?」
「・・・スミス坊ちゃん、試した事ありますか?」
「いえ・・・ありませんが・・・」
「なら試してみる事が重要ですよ。
それに、それをするのがうちの研究所なんですから。」
「はぁ、まぁその通りなのですけど・・・」
スミスは何やら腑に落ちなそうに頷く。
武雄はそんなスミスを朗らかに見ながら「まぁパナの研究が上手く行けばもっと面白くなるけどね」と思うのだった。
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