第8話 噂のお嬢様。
「もうすぐ屋敷に到着いたします。」
御者から車内にそう告げられる。
「うむ・・・もう・・・すぐか・・・」
うな垂れる。
身内相手にどんだけ落ち込むんでしょうか、この爺さんは。
武雄の中で株が急落中の元おじいさん、今は爺さん。
車内の雰囲気が葬式の様になりつつある中で、フレデリックは背筋を正して、目を閉じている。
・・・瞑想ですか?禅の要素もあるのでしょうか?
「フレデリック・・・ここで降り」
「主よ、それは難しいと思われます。
屋敷から見えている可能性があり、そもそも歩いて屋敷に戻ったら怪しまれます。」
「う・・・うむ・・・」
・・・馬車は順調に進む・・・
何やら割と大きな門を抜けた辺りでフレデリックは説明を始める。
「一応、降車順は私、その後にタケオ様、主とします。」
「それはよろしいのでしょうか?」
「ええ。この様な時は私・主・タケオ様、つまりはお客様を最後にさせていただくのですが、
今回は特別にと言いますか・・・」
そこで一端区切って主の方を見る。
「主を見たアリスお嬢様の行動が読めません。
もしかしたらタケオ様が車内から出られなくなる可能性もありますので。」
「突っ込んでくる可能性が?」
「存分に!」
「わかりました。何分、私は礼儀がわかっておりませんので粗相があるかもしれませんが、
何卒よろしくお願いします。」
フレデリックに軽く頭をさげる。
「いえ、今までの立ち居振る舞いで問題ないと思いますので、ご自身は今の感じでよろしいと思います。」
「・・・タケオ・・・なぜわしに言わないのじゃ?」
「今はそれどころではないでしょ?」
「・・・うむ・・・すまんが、タケオの事を気にかけてはおられんのじゃ。」
・・・爺さん・・・貧乏ゆすりが凄いです・・・あとため息も・・・
そうこうしているうちに建物の前に馬車が停まる。
「では、参りますよ?」
「わかりました。」
「・・・」
爺さん、声を発しなよ。
「年貢の納め時ってやつですね。」
爺さんに向かって武雄はニヤリと笑う。
「返す余裕もないわ。」
エルヴィス老は顔を引きつらせつつ答える。
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扉が開き、車内からフレデリックが降りる。
次いで武雄が降り、建物が目に入る。
「うわぁ。」
思わず一言出てしまう。
壮観というかどこかの博物館の様な白い大理石の屋敷がそこにあった。
「すみません。」
失礼な事をしたと思いフレデリックに軽く会釈をしてフレデリックの対面扉横に移動。
フレデリックは微笑みながら会釈を返した。
・・・爺さん出て来いよ。
すぐに降りてこない爺さん。
「んんっ」とフレデリックは咳払い。
観念したのか、ゆっくりと爺さんが降りてくる。
・・・足がガクガクしているのはご愛敬で。
降りてフレデリックと対面にて
「く・・苦労をかけたぁ。」
と一言、ちょっと声色が甲高くなっていますよ。
フレデリックは軽く礼をする。
「では、行くか」
ゆっくりとだが、玄関に向かって歩き出す。
順番はエルヴィス老・武雄・フレデリック。
建物の扉の横に、まっすぐにこちらを向いている女性がいることがわかる。
・・・あれか・・・
なんとなく迫力がありますね。
身長は160cmくらいか。
体付きも割と細身だが、出るとこはしっかりと出てまさに美人という感じである。
女性の前に差し掛かった時、軽くスカートの両端を持ち、
片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま挨拶をした。
「お爺さま。おかえりなさいませ。」
「うむ、アリス、心配をかけた。」
「つきましては、すこ」
「アリス。言いたいことは多々あるだろうが、フレデリックから聞いておる。
ゴドウィンが来ておるのじゃろ?
まずはそれを片付けてからじゃ。
しばし待ってくれぬか?」
「・・・はい。わかりました。
ゴドウィン様は、ただいま客間でお待ちになっております。
私は部屋に戻っておりますので、あとでお呼びください。」
もう一度、軽く挨拶をしてエルヴィス老を通す。
エルヴィス爺さんも軽く頷き。
「フレデリック。迎えで疲れているだろうが、お茶の準備を頼む。
わしは着替えてから向かう。」
「畏まりました。」
フレデリックは武雄、エルヴィス老を女性が立っている位置の反対側を通り過ぎ、扉を開けながら伝える。
女性の前をエルヴィス爺さんが通り過ぎ、武雄も通り過ぎようとした際に。
何となく無言で通るのもアレだなぁと思い声をかけてみることにした。
「あなたがアリスお嬢様ですか?」
「はい。私はアリス・ヘンリー・エルヴィスと申します。
お客様、この度は祖父を救って頂きありがとうございます。」
武雄が声をかけたことにフレデリックは少し驚いた雰囲気を醸し出している。
「私は北見里 武雄と言います。
特に何かをしたわけでもないのですが、エルヴィスさんから同伴をと誘われましたので、
ご迷惑をおかけしてしまうかもと思いましたが、参りまし・・・。」
ここで武雄は気が付く。
アリスお嬢様の顔で視線が固定されてしまう。
「どうかなされ・・・!」
途端にアリスお嬢様の表情が陰った様に見えた。
「その目、お綺麗ですね。」
「はぃ!?」
お嬢様から変な言葉がでた。
武雄が見入った物、それはアリスお嬢様のオッドアイ(虹彩異色)だった。
右目は赤色。左目が青色になっている。
赤はルビー、青はサファイアの鉱石の様な綺麗な色をしていた。
「オッドアイというのでしたか?
初めて見ますが、両目とも透き通っていて綺麗な色ですね。
お嬢様ご自身の品を落としてもいませんし、とてもお似合いですね。」
「あ・・・う・・・その・・・」
アリスお嬢様はみるみる顔を赤くしていき。
「お客様!わ・・私は部屋に戻りますので、し、失礼いたします!
ごゆるりとお過ごしください。」
と足早に奥に行ってしまった。
・・・アチャーっと武雄は思った。
怒らせてしまったか。
普通に考えれば、いきなり初対面のそれも女性に対して綺麗なんて言葉を言っては不味かったなぁ。
あぁこの後怒られるのだろうかと思い、しょぼくれていた。
ちなみに、その場をエルヴィス老とフレデリックの二人は驚愕の表情で見ていた。
武雄が気を持ち直して二人の方を見てみると、
エルヴィス爺さんは親指を立てて「GOOD」のサイン。
フレデリックは笑顔で頷いていた。
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