第788話 2人目(スミスは果たして謙虚なのか。)
宝物庫内は今何やらのんびりとした組とソワソワしている組に分かれていた。
「・・・おい、お前達落ち着け。」
「「「無理です!」」」
アズパール王が子供達がソワソワしているのを注意する。
エイミーやクリナ、アンもソワソワしている組なのだが、自分の父親達が見たこともない動揺をしているので若干冷静に見ているという何とも不思議な感覚になっていた。
「アリス・・・どうすれば良いの・・・
まずは何をすれば良いの・・・」
「あぁ・・・ジェシーお姉様も随分と考えが混乱しています。
いつものハキハキしたお姉様でなくなっています。」
「ん~・・・タケオ、ジェシーは初産なの?」
「はい。コノハのおかげで無理をしなければ第1子ですね。」
「ふむ・・・アリス、住んでいる屋敷からジェシーの所は遠いですか?」
「そうですね・・・馬で4日、馬車で6日の距離ですね。」
「・・・2か月に1回は様子を見に行きましょうか。
契約の場を作ってくれたのです。子供はしっかりと産ませないといけないでしょう。
アリス構いませんか?」
「はい。では私も同行します。」
「ん?・・・私がアリスに同行するのですよ?
私はアリスの精霊なのですから。」
「そうですね。ではコノハ同行してください。」
「ええ、わかりました。」
アリスとコノハが頷く。
と、本棚が光り始めるのだった。
光が止むと赤い日本式の甲冑(当世具足)を着込み面頬をした武者が立っていた。
「・・・こちらへ。」
武雄が武者の元に行き面接用の椅子に案内する。
「こちらが某の概略書になります。」
武者が席横に最敬礼のように膝たちになり武雄に紙を渡す。
「はい、お預かりします。」
と武雄が席に戻る。
席に着いて武雄は概略書を見るのだが・・・
「・・・へ?また?・・・」
内容を見て再び固まるのだった。
・・
・
「摩利支天殿ですか。」
議事進行を務める王家専属魔法師が概要書を見て言う。
摩利支天は兜を脱ぎ脇に抱えた格好で椅子に座っている。
「はっ!
この度、領主となる若者がおりましたので謁見させて頂きたく実体化いたしました。」
「はぁ~・・・」
「美男子です・・・」
アンとクリナが摩利支天の兜を脱いだ所から魅了されていた。
摩利支天は男性なのだが、女性と見間違えるほど美男子の顔をしており、潜入する際には女装もこなすのでこの女性の様な顔を気に入っていると言っていた。
だが、性格は武人。
あくまで契約者に忠誠を尽くす事を考えているようだった。
「したい事は『流派の創設』ですか?」
「はっ!
某の信徒にタイ捨流剣術をする者がいます。
某もその縁により使うことが出来ますがこの世界にない剣術や体術を広められるかを試したく考えています。」
「タイ捨流?」
武雄が首を傾げる。
「元は新影流です。」
「新影流・・・」
武雄は「昔、柳生とか時代劇でやってたよね」と思うが「武術はわからないなぁ」と思うのだった。
面接は続く。
「魔法は使われますか?」
「魔法を使うかと問われると使います。
ですが、契約者が使う刀や武具の強化と身体強化、あと某と契約すると戦での運が良くなります。」
「それはどの程度でしょうか?」
「運については、護身の加護が与えられ例えば流れ矢が当たっても致命傷にならない程度です。
回復の時間が稼げるでしょう。
武具の強化は1.3倍に身体強化は甲冑を着ても着ない時と同様に動けます。」
「わかりました・・・これも脅威では無さそうですね。」
王家専属魔法師が呟く。
「適応者はどなたでしょうか。」
「適応者は貴方です。」
摩利支天はスミスに顔を向ける。
「僕ですか。
なぜ僕は貴方に呼ばれなかったのでしょうか。」
「某との適応条件は『領主になる事が決まっている』と『元服もしくは成人に成りたての男性』となります。
この世界では15歳で成人となります。
ですので呼べませんでした。
また今回は適応条件が満たされていない状態での実体化ですので私の能力が下げられました。
本来であれば護身の加護で物理攻撃の無効、武具の強化は2倍、身体強化はほぼ無負荷の上にほとんど疲れません。
今回の契約はそこの御仁が言っておりました『契約となる一文が読める』より上で『呼ばれる』よりも下の状態となります。」
摩利支天が説明する。
「ん~・・・この条件って・・・タケオ様、どう思いますか?」
スミスが悩みながら言ってくる。
「そうですね・・・陛下、いかがしますか?
先の条件はパット殿下にも当てはまる可能性がありますが。」
「パットか・・・
摩利支天殿、先の条件の『領主になる事が決まっている』所なのだがな。
次期王は決めたがその子供には適合するだろうか?」
「その子が王になる事が決まっているのなら。」
「ふむ・・・それは今の状態では決められないだろう。
クリフが王位を継いでから後継者を指名する必要がある。
我が決める事ではない。
という事はパットが王位を継ぐと言われる頃は2つ目の条件が満たせない。
なので全能力を制限なく契約する事は今後望めないだろう。
・・・さて、クリフ、どうする?
スミスは譲っても良いと思っているようだぞ?」
アズパール王が楽しそうにクリフに聞く。
「・・・いえ、パットは後日で良いでしょう。
摩利支天殿はスミスに呼応してこうして実体化した精霊。
それを私の息子の為に譲られるのは摩利支天殿にも失礼です。
そもそもあのパットが『配下から譲られる』という現実に耐えられないでしょう。」
クリフが真面目に言ってくる。
「ふむ、その通りだな。
摩利支天殿、遊びが過ぎた。すまない。
スミスも我らの事は気にせずに自身の事を考えよ。」
「いえ、こちらは平気です。
条件が合う者が居るというなら試すのも手と考えるのは当たり前でしょう。」
摩利支天が頷く。
「はい、わかりました。
で、タケオ様、アリスお姉様、流派と言っていましたけど。
うちで出来るのでしょうか」
「「ん~・・・」」
武雄とアリスが悩むのだった。
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