第786話 精霊との契約方法。
結局、武雄達は一人一冊を担当して写していた。
内容自体も章毎に一冊にされていて、そこまでの量はなかったので中身の確認をする武雄もそこまで時間はかからずに終わっていた。
「タケオ、終わったか?」
アズパール王が聞いてくる。
武雄達が書き写している間他の面々は古文書を見て時間を潰していた。
「はい。とりあえず今欲しい分は終わりました。
ですが、まだ数冊あります。
出来れば私が王都に出張した際に写させて貰えればと思うのですが、許可を頂けますでしょうか。」
「そうか、この件はタケオの好きにすれば良いだろう。
で、あれはどう見る?」
アズパール王が軽く頷いた後、淡く光っている本棚をジト目で見る。
「・・・王家専属魔法師殿はどう見られましたか?」
武雄はいつの間にかアズパール王の横に来ていた王家専属魔法師に聞く。
「複数の精霊が呼応するのは可能性だけで言えばあるのでしょうが・・・あり得るのでしょうか。
そもそもは精霊と契約する方法は相性が良く精霊から呼ばれるか、中身を読み本のどこかにある、契約となる一文が読めるかの2種類です。
今回は誰も呼ばれていない時点で前者ではなく後者なのですが・・・これまでなら契約となる一文が読めてから本が光るのです。
先に光ったのは見たことがありません。」
王家専属魔法師が説明する横で武雄が「テイラー店長が最初に言っていた発動キーか」と思う。
「・・・という事は?」
武雄が顎に手を添えながら聞く。
「2つ以外にも契約の種類がある・・・という事でしょう。」
「どうしますか?」
「・・・キタミザト殿はどうしたいですか?」
「ふむ・・・」
武雄が考える。
契約方法は確認されている方法が2種類だがかなり簡単に考えると、1つ目は『双方の相性が良いので精霊の声が聞こえる』、2つ目は『こちらから適性がある精霊に声をかける』となる。
なら3つ目は『あちらから適性がある者に声をかける』となるのではないだろうか。
そして共通事項はこちらの適応者は適応する精霊の本がこの部屋に入った時にわかるという事だろう。
「私のしたいようにしても構わないのでしょうか?」
「物理的な事でないなら。」
王家専属魔法師が頷く。
「スー、こちらに。」
「チュン?」
武雄が呼ぶとスーが武雄の肩に飛んできて止まる。
ついでにミアもスーとは逆側の武雄の肩に止まる。
武雄が小声でスーと話すのだった。
・・
・
「陛下、今からスーにあの本達に呼び掛けて貰おうと思うのですが、こちらのじ」
「うむ、好きにしろ。」
武雄が言い終わる前にアズパール王が頷く。
「・・・何でそんなに簡単に決めますか?」
「今、目の前では前例がない事が起きていて、その対応をタケオがするのだろう?
やってみるが良い。それでダメなら違う事を考えよう。」
「わかりました。
では、呼びかけをする前に皆さんで机や椅子を並べ替えましょう。」
武雄の指示の下、机や椅子を並べ替え各々が座る。
それは空席の椅子の周りに皆が座る面接の様な形態だった。
中央にアズパール王、両脇から皇子、その子となり武雄達は端の席に陣取った。
「・・・タケオ、この配置は面談か何かか?」
「ええ、それが出来たらという感じです。
ダメだったらまた考えましょう。
ではスー、お願いします。」
武雄はアズパール王の前の机に止まっているスーに言う。
「チュン。
・・・チュン!チュチュン!!チチチッ!チュン!」
スーが頷いてから少し大きな鳴き声を出して何か話している。
ミア以外は何を言っているのかわからないので黙っている。
「主、スー助は主の言った通り説明しました。」
「そうですか。」
ミアが肩に乗りながら説明してくる。
「タケオ、スー殿に何を言わせたのだ?」
アズパール王が武雄に聞いて来る。
「簡単です。
『こちら側で活動したい精霊は自身の概要書を持って実体化する事』とお願いし、『概要書には名前、出来る事、こちら側でしたい事、自身の経歴を記載し、書き方は皆が理解しやすい内容にする事』としています。
そして『面接をさせて欲しい』というお願いです。」
「・・・タケオさん、それって確か国民達が工房や勤め先に出す経歴書ですね。」
「そうですね。
前に鈴音とテトの契約の際にテトが出来る事やしたい事がわからなかったのです。
さらにどんな出自なのかも分からないですし、簡単に説明してくれると判断がしやすいですね。」
「まぁ人間でもそうだな。
どんな経歴を経て来たのかを知ってからの方が話は出来るだろう。」
「はい。」
「主、さっきスー助があくしんやじゃしんもいるから注意が必要と言っていたのです。
あくしんとじゃしんってなんですか?」
「んー・・・人々にとって悪さをしたり、悪い事を勧めたりする精霊ですかね?
『嘘をつけ』『暴飲しろ』『病気を振りまく』『欲求に忠実に生きろ』とかまぁ人を堕落させる事に生きがいを見出している精霊だと思いますね。」
「厄介な精霊だな。」
「普通ならそうでしょう。
ですが、味方としてこういった精霊が居た場合はちょっと違います。
王家専属魔法師殿、どう思いますか?」
「・・・精霊と適応者を敵国に潜入させ情報操作等を行う事になります。
まぁあくまでこちらに対して協力的であることが前提ではありますが。
ですので精霊との契約は私達王家専属魔法師部隊員か王家でしており、精霊に呼ばれた場合は立会いの下、精霊と契約をして貰い、国家戦力になるなら国や地方貴族の管理下に置かれます。
スズネ殿とテト殿は慈雨という戦力になり得ない力なのでキタミザト殿で管理して頂いていると考えております。」
「2人ともエルヴィス伯爵領で頑張っていますよ。
鈴音は慣れない研究や試作で頭を使って仕事をしているので大変みたいですけど。
テトは・・・まぁのんびりですね。」
武雄が苦笑しながら言う。
「ほぉ、もう研究をしているのか。
どうだ?上手く行きそうか?」
アズパール王が聞いて来る。
「私もそうですが、手探りです。
上手く行くかはもう少し時間がかかるかと思います。
ですが、鈴音は考えはしっかりしています。
慣れれば多くの物を考え付くと思っています。」
「そうか、楽しみだな。」
「報告はちゃんと上げますのでお待ちください。」
武雄が締めくくる。
と、本棚が光り始めるのだった。




