第775話 83日目 今日も終わった。(スミスの意識改革。)
夕飯も終え、のんびりとアリスと武雄はお茶をしていた。
ちなみにミアとスーは今日は王城の屋根で昼寝を敢行していたのだが、誰にも見つからなかったとかで誰からも苦情は言われていない。そして今は仲良くベッドで寝ている。
「アリスお嬢様、王都はどうでしたか?」
「・・・王都の店で食事をする気はありません。」
アリスが不貞腐れながら言ってくる。
「いや・・・えー?・・・
王都の店は美味しくないのですか?」
「んー・・・決して不味くはないのです・・・
でも王城やタケオ様が作る料理に比べるとどうしても劣っています。」
「あぁ・・・そういう弊害があるのですね。
でも王都ならエルヴィス領にない料理とかなかったのですか?
例えば西側の料理とか。」
「ん~・・・そういう風に見て来ませんでした。
肉料理を中心に食べてスイーツも食べて・・・味が淡白です。」
「肉料理で淡白って・・・」
武雄がアリスの言い分を聞きながら「味が薄くてあまり印象に残らないのかな?」と思うが・・・
「確かレイラさんが前にエルヴィス家に来た時に言っていましたが、トマトソースが基本なのでしょう?
なら煮込めば美味しくなるではないですか。」
「はい、そうです。
ですけど、タケオ様のような衝撃がないのです。」
「えー?・・・私の料理は衝撃付きなのですか?」
武雄は増々わからず困惑する。
「はい。『うわっ!何この料理!美味しすぎる!』がないです。」
「えええ・・・そういうのを求めているのですか・・・」
武雄は「私の知っている料理のネタではその衝撃はないよ」と困る。
「タケオ様、何かないですか?」
「そうは言われても・・・
ウスターソースも出来ましたし・・・んー・・・お好み焼きかなぁ?」
「お好み焼き?」
「まぁある意味調理は簡単なのですけどね。
でも衝撃があるのかなぁ・・・」
「タケオ様!作りましょう!明日ですか!?明後日ですか!?」
「どんだけ今日不満だったのですか・・・
あ、かつお節と青のりがないですね。
ん~・・・作れないですね。」
「ざ・・・材料がないのですか?」
「ええ、味の決め手である材料がないですね。
少なくとも王都の干物屋に売ってはいませんでした。」
「そんなぁ・・・」
アリスは一瞬喜ぶが一気にテンションが下がる。
「味が多少落ちた物しか提供できないというのもねぇ・・・」
「それでも構いません!
タケオ様、作ってください!」
アリスが懇願してくる。
「・・・そうですか。
なら作ってみますか。味は保証出来ませんよ?」
「平気です!タケオ様の料理なら絶対美味しいです!」
「期待値高いなぁ・・・」
武雄は苦笑するのだった。
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ジェシーに割り振られている部屋にて。
ジェシーとスミスが寝る前のお茶をしながら将棋をしていた。
「で、スミス、どう?」
「どうとはなんですか?」
「ん~・・・王家の殿下方はどうだった?
昨日は一緒の席だったでしょう?」
「綺麗でしたし可愛かったですね。」
「・・・それだけ?」
「ジェシーお姉様、何を聞きたいのですか?」
「いや、スミスが気に入るなら」
「レイラお姉様が嫁いでいるのに王家から妃を迎えられないと思いますけど。」
スミスがジェシーに最後まで言わせない。
「はぁ・・・」
ジェシーがため息をついて苦笑しながらスミスの頭に手を伸ばす。
「!?!!!!!!!」
良い音がスミスの額からする。
まぁジェシーがデコピンをしただけなのだが、ペチッとか可愛らしい音ではなく明らかに何かを破壊した音がしていた。
スミスはあまりの痛さに一旦仰け反り、額を両手で押さえて机に突っ伏す。
スミスは「そうだ、ジェシーお姉様はこれだった」と幼少期の苦い思い出が蘇る。
「スミス!誰が王家と結婚出来ないなどと言ったのです!?」
「・・・」
スミスは机に突っ伏したままです。
「スミス、言わないならもう1発い」
「自分で考え付きました!!」
スミスがガバっと起きる。
「スミス!レイラが王家に嫁いだとか。王家は貴族の上位だというのは大人の面子でしかありません。
恋愛をしている当人達が気にすることではありません!」
「で・・・ですけど・・・」
「ですけどじゃない!」
再びジェシーがスミスの額をデコピンをする。
「っ~~~~~!!??」
スミスは再び額を両手で押さえて机に突っ伏す。
「スミス!まだまだ若いのに考えを凝り固まらせるとは何事です!
そんなことを私とレイラとアリスは望んでいない!
今は人をちゃんと見なさい!王家だの貴族だの平民だの・・・
そんなことは寄宿舎を卒業して当主になってから考えなさい!」
「ですけどぉ・・・僕は貴族ですから誰でもというわけには・・・
それに王家は王家ですよぉ・・・」
「そうね。
行きずりの者を好きになるのは頂けないわね。」
「いや・・・そうではなくて・・・」
「誰も貴方が殿下と結婚してはいけないとは言っていません。
節度を守りつつ王家の姫君としてではなく女性としての殿下を見なさい。
そしてスミスが気に入った人と付き合いなさい。」
「うぅ・・・王家の殿下をですか?身分が・・・」
「何が身分ですか!」
ジェシーがスミスの額をデコピンをする。
「っ~~~~~!!??」
スミスはまた額を両手で押さえて机に突っ伏す。
「アリスとタケオさんなんて貴族令嬢と平民よ?
それにタケオさん以外の新貴族の面々は皆平民の奥方。
貴族が貴族と結婚するのが当然なんて誰も考えていません!
テンプルの所は騎士団員の娘と平民、誰が文句を言っているのですか?」
「・・・確かにそうです。
じゃあ僕は殿下達を貴族令嬢として見れば良いのですか?」
スミスは机に体を倒しているが顔だけを起こして聞いて来る。
「・・・なんでそう極端なのよ・・・
はぁ・・・王家の令嬢ですけど、ちゃんと女性として扱えば良いのです。
変に畏まる必要もないでしょう。
タケオさんを見なさい。ちゃんと一個人として扱っているでしょう?」
「・・・あれは無理です。」
「まぁああいう風にしろとは言いませんが、少なくとも王家だから話してもいけないというわけではありません。
あとは上手くなさい。」
「うぅ・・・それじゃあわからないですよ・・・」
スミスは「どうすればいいの」と悩むのだった。
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