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第771話 研修2回目。4(アンの疑問。)

「はい!質問があります。」

アンが頃合いを見て手を上げる。

「おや?アン殿下、どういたしましたか?」

オルコットが問いかけると他の面々がアンを見る。

「う・・・先ほどのタケオさんの話なのですけど。

 なんで西側の話をしているのに東の魔王国に情報を渡すのですか?」

皆に注目されて一瞬気押されるがアンが気丈に質問してくる。

「ふむ・・・」

オルコットが悩む仕草をしながら武雄を見る。

武雄は「宰相が即答しないという事はまだ周辺国の考えは教えないという事なのかな?」と思う。

「・・・アン殿下、私が外交局長と話をしていましたが、大よその内容はわかりますか?」

武雄が聞いて来る。

「はい。アズパール王国の西側で行われる戦争準備の情報を魔王国にもそれとなく教えるという事だと思います。」

「はい、その通りです。

 アン殿下はカトランダ帝国やウィリプ連合国との戦いをするのに反対側の魔王国を気にする必要性がわからないという事ですね?」

「はい。

 ウィリプ連合国への情報をどう流すかとかならわかるのですが・・・」

アンが不思議そうに言ってくる。

「ふむ・・・

 アン殿下、王都で一番美味しいスイーツのお店を知っていますか?」

「え?・・・はぁ・・・一応知っていますが・・・」

「それってどこですか?」

「王都の門を通って表通りから3つ通りを過ぎた路地にあると本に書いていました。

 明日にでもクリナお姉様と行ってこようか思っています。」

「あぁ、あそこですか。

 アン殿下、確かに街の人に聞くと門から3つ通りを過ぎた路地にある店がこの王都で一番美味しいお店だそうですね。

 10人中9人はその店を勧めるのだそうです。」

「ええ!?そんなになのですか?」

アンが驚く。

「すみません・・・街の噂は私の想像です。」

「えええええ・・・・」

アンがガッカリする。

「・・・さて、アン殿下、今の話ですけどね。」

武雄は表情を崩さないで続きを言ってくる。

「はぁ・・・」

「アン殿下が見た本の情報というのを外交局が対ウィリプ連合国に直接流す情報。

 私が話した人づてに聞いた口コミを魔王国からの情報としたいのですよ。」

「んん~・・・?」

アンが首を傾げる。

「本の情報が手元にある状態で街の人からの評価を聞いた時にアン殿下は『絶対に美味しいんだ』と思いませんでしたか?」

「それは思いました。先走って喜んでしまいましたが・・・」

アンがジト目をさせて言ってくるが武雄は気にしない。

「これは同じ情報を別々の情報源から言われると強く思い込む・・・簡単に言えば多くの人が『美味しいというのならこれは美味しい』という思い込みをさせたのです。

 これはバンドワゴン効果というのですが・・・」

「バンドワゴン効果?」

アンが首を傾げる。

「まぁ名前はどうでも良いのですけどね。

 つまりは人というのは1人より2人、3人よりも4人が美味しいと口を揃えて言うのならそれは美味しい物なのだと思い込みやすい(・・・・・・・)のです。

 これは美味しい物だけでなく、今回の対ウィリプ連合国でもそうです。

 アズパール王国と魔王国からの情報でアズパール王国の西側(・・・・・・・・・・)では穀物を買い始めた(・・・・・・・・・・)という風に結論付けさせる為に2方向からそう結論出来る情報(・・・・・・・・・)を流すのです。

 『アズパール王国の西側で穀物を買い始めたのは確認した。さらに魔王国からも西側が買い始めたからアズパール王国の穀物価格が上がったという情報が来た。

 ならアズパール王国は国として何かを始めるのだろうか。』という具合ですね。」

武雄が説明するが、アンは難しいままだ。

「やりたい事はわかったのですが、なぜ魔王国(・・・・・)なのですか?

 カトランダ帝国ではダメなのですか?」

「今回の事で言うならダメですね。」

「なぜですか?」

「近いからです。

 カトランダ帝国で同様の話を流布させた際にウィリプ連合国の者が確認に行けてしまうのが問題です。

 私達はカトランダ帝国とウィリプ連合国は現在共闘関係にあると考えています。

 ということは双方で情報の確認はされているはずなので流す事に意味はありません。

 確認もしに行き辛く、不確かだが確証が高い情報の出どころとして魔王国を使いたいのです。」

「ん~・・・でも魔王国に言った事がウィリプ連合国に確実に伝わるのでしょうか?」

「知りません。」

武雄はしれっと即答する。

「え?」

アンが呆気に取られる。

「魔王国がウィリプ連合国とどういった関係なのかは知りません。

 繋がりがあるのか、はたまたないのか。私ではわかりません。」

「なら・・・なんで魔王国に言うのですか?

 伝わらないかもしれないのに。」

「伝わると思っているからですね。」

「むぅ・・・タケオさん!変です!言っている事が違っています!」

アンが怒る。

「ふふ・・・アン殿下、何が変ですか?」

タケオが楽しそうに言ってくる。

「だってタケオさんは『魔王国とウィリプ連合国の繋がりはわからない』と言いつつも『魔王国に言った事がウィリプ連合国に伝わる』と考えているからです!

 繋がっていないのに伝わる訳はありません!」

アンが言ってくる。

「そうでしょうか?

 国としてどう繋がっているかなんてわかりませんよ。

 でも私は魔王国とウィリプ連合国は情報が行き来出来る条件が整っていると思っているだけです。」

「それは何ですか!?どうしてですか?」

「ドワーフの国ですね。」

「ドワーフの国?」

「ええ。エルヴィス伯爵から聞きましたが、アズパール王国の北にはドワーフの王国がありどの国へも売買して(・・・・・・・・・)いると聞いています。」

「あ・・・」

アンが口を開けて固まる。

「鉄の売買をしている。

 ならその交渉時に何かしら世間話をするでしょう。

 そこを期待しています。」

「むぅ・・・そう上手く行くのですか?」

アンが悩みながら言う。

「行ったなら行ったで問題ありませんし、行かないなら行かないで他の手を外交局が考えるでしょう。

 ですが、商売人は商品以外の情報を広く浅く持つものです。

 情報とは鮮度が命(・・・・・・・・)ですからね。

 他国の情報は価格交渉における手札としても十分に価値があるでしょう。

 そして鮮度があるのですから早々に使うはずです。」

「・・・タケオさんもその情報を使うのですか?」

「はい。使わせて貰いますよ。」

「タケオさんもウィリプ連合国に何かあるのですか?」

「はっきり言ってしまうとカトランダ帝国の情報もウィリプ連合国の情報も私としては3番・・・4番手ぐらいの必要ではない情報です。

 私にとっては魔王国に穀物の輸出をしてほしいという事だけです。

 そしてこの情報を流す時期に3倍の量を輸出して欲しいのですが、商売としては単価を下げたい(・・・・・・・)のですよね。

 さて、穀物を卸す先の国で主要穀物に値上がり(・・・・)の兆候が見えている。

 そこに新進気鋭の貴族が3倍の輸出依頼(・・・・・・・)をかけて来た。

 向こうは輸出を増やすのか、はたまた困窮を狙い減らすのか。

 どう考えるかで向こうの思惑が垣間見れると思っています。」

「むぅ・・・タケオさんはカトランダ帝国とウィリプ連合国には関心が無いのですか?」

「関心はありはしますが、私が積極的に関与する事ではないでしょう。

 それにそのための地方貴族制です。その辺を考えるのが向こうの貴族達のお仕事です。

 私はあくまで魔王国に対していれば良いのですから。

 西側の情報を元に東側で有利に運ぶように仕向けるのがお仕事ですよ。」

「むぅ・・・タケオさんは非情です。

 もっと国の為に動かないのですか?」

「国の為に動くのが王都の文官と武官であり、地方の為に動くのが地方貴族の文官と武官です。

 私は国の機関を任されていますが、東側の戦術考察をするので西側では私は不必要なのです。

 その部分はアルダーソン殿がします。

 兵士の移動についても地方貴族領内であれば私も考えますが、王都全土に対してなら王都の軍務局が試算、試行して指示を出してくれるでしょう。

 何事も住み分けがされています。

 全ての事を個人がしていては国は回りませんよ。」

「むぅ・・・言いくるめられている気がします。」

「ええ、言いくるめています。

 ですが、アン殿下、それはこれから学ばれる事でしょう。

 今はやる気のない大人が目の前にいると思っていてくれて構いませんよ。

 今の私ではこれが限界なのです。

 足らない所は周りの人達が補助してくれますからね。」

武雄が笑顔でアンに言い聞かせるのだった。

だが、周りの大人たちは「あなたほど優秀な方はいませんよ?」と苦笑するのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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