第770話 研修2回目。3(外交方針。)
「まず基本的な考え方として先の軍事行動計画という物を完全に秘匿する事は出来ません。
いくら閲覧できる者を限定しても秘匿は出来ない物という事を知っておかないといけません。
キタミザト殿が危惧している事でもあります。
キタミザト殿、必ず漏れる情報がある場合の対処法は知っていますか?」
「率先して相手に情報を流すのが一番です。
そして嘘と本当を混ぜた情報を流し、自身に有利な状況を作り出す努力をするべきです。」
「そうです。
その機微は経験でしか得られません。
キタミザト殿、私達外交局が考える今回の戦争で序盤での有利な条件というのは舐められることだと思っています。」
「・・・難しいですね。」
武雄が難しい顔をさせる。
「ええ。2国に面している貴族では先の話で兵士の増員がされます。
これを見た2国も相応の準備をするでしょう。
ですが、この状況下でも我が国を侮って貰わないといけません。
さらには侵攻作戦を感づかせないようにする必要があります。
キタミザト殿、私はウィリプ連合国に対して『侵攻作戦の噂』を流してから『防衛戦』に舵を切ったという情報を流そうと思っています。」
「それはまた・・・何年後にしますか?」
「向こうに伝わるのが、侵攻作戦の情報は1年後。防衛戦の情報は2年後を予定しています。
仕掛け始めるのは7月くらいからでしょうか。」
「・・・愚官を装いますか・・・
ですが、相手が情報を鵜呑みにして増員し、事に臨まれた場合は本当に愚官になってしまいますよ?」
武雄が真面目な顔をさせて言ってくる。
「そこは私達外交局の手腕ですかね。
現状ではそうなると信じてもらうしかないでしょう。
流布については王都守備隊や騎士団方にも協力をして貰います。
それに戦場は2か所ありますから兵力を分割してくれるとありがたいのですけどね。」
「・・・対応するアシュトン子爵が聞いたら怒りそうですね。
ですが、我が国の増員は予定通りにさせるのですよね?」
「はい。計画通りにして貰う事が前提になります。
そのうえで私達が情報を収集し、他国に拡散させて貰います。」
「・・・わかりました。
定期的に簡易的な現状報告書を送ってくれれば魔王国から問い合わせがあった場合にそれとなく伝わるようにします。」
「ふふ。キタミザト殿、よろしくお願いします。」
武雄がため息をつくのを外交局長が頷きながら答えるのだった。
話を聞いている王家の中でパットが難しい顔をさせていた。
「・・・パット、タケオさんと局長のやり取りわかっている?」
パットの横に居るエイミーがコソッと聞いて来る。
「・・・正直、表面的なことしかわからん。
エイミー、わかるか?」
「何とかついていけているけど・・・」
「エイミーお姉様、タケオさんは何で魔王国に情報を渡すと言っているのですか?」
アンが聞いて来る。
「それは・・・」
エイミーは「周りが全部繋がりがあるから」とはまだ若いアンやクリナには流石に言えずに説明できないでいる。
「アン、こういう時は質問をすれば良いのです。」
クリナがアンに提案してくる。
「おぉ、なるほど。」
アンが頷くのだった。
「問題は最初の情報量をどの程度流すのかでしょうか。
魔王国相手に取り引きしている所を介して『理由はわからないが西側の穀物価格が上がる傾向にあるとの噂があってエルヴィス領の穀物価格も上がるかもしれない』ぐらいの事を向こうの商店に言いましょうか。」
「情報量的にはそちらで良いと思いますが、もう少し確度を上げるべきではないでしょうか。」
武雄と外交局長が情報の流し方を考えていた。
「なら・・・『伯爵側は動向を見守っている状況で何もないが、子爵からの依頼で穀物の輸入量を3倍にして欲しいと言ってきた。そして貴国の3年後の予想収穫量と想定穀物取引価格を聞いて来るように言われた。これは何か関係があるのか。』云々。と言うのはどうでしょう。」
「キタミザト殿・・・それはいやらしいですよ。」
「情報の流し方はそんな物でしょう。
要はどう『相手に想像させるか』でしかありません。
向こうがどう受け取るかなんて最終的にはわかるわけではありません。
こちらにしても相手を想像して内容を決めているのですし。
あとはなるようになるだけですよ。」
「それはその通りですけどね。
そこまで聞いて相手はどう出るか・・・
キタミザト殿、向こうからの穀物を輸入すると言われましたが、小麦の輸入を?」
「いえ。エルヴィス家では小麦は国内のテンプル伯爵領から主に買っていますね。
その流通を変えるつもりは私にも伯爵にもありません。
私が輸入をお願いしているのは米という新種の穀物です。
領内で作付けが出来るか、商品価値があるのかを確認する段階なので他領まで何かする事ではないですね。
上手く行けばお菓子や料理を作って人寄せになるかもとは思案していますがまだまだ先の話かと。」
「そうですか・・・輸入量を3倍とは平気なのですか?」
「ええ。今の所、金貨10枚で仕入れる事を想定していますからそれが金貨30枚になるだけですね。
試験栽培をするので、あればあるだけいろいろ試作できると思っています。
それに・・・局長、いきなり3倍を輸入して欲しいと言われたらどう思いますか?」
「・・・少量の穀物という事は気にされないでしょうね。
流通量を増やすという行為をするなら私達ですら裏を取りに行きますよ。」
「ふふ。あとはよろしくお願いします。
その辺が私達が魔王国に渡せる情報でしょう。」
「ん~・・・厄介事をこっちに渡しますね・・・
良いでしょう。依頼したのは私達です。
あとは上手くやっておきます。」
外交局長が苦笑しながら頷くのだった。
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