第767話 83日目 見送り。
「・・・」
ベッドには武雄とアリスが裸で抱き合って寝ている。
武雄はアリスの頭を撫でながらボーっとしているのだが・・・
「アリスお嬢様?」
「はい。」
「そろそろ起きましょうか?」
「・・・すみません。昨日は頑張り過ぎて体が怠いです。
出来ればもう少しこのままで。」
「・・・そりゃ、いつもはしないような私のう」
「タケオ様、さっきまでの説明は結構です・・・」
アリスは赤くなりながらジト目で言ってくる。
「はい。
それにしても・・・ふふ、ミアとスーは我関せず寝てくれてて楽でしたね。」
「私は気が気ではなかったのですが・・・」
アリスが恥ずかしながら横目でミア達を見ている。
「全く・・・そんなに私が信用できないのですかね?」
「私の気が許しません。」
「浮気なんてしませんって。
手ぐらいは許可してくれるのでしょう?」
「むぅ・・・それが限度です。
それとちゃんと私を可愛がってください。」
「もちろんですよ。アリスお嬢様が最優先であるのは確かな事です。
と、もう少ししたらヴィクターとジーナが来るかもしれませんね。」
武雄はアリスの頭を撫でながら言ってくる。
「うぅ・・・着替えます・・・」
アリスがのそのそとベッドから出て着替え始めるのだった。
・・
・
武雄達の部屋がノックされアリスが許可を出すとヴィクターとジーナが入ってくる。
「主、アリス様、おはようございます。」
「ご主人様、アリス様、おはようございます。」
「「おはよう。」」
武雄とアリスが朗らかに返事をしてくる。
「ミア殿とスー殿は寝ていますか。」
ヴィクターがミア達を見ながら言ってくる。
「まぁ、昨日は人混みにいましたから疲れたのでしょう。
さて、私は今日から貴族研修が再開ですね。」
「ご主人様、私達はどうしましょうか。」
ジーナが聞いて来る。
「アリスお嬢様とスミス坊ちゃんに付いてください。
アリスお嬢様、よろしいですか?」
「はい。
私も予定はないですし、ジェシーお姉様とスミスで王都見物ですかね。」
「そうですか。
ならあとでアーキンさん達に言って護衛をお願いしておきましょう。
あの2人なら王都も熟知しているでしょうし、店も知っているでしょう。」
「わかりました。
では私は残り、ジーナがアリス様に付きます。」
ヴィクターが頷く。
「はい。
お願いしますね、ジーナ。」
「畏まりました。」
ジーナが礼をする。
「と、先ほどなのですが、廊下で中庭をエリカ殿が見ていました。
儚げな感じでしたが。」
ジーナが言ってくる。
「・・・そうですか。
確か使節団がもうすぐお帰りでしたよね。」
「タケオ様、エリカさんを散歩に誘いませんか?」
アリスが聞いて来る。
「そうですね。
朝の散策も王城の敷地内なら良いでしょうかね。」
武雄が頷く。
「では私共も同行いたします。
ミア殿達はどうしますか?」
「あぁ・・・ミアは私のポケットに、スーはアリスお嬢様のポケットに入れて行きますか。」
「はい、わかりました。」
ヴィクターが頷くのだった。
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アズパール王国王城の門に馬車数台が止まっている。
王城から馬車に向かって一団が歩いていた。
「総司令・・・あのウスターソースは良いな・・・」
「カリスト殿・・・さっきから何回言うのですか。」
総司令がため息交じりに言ってくる。
帝都護衛軍の一行は朝食に出された食事に感動していた。
コロッケパンにスープにサラダといった簡単な物だったのだが、ウスターソースとマヨネーズがお好みでかけるようになっており、割と手軽な朝食になっていた。
「あの味があるのなら国民の食生活も改善されよう。」
「そこは否定しませんが・・・輸入をしてくれるかはわかりませんよ。
何せアズパール王国の対応はあの第2軍管轄なのですから。
あそこに何も言わずに輸入は決行出来ませんね。」
「人事異動をしたから少しは輸入が出来るのではないか?」
「何とも言えません。」
「戻ってから輸入に関しての検討だな。」
「はっ!」
総司令が頷く。
と馬車までの道のりの途中に人が立っているのがわかる。
「・・・カリスト殿。」
「うむ。」
一団は歩調を緩めず歩いて行く。
・・
・
カトランダ帝国皇帝と総司令は馬車に乗込む。
「・・・陛下、何も話されませんでしたが・・・」
「構わぬ。
エリカも何も言わずに頭を下げていただろう?あれで良いのだ。
いくら周りに人が居ないとも不用意な発言は出来ん。」
「それはそうですが・・・」
総司令が悩む。
使節団一団は声をかける訳でもかけられる訳でもなく、ただエリカの前を素通りしていた。
「それで良い、それで良いのだ。
我の娘はもう亡くなっている。
同じような年ごろの娘に娘を重ね合わせるのは理不尽という物だ。
あの娘が平穏無事な一生を過ごすことを願う事しか我には出来ん。」
「陛下・・・」
総司令が難しい顔をさせる。
カトランダ帝国皇帝は馬車の窓から遠くを見るのだった。
「ところで帰ったらチコの嫁探しなのだがな?」
カトランダ帝国皇帝が何気に話を振って来る。
「例の候補が多すぎて困っている件ですか。」
「うむ・・・どの勢力からも『是非に』と凄い売り込みがあるのだがな。」
「世継ぎを早くするなら2名くらいですか?」
「・・・正室と側室の両方を同時にか?
確か、アズパール王国の第1皇子が同時挙式をしたのだったな。」
「ええ。我が国では前例はありませんが・・・」
「はぁ・・・それも一つの手だな。
あとは国政に貪欲でなく、真に我が国を思ってくれている家であればなぁ。」
「・・・難航しそうですね。」
「まぁな。」
と総司令と皇帝がため息を漏らす。
御者台から「出立します」という掛け声が聞こえ、馬車が走り出すのだった。
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「行っちゃいましたね。」
エリカが動き出した馬車を見つめている横に武雄達が来ていた。
「エリカさん、何も話されなかったようですけど・・・良いのですか?」
アリスが聞いて来る。
武雄達は不測の事態に備えて動けるようにはしていたが、親子の会話は邪魔しないように距離を取って見守っていた。
「ええ、父上の元気な姿も見れました。
お互いに最後まで他人を貫く。
これで良いのです。」
エリカは顔を向けずに言ってくる。
「そうですか・・・」
アリスは少し悲しそうな顔をさせる。
「・・・アリス殿、少しタケオさんを借ります。」
「ええ、どうぞ・・・」
「うぅ・・・あぁぁぁぁぁ!!!
父上ぇ!!!!」
と、アリスが返事をするとエリカは武雄の胸に顔を埋めて泣くのだった。
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