第763話 立食会。5(執事の能力要件。)
武雄達は話し合いが終わりアルダーソンとボールドが離れて行った。
「ん?アン殿下、クリナ殿下、何を悩んでおいでですか?」
武雄が声をかける。
「ん~・・・タケオさん、ジーナと同等の執事を手に入れる方法はありますか?」
アンが武雄に質問してくる。
「・・・なんでそんな話に?」
武雄がエイミーに聞く。
「いえ、お付の話をしていたのですが、2人がジーナと同等の執事かメイドを雇いたいと言い出しまして。
タケオさん、どうすれば良いのでしょうか?」
エイミーが「回答方法がわからないです」と言ってくる。
「アン殿下、なぜジーナと同じ執事が欲しいのですか?」
「配膳も出来て戦闘も出来る高仕様だからです。
私達と同年代でジーナのような高い能力を持っている者はいません。」
「なるほど。ですが逆に考えると今までいなくても問題にはならないのですから必要とされる能力はそこまで高い必要はないという事になります。」
「確かにそうです。」
アンが頷く。
「では、少し話を代えてみましょうか。
執事のお仕事をする上で最低限必用な資質とは何でしょうか。
はい、クリナ殿下、どうぞ。」
「え・・・えーっと。『主人を満足させる事が出来る』ですか?」
クリナが考えながら言う。
「んー・・・それだと広すぎますね。もう少し具体的にお願いします。
なので、ブー!」
武雄が胸の辺りで両手で×印を作り言う。
「・・・」
クリナが可愛らしく脹れる。
「では、アン殿下。」
「じゃあ、『気配りが出来る』です。
お客様や主人の空いた皿とかお茶を足さないといけません。」
「ん~・・・絶対必要かというと違うでしょう。
はい、ブー。」
「タケオさん、それ腹立たしいです!」
アンが抗議してくるが武雄は相手にしない。
「次はスミス坊ちゃん。」
「気配りでないなら・・・『情報収集が出来る』でどうですか?」
「はい、遠くなりました。
ブッブー。」
武雄の×印にスミスはガッカリする。
「エイミー殿下、わかりますか?」
「執事とは主人の補佐官を指し、家内の事やお金の収支の管理をする者を執事と呼んでいます。
組織上は総監局でしょう。」
「はい。
続きをどうぞ。」
「第2皇子一家の家で執事の採用条件は3つ。
・・・守秘義務でしょうか。」
「私の用意した答えに近いですね。なので判断は保留です。
アリスお嬢様はどう思いますか?」
「執事に必要な事は主に対しての高い忠誠心です。」
アリスが即答する。
「はい、私もそう思います。
高い忠誠心があれば守秘もされますね。
もちろん、主が恥をかかないようにと客に気配りをし、事前に情報を集めてくれるでしょう。
そしてその積み重ねを見る事で主は満足するのです。
なのであながちクリナ殿下やアン殿下が言った事も間違いではないのですが、この場ではもう少し根本を言って欲しかったので不正解としました。
わかりましたか?」
「「「なるほどぉ。」」」
クリナとアンとスミスが頷く。
「・・・」
エイミーが武雄の話を聞いてくる。
「さて、ヴィクターとジーナは私に高い忠誠を捧げてくれています。
まだ日は浅いですけどね。十分に信頼を置けると私は思っています。」
「はい、ご主人様。
私はご主人様に拾われ最高の幸せを享受しています。
このご恩は絶対に忘れません。
ご主人様の下で25年間しっかりと働かせて頂きます。」
「とまぁこんな風に高いのですけどね。
この忠誠心の前では能力の高い低いは私に取っては問題でも何でもありません。」
「そうなのですか?
タケオさんはジーナの能力が高いから買ったのでしょう?」
アンが聞いて来る。
「能力が高いとはミアは言っていませんが・・・いや、言いましたかね?
ミア、何と言いましたか?」
武雄がそう言うとミアが胸ポケットから顔を出す。
「・・・最初は高位の魔物と認識して、聞き取りをした後は戦力として十分と言いました。
ただ、気配的に人間より上という感じで言いましたね。
何が出来るかとかは知りませんでした。」
ミアがそう言うとすぐにポケットに隠れる。
「そして私は部下であるミアの進言があった事とヴィクターの心意気を聞いて買いました。
ちょうどお金の管理もして欲しかったですから。」
「タケオさん、良く買いましたね。」
エイミーが呆れる。
「部下のミアが大丈夫と言うなら信じてあげるのが上司である私の役目ですよ。
私も執事は欲しかったですし、手持ちのお金もありましたしね。
結果、有能な執事が手に入った訳です。
・・・確かに忠誠心もあって能力もあるのは理想としては良いでしょう。
ですが、そもそもそういう者と出会えるかは運でしかありません。
世の中というのは得てしてどちらかしか手に入らない事の方が多いのです。
さて、クリナ殿下、アン殿下、ジーナのような執事が欲しいと言っていましたが、それは能力が高いから欲しいのですか?」
「「・・・」」
クリナとアンが考える。
「クリナ、アン、考える必要もありません。
私達は能力よりも忠誠を評価するべきです。
そして2人とも同年代で自分達に忠誠を捧げてくれる者を探さないといけません。」
「・・・そうですね、エイミーお姉様。」
クリナが頷く。
「わかりました。」
アンも頷く。
2人の回答にエイミーがホッとするのだった。
「そう言えばスミス坊ちゃん、エイミー殿下に渡しましたか?」
「いえ、タケオ様が戻ってからにしようかと思っていました。」
「え?私に?何を?」
エイミーがスミスを見る。
「良い機会です。今渡しましょう。」
「はい。」
スミスが懐から小さい木箱を出して机に置きエイミーの前に出す。
「・・・」
エイミーがジーっと木箱を見ている。
「エイミー殿下、開けないのですか?」
武雄が聞いて来る。
「開けて良いのですか?」
「さぁ?スミス坊ちゃんが渡した物を私が勧めるのも違うかと。」
「ス・・・スミス、開けて良い?」
「はい、エイミー殿下。」
スミスが答えるとエイミーが恐る恐る開ける。
「あ・・・」
エイミーが中を見て驚く。
中には懐中時計が布に包まれて入っていた。
「懐中時計・・・なんで?」
「エイミー殿下、タケオ様に聞いたのですが欲しがっていたと伺いました。
ですので、ステノ技研で作った試作の1個を持ってきました。」
スミスは武雄が用意した文言を言う。
「ス・・・スミス、ありがとう。大事にするわ。」
エイミーが懐中時計を見ながら感謝を言ってくる。
「はい。ですが、まだ試作ですので、故障するかもしれませんのでその際は言ってください。
新しい物を手配します。」
スミスもにこやかに返答する。
「「スミス!タケオさん!私達の分はないのですか!?」」
クリナとアンが聞いて来る。
「え?・・・欲しがっていましたか?」
「「欲しいです!」」
武雄が聞くとクリナとアンが言ってくる。
「じゃあ、エルヴィス邸に戻ったらお送りします。
送り先は領地のお屋敷の方で良いですね?」
「「はい♪」」
クリナとアンが喜ぶのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




