第761話 立食会。3(僅差で負けろという命令。)
エイミーたちが何やら語っている横で。
「・・・ご主人様、アン殿下やクリナ殿下の予想通りに事が運んだ場合、私はどうすれば良いのでしょうか?」
「・・・ん~・・・スミス坊ちゃんに従いなさい。」
「わかりました。」
ジーナが頷く。
「え?僕ですか?」
「ええ。流石に王家の執事の腕を1、2本とは命令出来ないでしょう。
なら・・・現場で見ているスミス坊ちゃんが判断するしかないでしょうね。」
「スミス、しっかりと僅差で負けなさい。」
武雄とアリスがスミスに丸投げする。
「僅差って・・・いや、負けちゃいけない部分はあるじゃないですか。」
「例えば?」
アリスが聞いて来る。
「え?・・・体力測定とか?勉強で負けてはダメじゃないですか?」
「そこを上手くしなさいって。
体力で絶対に負けないとするなら、勉学で向こうに優越させれば良いじゃない。」
「・・・えええ。試験で手を抜くのですか?」
「アリスお嬢様、流石に試験はマズいですよ。」
「むぅ。タケオ様、なら上手い方法はあるのですか?」
「ジーナの試験の順位は別に気にさせませんが、スミス坊ちゃんは常に1桁台を取れば良いのでしょう。
もしくは上位5名に必ず入るとか。」
「常に上位5名?・・・いや、タケオ様、それは無理です。」
スミスが言ってくる。
「・・・無理かどうかは知りません。
スミス坊ちゃんなら出来るのではないですか?
それに主人が知識面も体力面も上位を維持すれば・・・」
「「すれば?」」
「もれなく執事対決になるでしょう。」
「タケオ様、回避する方法を教えて欲しいのですけど。」
「寄宿舎内とは言え、王家の要請を無下にするのですか?」
「う・・・それは、無理です。」
「でしょう?
殿下対スミス坊ちゃんという構図は向こうもこちらもしたくありません。
なら」
「うちの息子も協力しますよ。」
アルダーソンが話しかけて来る。
「おや?向こうは良いので?」
「ええ、粗方終わりました。
で、キタミザト殿と話していなかったのを思い出したので来ました。
エイミー殿下、クリナ殿下、アン殿下失礼いたします。」
「「「ええ。」」」
エイミー達は声をかけられ、初めてアルダーソンが来たことを認識する。
軽く話をするとエイミー達は自分達の話に戻っていくのだった。
・・
・
いつの間にかボールドも武雄達の方に来ていた。
「さて、王家の面倒に対しての協力とは何ですか?」
武雄が聞いて来る。
「執事対決を貴族皆が受ける形にすれば良いでしょう?
個人対抗としなければ角も立たないし、それに絆も深まりそうです。」
「アルダーソン殿の所はどんな執事を?」
アリスが聞く。
「うちは息子と同い年の騎士団員の息子です。
体力面なら何とかなるでしょう。」
「ボールド殿の所は?」
武雄が聞く。
「うちもゴドウィン家の騎士団の息子を入れようかと思っています。
気心知れた息子さんですから本人の気も晴れるでしょう。」
「さて・・・そこにジーナを投入ですか。
ジーナ、どうしたいですか?」
「・・・特には・・・目立ちたくないのですけど。」
ジーナが真面目顔で言ってくる。
「そうですか。
ならジーナは好きにしなさい。
スミス坊ちゃんに聞いて負けて良い局面なら負けて構いません。」
「そうします。」
「タケオ様、勝たなくて良いのですか?」
スミスが聞いて来る。
武雄はその言葉に微妙な顔をさせる。
武雄は「・・・何か皆さん考え違いをしていますが、ジーナは獣人なんですよね。普通に体力勝負して寄宿舎内の人間が勝てるわけないでしょうに」と思う。
「絶対に勝たないといけない場面はそうそうない物です。
それにうちの執事が勝ちまくるというのも余りよろしくないでしょう。
そもそもジーナが勝負をする気がなさそうですし。」
「・・・はい。
まぁ、私はスミス様の護衛。ならスミス様に危害が加えられないのなら適当にしています。
それに私は人間社会を見たいのであって人間と競争する為に行くわけではありません。」
ジーナが言ってくる。
「・・・という事はタケオ様はもしかして勝ちに拘らないのですか?」
「はっきり言って勝つ気はないですよ。
知識面はどうしてもこの数か月の詰め込みです。
他の皆さんに敵うわけありません。なのでその部分はスミス坊ちゃんが制すれば良い。
執事同士の戦いになっても執事に知識を求めるのは筋違い。
なら体力勝負でしょうが、ジーナなら上手く対応出来るでしょう。
まぁ実際はどういう条件下で勝負が挑まれるかによるでしょうけどもね。
その条件がスミス坊ちゃんの耐えられない事や著しくエルヴィス家とうちを傷つける物なら全力で対すれば良いでしょうが・・・王家の者がそこまでの対抗はしてこないでしょう。
まぁその辺はスミス坊ちゃんに任せます。」
「僕が耐えられない事・・・ですか?」
「ええ。どんなことが待っているかは知りませんが、『あ、これは無理だ』と感じたら何かしらの手を打つしかないですよ。
ジーナには防衛時のみの戦闘を許していますので、全力で対応してくれるでしょう。」
「・・・確かジーナはオーク程度なら倒せるのですよね?」
「「え!?」」
スミスの呟きにアルダーソンとボールドが驚く。
2人から見たらジーナはそこらの貴族令嬢の体格でしかない。
そのような外見でオークと渡り合えると言われると驚くしかない。
「・・・オーク程度ならジーナ1人で倒せるぐらいには仕上げたいですが・・・
そもそも剣術の稽古も始まっていません。
どこまで使えるかはまだまだ未知数です。」
「そうですね。
それにジーナちゃんは警護者ですからね。
後ろに人がいる状況だと戦い方は違うでしょうね。」
アリスも考えながら言ってくる。
「まぁ、そんな感じで」
「どんな感じですか!?」
武雄の発言にスミスが言ってくる。
「・・・そんな感じで寄宿舎では楽しく過ごしてください。
王家とドタバタをしても良いですよ、多少の事は大目に見ますけど。
何か面倒を起こしたらスミス坊ちゃんに説教をしに行きます。」
「うぅ・・・寄宿舎生活が面倒に感じ始めました。」
スミスの顔が曇る。
「そこは頑張れとしか言えませんね。」
「スミス、なるようにしかならないわよ。」
「あぁ、うちのも少し心構えを付けさせるか。」
「そうですね。
判断力だけは付けさせないといけないでしょうね。」
大人たちがスミスに同情しながら言ってくるのだった。
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