第758話 立食会の裏で。2(交渉。)
「そうそう今度ウィリプ連合国に仕事で行きますからね。」
「ウィリプ連合国に?」
「ええ。奴隷をね。」
「アズパール王国が奴隷を?」
「良い国民が欲しいらしいですよ。」
「ふむ・・・奴隷ではなく国民が欲しいんだね?」
「ええ。将来の輝かしい国家運営の為に。
異種族の雇用に動くそうですよ。」
「・・・敵である俺にそれを言って良いの?」
「私達が越境したらなぜ来たのかなんて言わなくても調べるでしょう?
君はここまで来れたのですから、事前に教えて上げますよ。
ただ私が真実を言っているのか嘘を言っているのか。
信じるかどうかは君が判断すれば良い事です。」
武雄はそう言いながら「どうせ誰か協力者がいるからわかるでしょう?」と思う。
「ふぅ・・・おっちゃんも随分と駆け引きが出来るね。」
「出来ているかは他人が決めれば良いのです。
私は私なりに考えて話をしています。」
「おっちゃんへの対価は何が欲しい?
俺ばかり貰っても後味が悪いよ。」
「ふむ・・・これは私がしたい事の方ですけどね。
エルフで農業経験がある者が居るのかわかりますか?」
「・・・エルフは最近うちの国内での流通が増えているという実感はあるね。
でも奴らは森の奥を住み家にしている非戦闘系の魔物だから・・・エルフの農夫も居るんじゃないかな?」
「・・・非戦闘系?」
「戦闘に消極的、思考が内向き、力も弱い。総じて戦闘に出しても弱い。
だが、エルフは見た目が綺麗で高値で売られる傾向にあるみたいだね。
まぁ俺は潜入部門なのでね。
市場価格や流通の中身まではわからないけど。
高値が付くなら売れ筋なんだろうね。」
「・・・森の奥にいる者をどうやって手に入れているんですかね?」
「・・・さぁ?奴隷商に聞いてみるしかないね。
普通入手経路は言わないけどさ。」
「そうですか。
人攫いは国家間で争い事に発展するのは目に見えていますよ?」
「それは俺の預かり知らぬことだよ。
俺は潜入するのがお仕事。人攫いは別の人がしているのでしょう?俺が知る訳でも言える立場にもないよ。」
「それもそうですね。
まぁ結果的に売られているのは事実ですね。」
「そうなるね。
おっちゃん、エルフが欲しいの?」
「ええ。農業に力を入れたいのでね。
早急な発展をさせるには多種多様な考えは必要でしょう。」
「ふ~ん・・・
口利きが欲しい?」
「要りません。」
武雄がきっぱりと断る。
「自分の目を信じて探し、そして会えたならやりたい事を説明して納得して貰うのみです。」
「それで買えるかな?」
「別に何が何でも手に入れたいわけではありません。
これは私がしたい事の範囲で欲しいと思っている人材なだけです。
誰かからの依頼ではないのです。
そこで手に入らないのであればそれまでです。運がなかったのでしょう。」
「割り切るね。
じゃあ、おっちゃんの依頼されている仕事ではどんなのが欲しいの?」
「人間に敵対しない、そこそこ強い、割と若い。」
「最初はわからないけど後の2つは大量に候補が居るね。」
「あとは人間と風貌がほぼ一緒。」
「うちのはトカゲだの獣だのが多いのは確かだね。
人間種と同じ風貌なら耳や腕の一部が獣のがいるし、まぁ奴らを入れて2割。
外見がほぼ人間種と同じなら1割を切るね。
ここにエルフや獣人の一部が入っているよ。」
「価格は?」
「卸値で金貨100枚以上。エルフは200枚とも300枚とも言われる。」
「そうですか。
取引されている魔物はどんな物が?」
「門番用に大型獣人、自身の権威装飾用としてエルフ、農作業用に獣人。
他にもペットだの性交相手だの用途は様々だし、鷲や鷹、馬に狼、蟲とスライム。」
「スライム?」
武雄が首を傾げる。
「あぁ。年に1回あるかないかで出品される事があるね。
これもなかなか捕まらないから高値らしい。」
「・・・物好きがいるのですね。」
「蓼食う虫も好き好きというやつだね。
人の趣味に何かを言う事は出来ないね。」
「さて、これ以上私からありませんが、何かありますか?」
武雄が聞いてくる。
「そうだね・・・教えられた情報はもしかしたらその後ろの部屋にある物に次ぐ情報だったかもね。」
「それはそれで良かったですね。」
「じゃあ、こっちから最後に・・・
おっちゃん、上司に言っといて。『カトランダ帝国とウィリプ連合国には気を付けろ』と。」
「国同士です。侮るとは思えませんけど?」
「それでもだよ。アズパール王国には生き残って欲しいのでね。」
「ウィリプ連合国に所属している君に言ってもどうかと思いますが、何年後だと思いますか?」
「俺達の想定では4年半。上はやる気だよ。」
「・・・君だけの話だけだと動かないですよ。どう説明しても信じて貰えなそうです。」
「証拠が欲しい?」
「入手経路で私が疑われますから要りません。
進言はしておきます。
あとは上が考えれば良いでしょう。」
武雄が真顔で答える。
「そう。ん?」
と仮面の者の後ろからもう1人旅装飾の仮面の者がやって来る。
「時間だ。撤退を。」
「こっちも話は終わった。今回は撤退だね。」
仮面の者が頷く。
「お客様のお帰りですね。これを。」
武雄がいつの間にか出したのか皮のナイフケースに収められた短刀を仮面の者に放り投げる。
「・・・」
バロールが一歩前に出て受け取る。
「これは?」
「その短刀の柄の部分を回すと書類が入っています。
その書面と短刀をセットで見せる事で門を無条件で通る事が出来ます。
まぁ後で報告はしないといけないので今日だけの方法ですけどね。」
「おっちゃん、すまんね。」
「私の仕事はこの先の部屋に行かせない事。
仕事が完遂出来そうです。
セイジョウ君、元気で。」
「ドウさんも。」
仮面の者が会釈をして後から来た者と去っていくのだった。
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