第757話 立食会の裏で。1(侵入者。)
ここは宝物庫に通じる廊下、正確には宝物庫扉前。
ミルコ達は壁際だが、武雄とアーキンとブルックは扉前に椅子を置いて待機している。
ヴィクターとジーナはミルコ達とは逆側に机を出してお茶や茶菓子を用意して皆の対応をしている。
「お姉ちゃん、眠いね。」
「そう・・・ね・・・」
ミルコとアニータが椅子に座りながらウトウトしている。
その様子をヴィクターとジーナが見守っていた。
「・・・所長、本当に来ると思いますか?」
「・・・さて。本命は陛下の書斎という事もあり得ますが・・・
あっちは王家専属魔法師達が居るのですからここよりかは難しいでしょう。
確率ではこっちに来るかもしれないですね。」
「そして第一情報が屋根上に陣取っていますよね。
陛下と雑談をしていて私達がここになりましたが、王都守備隊でなくて本当に良かったのですか?」
「ブルック。
王都守備隊は立食会の警護に入っている。
向こうの人達が狙いという事もあり得るからな。
最低限、使者達が襲われる事は防ぎたいという意向だし、向こうを厚くするのは当たり前だろう。
で、余っている戦力でどんな相手でも過不足なく対応出来るのがうちと王家専属魔法師部隊しかいなかったというだけだ。」
アーキンが説明する。
「陛下からは取り逃がす事も可と言われていますし、王家専属魔法師殿には短刀を急造して貰っていますし。」
「束縛しないのですか?」
「・・・はたして他国の宝物庫に遊びに来るような者に対して束縛が有効かどうか・・・陛下の言い方だと住み家を教えて貰いたいのではないですかね?」
「・・・ウィリプ連合国への行き掛けの駄賃にねぐらの強襲ですかね?」
「・・・それも1つの案。
どちらにしても今はここを守りきらないと意味がありません。
先々の事は後で考えれば良いのですよ。」
「主、来ました。」
ミアが胸ポケットから顔を出して来訪者を告げる。
と武雄の耳にも誰かの足音が近づいてくるのがわかるのだった。
・・
・
宝物庫に通じる通路に旅装飾で仮面を付けた者がやって来る。
「「止まれ!」」
扉前に居たアーキンとブルックが立ちあがり抜刀した状態で来た者を止める。
「ここは本日どなたも通してはならないと厳命されています。
どなたか存じませんが、お引き取りください。」
武雄がアーキンとブルックの間に立って仮面の者を見据える。
「・・・」
仮面の者が不動で武雄達を見ている。
「・・・」
武雄も無言で見ている。
・・
・
と、仮面の者が明後日の方に一瞬顔を向け、すぐに武雄を見てからため息をつく。
「はぁ・・・おっちゃん。
いつからわかっていたの?」
「御者台に居ましたよね。」
「最初からかぁ・・・おっちゃんは元々ここに?」
「いえ、地方貴族の配下でした。
君に言った事もあながち嘘ではないですよ。
説明内容を絞っただけです。
で、君と会ってから王都に寄った際に君のくれた・・・あの遠くが見れる物がありましたよね。
あれをとある方に見せたのですけどね。その人に拾われました。
なので、今はここでこうしているわけです・・・これ初仕事ですけどね。」
「変な巡り合わせだね。
でも世の中そんな物かもね・・・殺る?」
「初仕事で面倒は困りますね。
ですが、これも仕事です。したいなら来なさい。」
武雄が顔色一つ変えずに言う。
「・・・実力差があろうと平常心の者に易々とは勝てない・・・か。」
「一応、聞いておきます。
ここに来た要件は何ですか?」
武雄が呟きに反応せずに聞いて来る。
「それは言えないね。
俺も仕事だから。」
「そうですか・・・今下がるなら王城の門を通る方法をお教えします。
お互いに無益な戦いはするべきではないし、君ももうここには居られないでしょう?
今回は下がりなさい。」
「・・・おっちゃんのメリットは?」
「今の地位の・・・私の人生の転機の切っ掛けを作ってくれた恩人を助けるだけなので利点はないですね。
その方法を教える事であの遠くが見える物を頂いたのは相殺でお願いします。
それに君はまだ何もしていませんから、罰する法はありません。
ですが、そこから1歩でも近づくと制止勧告を破られますので法に触れますかね。
その際はこの場の皆で排除させて貰います。」
「・・・」
仮面の者が身じろぎせずに考えている。
「と言っても次に来る事があれば、この場はもっと厳重になっています。
君がここに来れてしまったのです。警備が変わるのは当たり前ですけどね。
君にとっては今回が最初で最後の訪問でしょう。状況だけ見れば絶好の機会とも言えますが・・・
何が欲しいのか知りませんが、私達は仕事で手を抜きませんよ。」
武雄が表情を崩さずに言う。
「おっちゃん。その後ろの部屋の中に何があるか知っている?」
「知りたくもないですね。
知識というのは知る必要がある物は知らされますし、知る必要がないのであれば降りて来ません。
なので自身の興味本位だけで覗き見すると身の丈に合わない情報に自身が壊れてしまうのが世の常です。」
武雄はそう言いながらも「その先の知識を得た際の危険を知りながらも物事を追究出来る者を研究者とか開発者と言うけどね」と思う。
「そう。
その中には世界を滅ぼしうる物が眠っている、と言ったら?」
仮面の者がそう言い放つとアーキンとブルックが若干目線を動かし武雄を見る。
「国の宝物庫なのです。
危険性のある物が1つや2つあった所で驚きませんよ。
だからこそここで管理されているのでしょう。
むしろ、そんな曰く付きの物が一ヶ所に集められる方が余程危険です。
もし一ヶ所に集める必要があるのなら個人で勝手に持って行くような事をせず、国同士の話し合いで共同管理をすれば良いのです。
なので君がしようとしている行為は何も良しとする所はありません。」
武雄が平静に言ってくる。
アーキンとブルックが武雄の言葉にホッとする。
「・・・おっちゃんは王になる気はある?」
「王という概念をどう判断するかは個人の自由ですが、王とは行動した結果についての責任を持つ者と考えるなら、私達は自身に対しての王に他なりません。」
「言葉で遊ぶのは好きくないなぁ。」
「・・・地域の支配者という意味なら私は王になる気はありません。」
「なぜ?」
「面倒だからです。
私は強欲でしてね。
したい事のみをしたいのです。」
「我が儘だね。」
「ええ。ですが最初はそう思っていましたが、なぜかこんな警備の仕事をしています。
面倒が増えて行きますね。」
武雄が面倒そうに言うのだった。
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