第738話 人事局で追加の会議。4(目的地。)
「さて・・・話は逸れましたが、王都では奴隷がどういった経路を通っているかは知っています。」
オルコットが席を立ち、カトランダ帝国とウィリプ連合国の2か国が載っている地図を持って来る。
「まずドワーフ王国からカトランダ帝国を抜け、ウィリプ連合国の・・・この街ですね。
海に面している都市まで運んでいます。
そしてここに奴隷船も着くという事はわかっています。
奴隷商もここに集まるでしょう。
そして売買がなされているのなら組合組織があると考えられます。
そこの事務所に行ってその奴隷商を見つけるのが良いでしょうが・・・キタミザト殿、その奴隷商は使えそうですか?」
「・・・さて・・・奴隷の原価がいくらかはわかりませんが、私達の感覚では高位であるヴィクターとジーナを見極められ、そして引き取れる財力がそもそもあり、奴隷の扱いが丁寧であるという事ぐらいしかわかりません。
ヴィクター、ジーナ、2人はどう思いますか?」
「主、皆さま、食事に関してはあの奴隷商は3食は出してくれていました。」
「・・・味の薄いスープとパン1個でした。
ご主人様のご飯を食べた時の感動は忘れられません。
この世で一番美味しかったです。
まぁ服装は布1枚でしたけど。」
「「布1枚?」」
人事局長と総監局長が聞いてくる。
「ジーナの話では奴隷は1ヵ所に集められ身体検査、奴隷商への事前市を経て競売され引き渡されます。
事前市は全裸だそうで・・・たぶん引き渡しをされる前に渡される衣服でしょう。」
武雄が感情を出さずに言い放つ。
「・・・キタミザト殿、ヴィクター殿に質問をしてもよろしいでしょうか。」
軍務局長が聞いてくる。
「構いません。」
「ヴィクター殿、事前市をされている間どんな感じなのでしょうか?」
「・・・どんな・・・とはどういった事をお聞きされたいのでしょうか?」
「会場の雰囲気やご自身の心情とか。」
「会場の雰囲気は特にこれと言って・・・あくまで商品を見るのでしょうから奇異の目で見られるような事はなかったかと。
それと事前検査で中まで見られるとかされましたが感情的には何でしょうか・・・そう・・・諦めという言葉が一番合っていたと思います。
それにジーナがどうなるかの方が心配で私の事はあまり考えてはいませんでした。」
「あぁ・・・私はあれは嫌でした。
穴という穴を見られますから・・・『一等』とか言われましたし・・・」
ヴィクターの横でジーナがボソッと呟く。
「ジーナ、なんですか?『一等』とは?」
武雄が聞いてくる。
「ご主人様、わかりません。
男女で別れて検査をされたのですが・・・同じくらいの女の子や若い女も『一等』でしたし、子連れの女性や同じ様な若い女性でも『二等』と言われましたね。年配のご老人は『三等』と言われていました。」
ジーナが首を傾げる。
武雄が「なるほどね。そこで女かどうかを確認するのか」と思う。
「・・・はぁ・・・そうですか・・・
ヴィクター殿、ジーナ殿、辛い記憶を言って頂きありがとうございます。
・・・聞かないといけない事でしたでしょうが、聞いて気分が良い物ではないですね。」
オルコットが眉間に皺を寄せて頷いてくる。
他の面々も同じ様な顔をしている。
「商品を確認するという行為は商いなら当然でしょう。
ですが・・・何でしょう・・・ウィリプ連合国に対して沸々と悪い感情が出て来ますね。」
財政局長が遠くを見ながら言う。
「・・・」
他の面々もジーナが受けた身体検査で何を確認されたのかはわかったので表情が怖くなっている。
「キタミザト殿、先ほどの能力要求事項書ですが・・・性別の項目はなしで構いません。」
王都守備隊総長が言ってくる。
「・・・よろしいのですか?
最初なので男性にしておいた方が無難だとは思いますが。」
「それも含めてキタミザト殿にお任せいたします。
性別よりもキタミザト殿、そしてミア殿が『この者は使えそう』と思っていただいた者で結構です。
それとフォレットとバートについては問題ありません。
奴隷の組合がある街に先行させ、奴隷商組合の聞き取りや街の調査をさせましょう。
第1騎士団長問題はありませんか?」
「はい、問題はありません。」
王都守備隊総長と第1騎士団団長が頷くのだった。
「キタミザト殿、とりあえず以上です。
あとは正式に陛下から命令書が出ますのでその際に行いましょう。」
「わかりました。
では皆さま、寄宿舎の件も含めお願いいたします。
ヴィクター、ジーナ、帰りますよ。」
「「はい。」」
武雄とヴィクターとジーナが席を立ち会議室の扉を開けて退出していく。
「皆さま、失礼いたします。」
最後にジーナが綺麗なお辞儀をして出て行った。
・・
・
「・・・オルコット宰相、クラーク議長。
ニール殿下からの提案ですけど・・・本腰を入れて計画をしましょう。」
軍務局長が真面目な顔をして言ってくる。
「そうだな。
魔王国との全面戦争をするわけにもいかないが、ウィリプ連合国の国力は下げるべきだ。
そうする事で奴隷となる者を少なく出来るかもしれないな。
それにしてもジーナ殿が来るか・・・寄宿舎も騒がしくなりそうだな。
人事局長、後任の王立学院の学院長はまだ決まりませんかね。
老人に掛け持ちはいささか厳しいのですがね。」
クラークが頷く
「もう少しです。
今回の内通にかかわりのない貴族は数家です。
あとは各部局の承認待ちです。」
「そうですか。
もうしばらくキタミザト殿に待って貰わないといけないでしょう。」
「なんでしょうか・・・キタミザト殿はこっちの動きを見ているように話してくるのですけど・・・」
総監局長がため息交じりに言う。
「・・・でなければ研究所案を陛下の前で披露なんかしませんよ。
有効な立案が出来るからこそ子爵位なんですから。
まぁ・・・出来る方は稀ですし、代を重ねると出来なくなる家もありますけども。」
クラークが言う。
「・・・伯爵にしてしまえば良い物を。
全ての想定が出来る者が伯爵位なんでしょう?」
総監局長が言ってくる。
「流石に新貴族でそれをやると他の貴族が黙っていないでしょう。
それに爵位を上げれば目録に無い貴族報酬が上がります。
今の財政にその余裕はないですよ。
・・・オルコット宰相、その辺はキタミザト殿に話したのですか?」
財政局長が言ってくる。
「いえ・・・ですがもう支払っているので額面を見ればわかるかと思いますし・・・
先ほど各新貴族の執事達とは別の書面をヴィクター殿に渡しているのでわかるでしょう。」
オルコットが普通に返す。
「どちらにしても王都は動きだしますね。」
局長の誰かが呟きこの会議が終わるのだった。
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