第718話 王都に到着。(エルヴィス家4姉弟とアンのスイーツ。)
武雄とアリスが前回も泊まった来賓用の部屋でアリスとジェシーとスミスとヴィクター親子が揃っていた。
ジェシーがスミスの両方のほっぺをつねっていた。
「私を脅したのはこの口か♪」
「痛たたた・・・ジェシーお姉様?なんですか?」
スミスがつねられた場所を手で押さえながら抗議してくる。
「なんですかじゃない!まぁテンプルはどうでもいいけど。」
「いや、ジェシーお姉様。それはそれでマズいでしょう。」
「良いのよ、あれはやる気ないんだから。
それよりも私に向かって『買い先が広がるね♪』とは良く言ったものね。
この!この!」
ジェシーは再びスミスのほっぺをつねり始める。
「痛いですってー!
あぁ・・・ひりひりする・・・
だって事実じゃないですか。
皆が集まって売りに来るならより良い物を手に出来る可能性がありますよ?
普通に感想を言っただけです!」
「それは心の中で思いなさい!
あの場でその言葉を聞くと『貴方達の所から買うとは言ってない』という風に捉えます!
スミスはうちとテンプルに喧嘩を売ったのよ?」
「え?僕はそんな風には言っていませんよ?」
スミスがキョトンとする。
「まぁまぁジェシーお姉様、それは裏を読み過ぎですよ。」
「アリスは甘いわね。
てかタケオさんも何も言わなかったわね・・・
戻って来たら問い詰めなきゃ。」
武雄はただいま王都の料理長に呼ばれて退席中。ボールドは「寝ます。」と部屋に戻っていた。
と、部屋のドアがノックされ、アリスが「どうぞ。」と入室の許可を出すとレイラが入ってくる。
「皆お疲れ~。あれ?タケオさんが居ない。」
レイラが入るなり室内を見回す。
「タケオさんは料理長に呼ばれて行ったわよ?」
「あ、じゃあ明後日の立食の内容打ち合わせかな?」
レイラが腕を組んで考える。
「普通、地方の人間に王都の料理人が聞くものかしらね?」
「タケオさんは例外だから。
アンちゃんも何か作っていたみたいだし。」
「アン殿下が?」
「アンって第1皇子一家の?」
レイラがボソッと言った言葉にアリスとジェシーが反応する。
「アン殿下って誰ですか?」
スミスはわからないようだ。
「うん、スミスは後でお説教。
何で王都に来るのに王家の家族構成を頭に入れないかなぁ?」
「あ~・・・レイラお姉様に聞けばいいかと。」
スミスが「あはは」と返してくる。
「・・・確かアリスも前はそんなだったわよね。」
「そうでしたか?」
アリスも「あはは」と明後日の方を向く。
「まぁ良いわ。
タケオさん達がエルヴィス家に帰った後からアンちゃんは料理をしていたのよ。
何か料理長と作っていたのは知っているんだけど、私達には出されていないからわからないのよね。
たぶんタケオさんはそれを今食べているんじゃないの?」
「ふ~ん。アン殿下は料理が出来るのかしら?」
「確か、タケオ様がアン殿下にプリンの作り方を教えていました。
なので出来るとは思いますが・・・」
「なるほどね。
まぁタケオさんが許可すればそのうち出て来るんでしょうね。
で、レイラどうしたの?」
「ん?タケオさんにさっきの話を聞こうと思ったんだけど・・・
入れ違いでしたね。」
「さっきの話ですか?」
アリスが聞き返す。
「ええ。スミスが豪快にテンプル伯爵とジェシーお姉様に喧嘩売ったでしょう?
タケオさんはどう思ったかと思って。」
「ほら!私が感じた通りでしょう!」
ジェシーがスミスに言ってくる。
「だから僕はそういった意味で言っていませんって。」
「スミスがどう思おうが相手あっての会話です!
向こうが喧嘩を売られたと思ったらスミスが何と言おうがそうなってしまう事を覚えておきなさい!」
「うぅ・・・わかりました。」
スミスは「あぁ、失敗したんだ~」と少し落ち込むのだった。
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ここは王城の厨房。
「タケオさん見てください!
どうですか?可愛く出来ました!」
アンが前のめりで武雄に感想を聞いてくる。
「はい、綺麗に盛りつけが出来ていますね♪
料理長、これはどうやって作ったのですか?」
武雄の前には苺のゼリーが鎮座しているのだが。
武雄的には寒天かゼラチンがなければ出来ないと思っている物だった。
エルヴィス家の厨房ではゼラチンはなかったのだ。
「これはゼラチンという食材に水と砂糖を混ぜて固めた物です。
ゼラチンは牛を原料に使うのですが・・・少々精製が大変でしてね。
値段も高くてあまり使っていませんね。
明後日のような大規模な立食や他国からの来賓があった時ぐらいしか我々も作りません。」
「ゼラチンがあるのですか。
そうですか・・・ゼラチンかぁ。」
武雄はそう呟きながら一口食べる。
「あの~・・・タケオさん?どうですか?
イチゴを甘くしたゼラチンで包んで更に牛乳に砂糖を入れて煮詰めた物を上からかけたんですけど・・・」
「とても美味しいですよ。
今日の夕飯後のデザートで出されるのですか?」
「はい、そのつもりです。」
「料理長、良かったです♪
タケオさんに了解を取れました♪」
アンが嬉しそうな顔をさせる。
「やりましたね、アン殿下。
いや~キタミザト殿、キタミザト殿が出立してからアン殿下と試作を繰り返しましてね。
見た目も味もアン殿下が満足するまで作ったのですよ。」
「あ!料理長!それは言わない約束です!」
アンが若干慌てる。
「ふふ。」
武雄が朗らかに見ている。
「タケオさん!タケオさんも1品作ってください!」
アンが提案してくる。
「ふむ・・・じゃあ私も1品作りますかね。」
「「本当ですか!?」」
アンと料理長が嬉しそうに言ってくる。
「はい。アン殿下が美味しい物を食べさせてくれて笑顔になれました。
人々が笑顔になるのは良いですね。私もそれに倣いましょう。
アン殿下、何が食べたいですか?」
「えーっと・・・美味しい物を!」
「そうですか・・・
料理長、何を使って良いですか?」
「キタミザト殿ならお好きなだけ。
全ての食材を使って頂いて結構です!」
「そうですか・・・生クリームはわかりますか?」
「はい。前回のレシピにあった物ですね。
明後日はショートケーキも出す予定でしたのでご用意しております。
契約も済ませましたので定期的に納入される予定になっています。」
「では生クリーム、牛乳、ゼラチン、ビスケットと砂糖に・・・ふむ、イチゴのジャムと各チーズを用意してください。
あとは湯煎がしたいのと作った際に氷で冷やしたいので大き目の桶数個と鉄のトレイを数個を貸してください。」
「畏まりました。ちなみに何という物を?」
「レアチーズケーキと言います。」
「「レアチーズケーキ・・・」」
アンと料理長が真剣に考える。
「よし!皆!キタミザト殿が試作する用意をしろ!」
「「はっ!すぐに場所を空けます!」」
王都の料理人達が動き出すのだった。
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