第705話 王家の雑談2
「お爺さま、それも大変そうですけどタケオさんからのもう1つの要求はどうするのですか?」
エイミーがお茶をすすりながら聞いてくる。
「ん?ウィリプ連合国へ正式な視察団という肩書で行きたいという所か?」
「はい。」
「そこは問題ない。
むしろ今度はタケオは貴族として行く。なら視察団として国の保障が欲しいのだろう。
明日にでも会議にかければ問題ないな。」
「正式な視察団が奴隷を買うのですか?」
「それはな・・・実は外交局を通じて向こうに事前問い合わせをしたんだ。
それなりに言い訳も付けてな。」
アズパール王がエイミーに答えるが他の者も黙って聞いている。
「回答は何と言われたのですか?」
「・・・『連合国内の庁舎内以外はお好きなように見聞きし、お好きなように買い物をされて構いません』だとさ。
ついでに『物を買ってからその後どうするかは買い手の裁量です』とな。」
「・・・関与しないと?」
「あぁ。アズパール王国が奴隷制を採用していないのを知っていてそう言ってきた。
あくまで商売として他国の者が何を買おうが問題ないという事らしい。」
「・・・奴隷・・・強制的に働かせる事が商品として成り立っているのは癪に障りますね。」
リネットが眉間に皺を寄せながら言ってくる。
「その感覚はアズパール王国での感覚だ。
我らは国民が各々自由に職業を選べるようにすれば誇りをもって仕事をしてくれると信じている。
だが向こうは奴隷が居るのが当たり前という感覚なのだ。
過酷であったり単純作業であったりは奴隷が行い、それ以外を国民がするのが当たり前だ。
だからこそ『なぜ商品を買いに来るのに一々聞くの?』的な返答をしてくるのだろう。」
アズパール王の言葉に皆が「ふざけた国家だ」と思うのだった。
「我らには我らの考えがあるように向こうには向こうの考えがある。
それを一方的に悪と非難し、我らの意見が正義だと掲げるのは筋違いだ。
向こうの考えだって富国の為と思えば理解は及ぶ・・・理解は及ぶが好きにはなれん。
クリフ、ニール、ウィリアム。」
「「「はっ!」」」
「少なくとも我の代は奴隷制を採用はしないからな。」
「「「当たり前です!」」」
アズパール王の言葉に王家全員が頷く。
「・・・そう考えると奴隷のまま雇っているタケオさんはどうなるのかな?」
アルマが考えながら言う。
「微妙だ。
タケオが任せるであろう仕事内容と報酬、そしてヴィクターとジーナの教養の高さとその考えはしっかりしている。
タケオに至っては『勝手に越境されるのが困るから』という理由で奴隷のままだな。
言い換えればそれ以外なら首輪を外しても構わない気でいそうだ。
タケオが2人に無理を言っていないかをそれとなく我ら側からも確認する必要があるとは思うが・・・実際の所あまり心配はしておらん。」
アズパール王がため息をつく。
「お義父さまの言い分ってだけなんだけど、そう言いそうなのがタケオさんだわ。
『ちゃんと25年契約をしているから働いてくれるでしょう?』とか言いそうね。」
「タケオさんみたいな人達ばかりだったらわざわざ奴隷制についての条文なんていらないのにね。」
ローナとセリーナが苦笑しながら言う。
「そうだな。
だが現実では豪商が非合法に入手している。
だからどこで契約しても最長25年で解放する事という条文が出来上がって商人達にわかるように発行したんだ。
あとは多少の混乱があるだろうが時間をかけてこの年数を低く出来るようにして行くことがとりあえず今後の目標だな。」
クリフがそう呟く。
「あとは働く者への保護か。
経営者には従業員や期限付きの奴隷に対しても最低限の賃金を払うようにする法がもう少しで出来るんだったな。」
ニールが語る。
「それも豪商や大規模農家から反発はありそうですけどね。
でもより良い国家運営を目指すなら必要な処置ですよ。」
ウィリアムも語る。
「うむ、そうだな。
こういった事は人が動く時に一緒にした方が通しやすいというのは確かなんだが。
とっても面倒だな・・・特に裁可する書類の量が・・・」
アズパール王がため息を付きながらぼやく。
「まぁその辺はうちの優秀な文官達がなんとかするでしょうね。」
レイラが答える。
「・・・我への気遣いがない気がするが・・・
まぁ良いか。とりあえず向こうの国から了承を得たという所は大きい。
こちらからはタケオを視察団として送り込める。
そしてタケオが無用な争いに巻き込まれずに済みそうだ。」
アズパール王が安堵のため息を漏らす。
「・・・タケオさんの要求を呑むのですね。」
「タケオの仕事での要求は当然だ。
カトランダ帝国へはタケオが自ら行きたいと望んだ旅、だが今回は国家の依頼での交渉だからな。
国の後ろ盾があった方が何かしら融通が利くだろう。
それに視察団になれば今回は余計な者は連れて来ないだろうしな。」
「余計な者?」
クラリッサがアズパール王に聞き返す。
「んんっ!」
レイラがワザとらしく咳払いをする。
「・・・コラとかモモとか。」
「あぁ、確かに。」
クラリッサが頷く。
「でもタケオさん、その辺は甘いからなぁ。
来たいと言われたら断らないんじゃない?」
アルマが聞いてくる。
「・・・タケオに釘を刺せる者はおるか?」
アズパール王が皆を見るが全員が目線を逸らす。
「だって、そもそも『奴隷を買ってこい』とタケオさんに言うのはお義父さまなんですけど。
なのにタケオさんには『買ってくるな』とは言えないでしょう?」
ローナが皆の意見を代表して言う。
「我もわかっておる・・・わかっておるが・・・平気かな?」
最後の「平気かな?」はかなり小さい声だ。
「んー・・・実際問題タケオさん今いくらあるんでしょうね?」
エイミーが首を傾げながら言ってくる。
「ん?どうしたの?エイミー。」
「いや、ヴィクターとジーナを金貨240枚で買いましたよね?
さらにはまだ研究所の運営金は手元にないですよね?
だけどマイヤーさんやアンダーセンさんは何か動いていますし。
それにカトランダ帝国から工房を3つも連れてきましたよね?
確か・・・屋敷をまず用意するとか言っていましたか?その元手はそれなりにかかっているのではないですか?
タケオさん、その金銭はどうやりくりしているんですかね?」
「・・・タケオの懐事情はそこまで知らないが・・・多くはないだろうな。」
「ええ。いくらアリスの旦那になっても特別給金が出る訳ではないですからね。」
タケオの出自を知るアズパール王とウィリアムが頷きながら答える。
「たぶん、この間私達から金貨を巻き上げているけど
金貨100枚くらいしか持っていないんじゃないかな?」
レイラが考えながら答える。
「レイラ、巻き上げたって・・・タケオさん聞いたら怒るわよ?」
アルマがレイラの言い草に呆れる。
「そうそう、エイミーは準備出来てるの?」
セリーナがエイミーに聞いてくる。
「はい?何がですか?」
「タケオさんへのこの間のレシピの金額。支払いは着いたら早々じゃないの?」
「・・・あ!アルマお姉様!」
「うちは年末に第2皇子一家宛に支払いをしておいたわよ。」
「ありがとうございます!
父上!」
「明日引き出してこい!」
「はい!
引き出すなら護衛の兵が必要か・・・明日は誰が当番だっけ?」
エイミーが汗をかきながら段取りを始める。
「はぁ、とりあえず支払いは順調に行きそうね。
で、タケオさんが視察団として見に行ってくれるのは問題ないとして。
宝物庫の件どうするのですか?」
セリーナが再度アズパール王に聞く。
「・・・少し考えるかな。」
アズパール王は先送りするのだった。
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