第693話 68日目 そんなこんなで警棒を試作依頼。
「なるほどなぁ。」
ブラッドリーが武雄の説明を聞きながら頷く。
「うむ。ブラッドリー、これは面白い発想かもしれんの。
一般向けではないがの。」
「そうですね。
それに剣のように意匠を凝らさないのならかなり実務に耐えうる形に出来ますし。」
ボイドもベインズも興味を示している。
また今回採用した技研の主要メンバーも一緒に聞いており3人の話に頷いていた。
ここはステノ技研の食堂。
最初はテイラー店長に警棒の試作をして貰おうと思って尋ねたのだが、
サリタに見つかり、折角なので懐中時計の試作第1弾の評価を見て欲しいと言われお茶をしながらついつい警棒の話をしていた。
「キタミザト様、その伸縮式の鉄の警棒はこの街の4小隊の標準装備品になる可能性があると言われたのですね?」
テイラーが武雄に聞いてくる。
「ええ。
さっき黒板で説明しましたが、中空の鉄を組み合わせて使わない時は短くしておき、使う時は1回振れば伸びてしっかりと固定されるという感じにしたいですね。」
「んー・・・武雄さん、中空という事は円筒なんですよね?
それで例えばロングソードと打ち合ってしまうと曲がってしまいませんか?」
「いや・・・鈴音?ロングソードと相対するのは戦場や試合の時なのでは?
あくまで警棒は警護の時か剣が持ち込めないような場所でしょう。
相手は良くてもナイフぐらいと想定しています。
それ以外の・・・例えば城門外での行動では小太刀を携帯すれば良いでしょう。
耐久性は1、2回の使用で曲がっても致し方ないと思いますよ。」
鈴音の指摘に武雄が苦笑しながら言う。
「ですがキタミザト様、実際に小太刀は打ち合いには不向きです。
打ち合うなら最低でもショートソードの刃の部分が厚めの物が良いかと。」
ブラッドリーが悩みながら言ってくる。
「・・・小太刀で打ち合う時点でダメでしょうに。
そもそも小太刀を持つなら打ち合うという選択肢はないですよ。」
「それはキタミザト様だから出来るのでは?
普通の兵士では・・・いやジーナ様は出来るのですか?」
べインズが聞いてくる。
「ええ、まぁ私の戦い方に小太刀は合っていますね。
ジーナはどうでしょうか・・・
一応明後日から王都に行ってくるので帰って来たら護衛者としての特訓が始まるような事を言っていましたね。」
「護衛者としての特訓ですか?」
その場の職人が聞いてくる。
「はい。
騎士団に剣術を学び、実践練習はアリスお嬢様として、学院に行っても馬鹿にされないように知識面ではスミス坊ちゃんが教えます。」
「最大級の教師陣ではないですか!」
「ですね。
この街でこれ以上の教師陣はいないですね。
アリスお嬢様に至っては今までスミス坊ちゃんが稽古をしてくれなかったから、それはもう嬉しそうにしていますよ。」
「キタミザト様は何か教えないのですか?」
「私から教えられる物はありません。
出来る事といえばジーナ用に警棒と小太刀を用意してあげる事だけですよ。」
「ご主人様、ありがとうございます。」
部屋の隅に居るジーナが頭を下げて礼を言ってくる。
「いえいえ。
そういう訳で鈴音、小太刀を作ってください。」
「え!?私ですか?」
鈴音が驚く。
「はい。小太刀は鈴音が作っていたんでしょう?
今後も定期的に作ってください。
私の在庫は4本しかありませんからね。
1本は私が今も使っていますし、1本はジーナに貸し出します。
そうですね・・・戻って来たらジーナの練習用に1本は刃引きしますか。
ジーナが王都に行くまでに警棒も小太刀も5本ずつ用意してください。
ブラッドリーさん、お願いできますか?」
「わかりました。
耐久等々の為に宝石や魔法刻印を使っても?」
「ジーナやスミス坊ちゃんの生命を守る為です。
金銭を少なくするつもりはありません。エルヴィス家用として高性能をお願いします。
それに黒板に書いたのは概要です。製作側で必要な機能は足して貰っても構いません。
そしてのちのち市販用廉価版を作れば良いでしょう。
そもそもそんなに売れるかはわかりませんけどね。」
「んー・・・確かに。
なら向こうの工房に製作は依頼はしないのですか?」
「ええ、向こうは向こうで作らせたい物がありますからね。
鈴音、出来そうですか?」
「たぶん・・・試作の費用はどのくらいを限度に提示しても良いのですか?」
「研究所から捻出したいですね・・・
まぁとりあえず金貨50枚までは許可します。
安く上がるならそれはそれで。
交渉方法は・・・ふむ、ここの人達なら金銭感覚もわかる人達でしょう。
皆さん、すみませんが鈴音に協力をしてください。」
「「はい。」」
皆が返事をする。
「たぶんこれが上手く行くと街がさらに活性化しますよ。
まぁこの技研の儲けではないでしょうが・・・街全体が活気付けば懐中時計も売れ行きが良くなるでしょう。
人に親切にすれば、その相手の為になるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分に戻って来る物です。
これは人間関係でもそうですし、経済でもそうです。
親切過ぎるのは問題がある時もありますが、街が活性化する為に協力する事は後々の自分たちの益に繋がります。
ではよろしくお願いしますね。」
「「はい。」」
全員が頷くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




