第691話 王都からの手紙。1(奴隷の購入依頼。)
今日は新年2日目、エルヴィス家の面々と武雄、チビッ子達とジーナが客間に籠っていた。
ちなみにヴィクターとフレデリックは総監部のお仕事で庁舎で作業中。
ジーナはフレデリックから「戻って来るまで対応するように」と言われて客間の端で待機している。
客間の扉がノックされエルヴィス爺さんが許可を出すとメイドが皆のお茶と菓子を持って入って来る。
「伯爵様、王都より手紙が参っております。」
「うむ、ご苦労。」
エルヴィス爺さんはメイドから手紙を受け取る。
そして皆に前にお茶と菓子を配膳すると退出して行った。
「ふむ・・・またレイラじゃの。
ん?これは総監局からか。」
エルヴィス爺さんがため息をつきながら手紙を読んでいく。
「ふむ・・・これはわしというよりもタケオ宛てじゃの。」
「私ですか?」
武雄がエルヴィス爺さんからレイラの手紙を受け取る。
「・・・」
武雄がボーっとその内容を見る。
内容は王都守備隊に異種族を入れたいのでウィリプ連合国に行ってきて欲しいという依頼だった。
「・・・タケオ、どうするのじゃ?」
エルヴィス爺さんがお茶を飲みながら聞いてくる。
武雄は見終わって隣のアリスに手紙を渡す。
アリスはスミスと中を見始める。
「そうですね・・・行く事自体を拒否する気はありませんが・・・
流石にヴィクターとジーナは連れて行く気にはなれませんね。」
「確かにの。」
「ご主人様、王都から何を言われたのですか?」
ジーナが聞いてくる。
「ふむ・・・ジーナに率直な所を聞いてみますか。」
「?」
ジーナが首を傾げる。
「陛下から『王都守備隊に異種族を入れたいからウィリプ連合国に行って良い奴隷を買いつけてこい』との命令が出るそうです。」
「え!?アズパール王国は奴隷制を採用していないのではないですか?」
「ええ。なので向こうで買ってアズパール王国の関で奴隷契約を解除するかもしくはジーナと同じ雇用方法を取る事で採用しようという気のようです。」
「・・・私と同じようにですか?」
「はい。一貴族がした法の抜け穴をそのまま王都でも使うみたいですね。
この間の王都で話し合った時点で奴隷契約は最長25年と明文化すると言っていました。
なので法の実例として王都側も実験したいのでしょう。
それにしても王都守備隊にですか・・・思い切ったことをしますね。」
「そうじゃの。タケオのせいで人手不足なのかの?」
「現役幹部を6名引き抜きましたね。
さらに来年はもっと抜くかもしれませんし・・・原因の一端は私ですね。」
「ふむ。
で、ジーナ、元奴隷という事を考えてみて・・・辛い記憶なのは重々わかるがの。
わしらにその辺の見聞きしたことを教えてくれるかの?」
「伯爵様、ご主人様、平気です。
あの記憶は辛くとも今は幸せです。」
「すまぬの。
ジーナ、奴隷商はどこかに集まるのかの?」
「私やお父さまは船ですが、それ以外にも連れてこられていました。
場所は・・・すみません、わかりません。
ですが、まずは1ヵ所に集められ身体検査、奴隷商への事前市を経て競売され引き渡されます。」
「ふむ、今の説明だけでも嫌な気分になるの。」
「ええ。人身売買は聞いていて楽しい物ではありませんが・・・それは私達だからでしょう。
奴隷がいるのが当たり前の国家や街からすれば日常の光景になるはずです。」
「ふむ・・・タケオの言い分もわかるがの。
それにしてもジーナ、身体検査は真っ裸じゃの?」
「はい、真っ裸でした。」
「「・・・」」
話を何も言わずに聞いているアリスとスミスの目の端が吊り上がっている。
「・・・想像は容易いですが・・・やられたくはないですね。
さてジーナ、感覚としてで構いませんが、アズパール王国で数名購入し、兵士として育成することは可能だと思いますか?」
「可能だと思います。
それにご主人様、奴隷は希望を持っていません。
どんな人間に買われるのか、いつまで生きていけるのか。
・・・そこにあるのは絶望のみです。
幸い私はお父さまやお母様がいました。
さらには奴隷商のおじさんは私達を無下には扱いませんでしたし、ご主人様達に買われた後はちゃんとした扱いをされています。
あの絶望を経験した者達の中で間違いなく最高の幸せを享受しています。
私もお父さまもこのご恩は絶対に忘れません。
25年間しっかりと働かせて頂きます!」
「こんなに忠誠を誓ってくれるとは・・・給金上げられるように頑張りますからね。」
武雄が困った顔をしながら呟く。
「ふむ、ジーナの決意はわかったがの。
果たしてヴィクターやジーナのような人材がおるのかじゃの。」
「買う際に見れるのは種族と名前ぐらいです。
ジーナ、出自とかは話せましたよね。」
「はい。ですが私達はいくら言っても信じて貰えませんでしたから言うのをやめました。
取り合っていただけたのはご主人様ぐらいです。
あとは気が触れたとか言われました。」
「まぁ、普通は領主一家が奴隷まで身を落とすとは考えないでしょう。
私もミアが推薦しなかったり、ヴィクターが『戦えるが同種族は殺せない』とミアに言わなかったりしたら買わなかったかもしれません。
ですが、お互いに正直な話をしたから今があります。
さて、話を戻しますが、早く言えばヴィクターとジーナのように買って兵士にするというのはありでしょう。
ジーナが言った忠誠心は個人により差があるでしょうが・・・皆が多少は持っていてくれるという前提で動きます。」
「うむ、真っ当な生活をしていたならジーナが抱く感情が当たり前じゃろう。
じゃが中には逸脱した者がいる可能性もあるの。」
「そうですね。どんな世の中でも全体の意見と反対の意見を持つものは一定数いるのも事実でしょう。」
「タケオ様、それは一般社会の話ではないのですか?」
「アリスお嬢様、そこを決めつけては危ないですよ。
確かにジーナやヴィクターが奴隷になった経緯は同情の余地はあります。
ですが、皆が皆不幸の身の上とは最初から考えてはいけないでしょう。」
「・・・タケオ様、自ら望んで奴隷になる者がいると考えているのですか?」
スミスが考えながら聞いてくる。
「世の中に絶対はありません。
なら私達では考え付かない特異な思考をしている者が居る可能性は排除出来ないでしょう。」
「うむ。
それに奴隷になるのは一般人のみではないからの。」
「確かに。」
エルヴィス爺さんと武雄が同時にため息を付く。
「お爺さまもタケオ様も何を気にしているのですか?」
スミスが不思議そうな顔をさせながら聞いてくる。
「・・・タケオ、わしが魔王国の国王の立場なら送り込むが・・・
タケオはどう思うかの?」
「私も兵士か間者を送り込むとは思いますが・・・ウィリプ連合国に対して何をするのかによって必要な能力は違うかと。
ですが、ウィリプ連合国での売り先がわからない以上出来るのは一斉蜂起ぐらいとしたらやはり肉体が強いも・・・あれ?・・・売り先がわからない?」
武雄がふと悩む。
「タケオ様、先程ジーナが言っていたではないですか、競売だと。
競売ならどこに買われるかは・・・あれ?お金をかければ確実に買えますかね?」
「ええ。スミス坊ちゃんが言うように競売なら金をかければ集められると私も思いました。
もしかしたら魔王国はウィリプ連合国内に拠点を持っている可能性がありますね。」
「うむ・・・そうなるとウィリプ連合国内に魔王国に協力している者がおるの。」
「まぁそれは奴隷に関係なくアズパール王国でもそうですけどね。
その辺は国や領主達が目を光らせて置けば良い事でしょう。」
「うむ、そうじゃの。
とりあえず価格が高い者は気を付けておけばよいじゃろうの。」
「はい、わかりました。」
武雄が頷くのだった。
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