第690話 67日目 シモーナの旅路。6(結果報告。)
シモーナが組合の新年の会合に出席していた。
今は各報告を終え、立食の座談会の準備中につき皆が休憩をしている。
「あら?シモーナさん、暇そうね。」
白いトカゲのピンクのドレスを着た商店のおばさんが声をかけて来る。
「おばさん、流行りは執事服なのではなかったの?」
シモーナが呆れながら言ってくる。
「年始はドレスが基本ね。
そういうシモーナさんはいつも通りの旅装束ねぇ。」
「私はもう歳ですからヒラヒラのドレスは着ませんよ。
それにしても各方面の商隊の面子が変わりましたね。」
「そうねぇ・・・まぁ代替わりと言えばそれまでなんだけどね・・・」
白いトカゲは目を細めてその場の面子を眺める。
「おばさん、何か知っているの?」
「噂でね、どうも国王陛下が退任を表明したそうよ。
それで次期王の選定方法を伝達したという噂ね。
だから主要な商店主達は早々に帰路に着いたそうよ。」
「ふ~ん。」
「あら?シモーナさんは興味ないの?」
「うちの甥っ子は領主になったばかりだからどうせ国王の選定には加われないだろうし。
本人はやる気だけはありそうだけど・・・まぁ平気さね。
と・・・平気そうです。」
「シモーナさん、極たまに語尾が変になるわよね。」
「まぁ癖ですよ、お気になさらずに。」
「そう。」
「おばさんはどうするの?」
「うちは現陛下の贔屓店みたいなものだしね~。
次期王になる前に売り込んでおくかなぁ。
当面は細々とするわよ。
あ、でもあのウォルトウィスキーは売れ筋になれると思うからちゃんと仕入れてね!」
「はいはい。戻ったら先客と交渉します。」
とメイド服を着た者が2名入ってくる。
その光景に皆が「誰だ?」と視線を向ける。
軽く室内を見たメイドが目的の人物を発見して歩き出す。
「あら、タローマティさんじゃない。」
白いトカゲが近寄ってきた人物に声をかける。
「新年おめでとうございます。」
「「おめでとうございます。」」
タローマティと白いトカゲとシモーナが挨拶をする。
「どうしてこちらに?」
「はい。
うちのダニエラが米を扱っている方に声をかけまして・・・その・・・了承して貰えたので店の方に行ったのですが、こちらだと言われまして、さらにカールラ様はもう帰国されますので失礼かとは思いましたがお連れしました。
カールラ様、こちらが我が街で商いをしているレバント様、そしてアズパール王国と輸出入業をしているファロン様です。」
「お二方・・・こちらは」
「はじめまして。
私はブリアーニ王国女王陛下の侍女をしている、カールラと言います。」
ブリアーニがタローマティの言葉を遮りにこやかに言う。
「「じょ・・・女王陛下の侍女!?」」
白いトカゲとシモーナが驚愕の表情をさせる。
「あはは、いきなり来たのだからこの反応は当たり前ですかね?」
ブリアーニにクスクス笑う。
「さて、いろいろ話してみたいですが、あまり時間もないですから手短に・・・
我が国の米については250kgの輸出は問題ありません。
え~っと・・・タローマティさん、レバントさんに渡せば良いかしら?」
と言いながらブリアーニがタローマティを見る。
タローマティは頷くのみだった。
「ではこれを。」
ブリアーニが白いトカゲに紙を渡す。
「失礼します。」
白いトカゲが中を確認する。
「我が国から出せる輸出品です。
米については最大で750kgは出せるでしょう。
我が方からの価格についてはそこに書いてありますので、お二人で価格は決めてください。
輸送料は別途です。
あ、それと我が国にもアズパール王国の新酒を卸してくださいね。」
「わ・・・わかりました。」
白いトカゲがぎこちなく言う。
「正式な注文は我が国の外交部に連絡を。それで対応します。」
「はい、畏まりました。」
「ではお騒がせしました。
私はこれで。」
「失礼いたしました。」
ブリアーニとタローマティが退出して行った。
その後ろ姿をただ見送るしかないシモーナ達だった。
「おばさん・・・」
「ええ、大変な事になったわね~・・・」
「いや・・・それもそうだけど・・・周りの目が・・・」
「あぁ・・・どうしようかね。」
2人はこの後の皆への説明をどうするか悩むのだった。
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「おう、お疲れ。」
ブリアーニとタローマティが会合会場の建物から出てくるとメイド服姿のヴァレーリが向かいの建物に寄りかかり片手を上げながら言ってくる。
明らかにおっさん臭い言い方だ。
「ヴァレ・・・ダニエラ。
とりあえず伝言をしてきました。」
「カールラ、わざわざ済まなかったな。
こんな仕事は部下に任せれば良い物をなぜお前がするんだ?」
ブリアーニに不思議そうな顔を向けながらヴァレーリが問う。
「それはダニエラもでしょう。
こんな事は部下に任せれば良いじゃない。」
「ふん・・・我は・・・私は息抜きで街中に来たらたまたま美味しい酒に出会いましたからね。
良い酒をこの街に持ちこんだあのシモーナさんにお礼をしたかっただけです。」
「あら、なら私も米という穀物で外貨獲得の為に動いて貰うのですから直に商売人を見ておきたかっただけですよ。」
「・・・まぁ良い。こちらにも思惑はあるし、お前もあるだろう。」
「まぁ多少は。
あ、それとダニエラ、城に戻ったら少し相談があります。」
「・・・厄介事か?」
「ん~・・・今の所は本当に相談のみ。
最近、人攫いが酷くてね。」
「・・・アズパール王国に面してるファロンもパーニもそういった被害はほぼないと言っていたがな。
やはりエルフは特別か?」
「わからないわよ・・・ただ最近は少し乱暴なの。一家ごとというのが頻発してね。
何か対策はないかな?」
「わかった、うちの第4軍の幹部と会合をしよう。
あそこなら隠密行動が出来るからな。」
「ごめんね。
美味しい酒入れるからね!」
「あぁ。」
ヴァレーリ達は王城を目指すのだった。
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