第679話 武雄と仕立て屋の今後の話。
「こんにちは。」
武雄がラルフの店に入っていく。
「キタミザト様、いらっしゃいませ。」
「「「所長、お疲れ様です。」」」
ラルフが声をかけてくるのはわかるが、アーキン達も店内に居たようで声をかけてくる。ちなみにミルコが見当たらない。
「はい、お疲れ様です。
今日は何をしているのですか?」
「制服を取りに来ました。
今はミルコが微調整しています。」
「そうですか。」
3人の前の机には大きな袋が3つ置かれていた。
明らかに1セットではない量が入っていそうだった。
「・・・靴から帽子までですよね?」
武雄が誰に言うでもなく問いかける。
「帽子が1つと上着が2つ、靴が2足にズボンが3本、シャツが8枚ですね。」
「あと襟章というのが上着とシャツ用に必要らしいので、この後テイラーさんの店に行きます。」
アーキンとブルックが普通に答えてくる。
「そうですか。」
「所長はどうされたのですか?」
「年末の挨拶回りですよ。
ここの前にローさんの酒屋とベッドフォードさんの青果屋、あとハワース商会に行ってきました。」
「何か進展がありましたか?」
ラルフが聞いてくる。
「いや、これと言って・・・ベッドフォードさんがこれから契約ですからその話でしたね。あとは『来年もよろしく』と言ってきました。」
「ローさんの所とハワース商会ですか。
キタミザト様、来年はどうなりますか?」
「私事なら貴族になって研究所が開設されますね。
さらにアリスお嬢様と挙式ですね。」
「とうとうですか。
具体的には決まりましたか?」
「スミス坊っちゃんが寄宿舎に行く前の2月か3月にしたいですが、関係各所で協議中ですよ。」
「そうですか。」
ラルフが朗らかに答える。
「で、ラルフ店長は来年は何を作りますか?」
「・・・キタミザト様・・・来年・・・ですか?」
ラルフが恐る恐る聞いてくる。
「はい。
今年はトレンチコートとダウンベストとダウンジャケットでしたよね。
来年はどんな新作を?」
「キタミザト様達の制服や作業服が入っていませんが?
いや、それにトレンチコートもダウン関係も始まったばかりですが・・・」
「?・・・衣料品の流行は作り出す側が作るのでしょう?
2年後3年後を見据えて商品作りをするのは当たり前なのでは?
それに私の所の制服も作業服も私の為だけなので量販品ではないですから、店の事を考えるなら常に量販品を作り出していくのが当たり前なのではないのですか?」
「それはそうですが・・・現状では先の3つで十分に忙しく、新作の事まで頭にないのですけど・・・」
「・・・?
まぁ、早急に作る必要もないでしょうかね。」
武雄がラルフの言葉を聞き、首を傾げながら言ってくる。
「・・・」
だが、言われているラルフはホッとなどしていない様子で武雄の次の言葉を気にしている。
「?・・・なんでしょうか?」
「・・・キタミザト様、ちなみにですが、ローさんの所とハワース商会には来年の事は何か言われましたか?」
「・・・ローさんには来年ではないですが、今後の新種の酒の考案内容を、ハワース商会には布製の棚の考案をその場でしてきました。
ベッドフォードさんは来年はウスターソースが本格始動なので予想の受注量の話合いですね。」
「あぁ・・・」
ラルフがぐったりとする。
その様子を他の従業員とアーキンとブルックが苦笑しながら見ている。
皆一様に「来年もよろしくなんて簡単な言葉じゃないよね」と思っている。
「・・・で、キタミザト様、次は何を考えたのでしょうか?」
「特に・・・一般用に頑丈なズボンを作ったら良いかなぁとは思っていますが。
作業服やトレンチコートで丈夫な布が手に入る事がわかったので、一般の方々向けに何か作り出せたらと。」
「・・・キタミザト様の作業服のような物ですか?」
「そうですね。
私的には『ジーンズ』という物が作れないかと思うのですが。」
「ジーンズ・・・どういった物ですか?」
「鉱夫や農夫用の作業ズボンですね。
丈夫で長持ちが特徴の紺色のズボンとイメージでしますが・・・
最大の特徴はリベット補強済みズボンという物です。」
「リベット補強済みズボン???」
その場の全員が首を傾げる。
「例えば今回の作業服でもわかりましたがズボンのポケットは意外と脆かったですね。
ならその部分の両端を金具で強制的に留めてしまえば通常よりも解れ難いポケットが出来ます。
これはポケットだけに限らずズボンの全体で力がかかる場所や良く擦れる場所、要所要所で付ければズボンの耐久性が高まると思うのです。」
「あ!」
店の奥にいる従業員が想像していたのか、声をあげる。
「・・・キタミザト様、その考えはどこかに言われましたか?」
ラルフが驚きながら言ってくる。
「特には・・・まぁラルフ店長が今は忙しいと言うなら」
「試作しましょう!」
ラルフの横に居る店員が声を出してくる。
「忙しいのでしょう?」
「いえいえいえ!何やら画期的な事が起きそうな予感です!
店長!やりましょうよ!」
「う・・・うん、そうだな。
キタミザト様、ちなみにお急ぎですか?」
「いえ、私的に今必要とは思っていませんが、あると便利とは思っています。
何十年と待たされるわけにはいきませんが、追々作って頂ければ問題ないです。」
「そ・・・そうですか。
では、そちらの案も具体化出来るように検討をします。
ちなみにそのリベットを使ったズボンはキタミザト様の作業服には応用しても良いでしょうか?」
「ダメです。
金具は基本的に変形がし辛いものです。
先の訓練のように地べたを這いずる際にそのような金物があると痛いので縫う事で対応して貰えませんか?」
「わかりました。
では作業服はもう少し待ってください。」
ラルフが難しい顔をさせて頷く。
「ええ。発足は来年4月です。
皆が揃うのが2月か3月でしょうからそれまでにいろいろ試作をしてください。」
「戻りました。あ、キタミザ・・・所長が来ていたのですね。」
武雄がそう言うのと同時ぐらいにミルコが大きな荷物を抱えて奥から戻って来る。
「はい。
おかえり。アーキンさん達は終わりですか??」
「はい、代金も先ほどお渡ししています。」
「じゃあ話も済みましたし、一緒にテイラー店長の所に行きますか。」
「「「「はい。」」」」
「ではラルフ店長、皆さん、また来年。」
「はい。」
武雄達がラルフ達に見送られて店を後にするのだった。
・・
・
「あぁぁぁ・・・」
ラルフが疲れ切った顔でカウンターに突っ伏す。
「店長、来年も忙しそうですね。」
「来年の4月ぐらいの暖かくなってから来るかもしれないとは思っていたが・・・
こんなに早く言ってくるとは・・・はぁ・・・」
「まぁ・・・辛いですけど、実入りも多いのでしょうから・・・」
「・・・そこだけがまだマシだな・・・
はぁ・・・とりあえず期日がないという事はもう少し落ち着いてから・・・キタミザト様は年明けに王都に行くから戻って来てから話を持って行っても良いのだろうな。」
「・・・早く工場を軌道に乗せないと・・・」
「あぁ・・・そこだ。そこが上手く行けば他にも手を出せるだろう。
何としても作業効率を高めなくてはいけないな。」
ラルフ以下従業員皆が使命感で動き出すのだった。
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