第675話 64日目 シモーナの旅路。4(ヴァレーリの戦略。)
「陛下、戻りました。」
ヴァレーリが書斎で机の上の書類を処理していると、タローマティが姿を現す。
「・・・どうだった?」
ヴァレーリが筆記具を置き顔を上げて腕を組む。
「とても面白い事になっているようです。」
「そうか。
お前が見て来た物を聞かせろ。」
「はい。我が主。」
タローマティが説明をし始める。
・・・
・・
・
「ふ~ん・・・奴隷としてウィリプ連合国になぁ。
それでたまたまキタミザト子爵に拾われたと。」
「深層内で残っている感じを見るとそうなります。」
「ということは・・・ファロン子爵は我らを欺いたという事だな?」
「はい。王軍の監査でもその辺の事実が出て来ていません。
余程入念に準備をしていたのでしょう。」
「・・・逆に入念な準備をしなかったから証拠が残っていないのかもな。
だが・・・どちらにしても企てはここに露見してしまった。」
「そうですね。
如何いたしましょうか?」
「・・・魔王国は力が全て。なら当主を追い落とすのもまた力があるからだ。」
「では。」
「だが、我が認めた領主を追い落としたのは気に食わないな。」
「・・・まぁ、それはそうでしょうが。」
タローマティが答えるとヴァレーリの目を細め思案し始める。
就任当初は継続の形で領主や王軍幹部を認めたが、その後に武力と政治力を鑑みてヴァレーリが領主や幹部に相応しいか検討をして再承認をした。
勿論、足らないと感じた者は後任をださせて再検討をし、納得がいく者を据えている。
今のファロン以外の領主や幹部達はヴァレーリが認めた者。極端に言えば、この者達が次期王候補だった。
「・・・次期王の選定だが・・・ファロンだけ難度を上げるか。」
「そんな事出来ますかね?」
「ああ、出来るだろうな。
それに領主に成り立てだから変に欲をかかれて『王になるんだ』と意気込まれても困るしな。
まぁ何かしら考えておこう。」
「確かに。他の幹部達の方が無難でしょう。
でも上手くいきますか?」
「当たり前に思考すると『誰もが認める成果』という行為はまずは身近で考えるのが普通だろう。
領主達に至ってはわざわざ他領の事など率先してするわけがない。」
「まぁ、そうですね。」
「ファロンは戦好きなんだったな?」
「人間嫌いの騎士団あがりで、伯爵家の血筋ですね。」
「ならヤツがするであろう『誰もが認める成果』はアズパール王国エルヴィス領へ侵攻し、領地を拡大することだろう。」
「・・・手段を選ばなければやれますね。」
「我や領主の誰かがやる気に成れば、人間が治める一領地ぐらい容易く取れるだろう。
そういう者達を領主にしているんだから当たり前だ。
だが、決して自らは戦果を広げないであろう者達を選んだつもりだ。」
「アズパール王国に面しているもう一つの領地のパーニ殿はやる気ですが?」
「ヤツが?
あはは、ないない。ヤツは口ばっか達者だ。
もちろん率いている軍団はそれなりに強力だし、隣の領地もいつでも取れるだろう。
だがヤツは動かんさ。」
「そういう物ですか?」
「ああ。大方ファロンに入れ知恵したのはヤツではないか?
アヤツの考えはわかりやすい。自分は痛まず他者を消費する事に気を配っている節があるな。
あれがもう少し自身も傷つく事も良し、と考えられれば良い幹部になろう。
むしろアズパール王国方面は良いとして、問題は東部だな。」
「いろいろ居ますが?」
「引きこもりに馬鹿、飛ぶしか能がない阿呆に職人、あとは腐れ魔法師か。」
「・・・なんでちゃんと言わないんですかね?
エルフにメタルゴーレムにグリフォンにドワーフ、そしてリッチでしょう?」
「あとはデカい引きこもりとチビ助達だな。」
「はぁ・・・ドラゴンと妖精ですね。
それに王軍には悪魔や天使達が居ますよ?」
「あぁそんなのも居たな。奴らは悠々自適に過ごしているし、王位には興味はないだろう。
まったく・・・ドラゴンもそうだが、王軍の中でも誰かがやる気になればすごく楽なのにな。
まぁ今回の王の選定で奴らも生き方を考えるだろう。」
「そう上手く行きますかね?」
「さぁ?我は高みの見物だ。
誰が王になるか見ものだな。」
「陛下は誰がなれば良いと思いますか?」
「さてな。
誰が成っても現状ではそこまで変わらんと思うし、侵攻するならするで良いのではないか?」
「・・・何で今、それだけの者達が居て侵攻をしないのでしょうかね?」
「今の領地が居心地が良いからだな。
変に侵攻すれば、その領地からの軋轢で戦が絶えないだろうし、それを鎮圧するのも面倒なんだよ。
お前からすれば侵攻して阿鼻叫喚を楽しみたいんだろうがな。
今の幹部連中はそういった面倒を嫌っている。
それにアズパール王国がそもそも侵攻する気が無い。
現状の領地の維持と繁栄をしようとしている。
そして奴隷を使わずに魔物と共存しようとしている・・・そんな国家を攻められるか?」
「陛下はアズパール王国には寛容ですね。」
「祖国が祖国だからな。
我もアズパール王国に生まれたら違う人生があったろう。
そもそも奴隷制度を採用しないというだけで好感が持てる。
まぁ魔王国は敵国だからな。多少は魔物に偏見があったとしても、総じて見れば人間にも魔物にも優しい国家なんだよ。
ファロン元伯爵はある意味で恵まれているな。
我も退官したらのんびりとアズパール王国で過ごしてみるかな。」
「・・・陛下がのんびり?何か仕事でもするのですか?」
「給仕係をしてみたいな。」
「・・・食器の弁償だけで相当費用が掛かりそうですね。」
「・・・否めないな。」
ヴァレーリとタローマティが将来の給仕姿を想像しながら「ないない」と結論付けるのだった。
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