第674話 黒板の完成と夕霧達のお仕事を増やそう。
昼過ぎエルヴィス家の広間にエルヴィス家の面々とフレデリックとヴィクター、そしてハワース商会の面々が揃っていた。
「・・・」
武雄は納品されたリバーシと将棋、黒板とチョークと鉛筆の試作品6セットずつを見ていた。
武雄が1つ1つ見ているのを周りの面々が固唾を飲んで見守る。
「・・・良いでしょう。」
武雄が体を起こしてにこやかに言う。
その言葉を聞いてハワース商会の面々がホッとする。
「ではヴィクター、お支払いを。」
「はい。
こちらが今回のお支払金額になります。
お確かめください。」
ヴィクターがモニカ達の前に貨幣を並べる。
「・・・はい。確かに丁度、頂きました。」
モニカが数え終わり、革袋に貨幣を詰め終わる。
「伯爵様、キタミザト様。
これで一連の物の発注が可能と考えますが、いかがでしょうか。」
モニカの旦那が聞いてくる。
「はい、この仕様でお作り頂ければ構いません。」
「でしたら、先ほど総監部より届きました契約書をご確認いただけますでしょうか。」
モニカの旦那から契約書の最終版が提示される。
「・・・わかりました。」
武雄はその場で中身を確認する。
内容はトレンチコートとの時とほぼ一緒だった。
それにヴィクターからも前日の報告の際に内容は説明されていたので特に言う事はなかった。
「・・・エルヴィス伯爵、私はこの内容で良いと思うのですが、確認をお願いしてよろしいでしょうか。」
武雄がエルヴィス爺さんに契約書を渡す。
当然の如くエルヴィス爺さんもヴィクターの報告の際には聞いているので内容は知っている。
「うむ。
・・・タケオ、本当にこの利益で良いのかの?」
「はい。
私の利益分を乗せて貰っています。過度に貰う訳にもいきませんし、出来れば私の利益を少なくしてでも販売価格を下げるべきです。
そうすれば結果的に良く売れて実入りも多くなるでしょう。」
「ふむ・・・そうか。
・・・うむ、わしもこれで良いと思う。」
エルヴィス爺さんが武雄に契約書を渡す。
「ありがとうございます。
ではヴィクター、正式にハワース商会と契約書を交わしなさい。」
「はい、畏まりました。
ハワース商会の皆さま、この後・・・9時課の鐘辺りに本契約書をお持ちいたしますのでサイン等をお願いいたします。
そしてキタミザト子爵様、エルヴィス伯爵様の記名をして頂き正式に発行させて頂きます。」
「「「はい!」」」
モニカ達が返事をする。
「では伯爵様、キタミザト様、私共はこれにて失礼をさせていただきます。」
モニカ達が席を立ってフレデリックに先導されて退出して行った。
・・
・
「ふむ、今回はヴィクターが書いた契約書なのじゃな?」
「はい。
数回読み直しをしてから総監部の上役方に見て頂きましたが、さすがに主と伯爵様に見て貰う時は緊張をします。」
「うむ、まぁ1つ目じゃからの。
かと言って慣れてしまってもいけない事ではあるの。」
「はい、心得ております。」
ヴィクターが頷く。
とフレデリックが戻って来る。
「皆さま、お疲れ様でした。
ヴィクター、とりあえず終わりですね。
しっかりとした契約書でした。」
「はい。フレデリック様、ありがとうございます。」
「うむ。
さてタケオ、納品されたこの6個なのじゃが、王都に何個持って行くのかの?」
「陛下、クリフ殿下、ニール殿下、ウィリアム殿下用ですので、4個ずつになります。」
「タケオの今後の黒板の展開予想を教えてくれるかの?」
「はい。
では黒板を1セット客間に移動させましょう。
そこで皆さんに今後の説明をします。」
・・
・
客間に移動したエルヴィス家の面々とフレデリックが武雄を前にして座っている。
ちなみにチビッ子達は客間で大の字になって寝ています。
それとヴィクターは本契約書の作成とハワース商会に持参の為に総監部に戻って行った。
「さて、今後の展開ですけど。
黒板については王都側に4つを見本で卸させて貰います。
そしてエルヴィス家に2個。
1つはこの客間でしょうか?」
「ふむ。タケオ、前の説明の時には黒板は説明に便利という事じゃったが、客間に常設するものなのかの?」
「そういう訳ではありませんが、皆さんが集まる場所がここという事なので、それに黒板は何も説明用なだけではありません。
例えば・・・」
武雄が黒板の中央辺りに上から下に線を引き横線を何本か書く。
「ここをエルヴィスさん、次をアリスお嬢様、次にスミス坊ちゃんと各々に区画して今どこに居るかを書いて貰っておけば、一々確認する必要がありません。」
「なるほど、伝言板にもなるのですね。」
フレデリックが頷く。
「はい。外出しているなら何時までどこどこに行っていると書いておけば報告を受けなかった人もわかるわけです。
そして戻って来たら外出の所を消して屋敷内と書いておけば大よそその人物がどこに居るのか目途が付くでしょう。」
「タケオ様、説明用としても伝言板としても使えるのですね。」
スミスが「へぇ~」と感心する。
「要はメモ帳代わりや落書き帳代わりにしましょうと言うのがこの黒板です。
それにこれを少し小さくして店先に『今日の日替わりメニューはこれ』と書いておけば店に入らずとも食べたい物が今日はあるのかわかります。
食べ物だけではなくて例えば雑貨屋さんなら『3割引き実施中』と書いて店先に置いておけば、3割引きなら寄ってみようという常連以外のお客さんを取り込める可能性が高まるでしょう。」
「タケオ様、この黒板は使えそうですね。」
アリスが感心して言ってくる。
「使い方は使う人の数だけあるのです。
説明用だから説明にしか使ってはいけないという物ではありません。
おっと、少し脱線しましたね。」
武雄が書いていた物を布巾で消す。
「ではここからが今後の展開ですね。
まぁと言っても黒板やリバーシ、将棋については王都の出方次第で受注量が変わりますが、問題は昨日フレデリックさんから言われた『卵の殻だけでは今後の生産量を賄いきれない可能性』という所ですね。」
「うむ。
ハワース商会から総監部にそれとなく言われているそうじゃの。」
「はい。
昨日の夕飯後にご説明した通りです。
では私が書きながら説明しましょう。」
とフレデリックが立ち上がり武雄と入れ替わる。
武雄は逆にフレデリックが座っていた所に座る。
「現状ハワース商会で入手出来るのは飲食店やスイーツ店からの使用済みの卵の殻になります。
そして卵の殻と内側にある膜を取り除く作業をして、乾燥させ、粉末状にしています。
この使用済みの卵の殻の総量がどうも王都からの受注があった場合に賄えないのではないのかという相談をされました。
タケオ様、卵の殻に変わる材質はあるでしょうか。」
「貝殻でしょうね。」
武雄が即答する。
「ふむ、貝殻のぉ・・・」
「貝殻ですか。」
「うちは内陸ですし・・・」
エルヴィス家の3人が難しい顔をさせる。
「海辺の領地では貝の料理はされないのでしょうか?」
「あるとは思うがの・・・貝の干物は滅多にうちに入ってこないからの。」
武雄の質問にエルヴィス爺さんが難しい顔をさせる。
「そうですか。
一応、聞いてみて貰えますか?」
「うむ、ロバートには聞いてみよう。」
「私の方は第2皇子一家に問い合わせてみます。」
「うむ。
どのくらいあれば良いかの?」
「大量に。貝殻はそうそう腐らないと思いますから、エルヴィス家で買ってどこかに集積しておいてハワース商会に売るという手も・・・
ん?それなら卵の殻もエルヴィス家で管理するのも手ですね。」
武雄が悩みながら言う。
「タケオ様、卵の殻の内側の膜が腐りますね。
どうされますか?」
「・・・夕霧達に頼んで殻と内側の膜を分けて貰いましょうか。」
「なるほどの。
確かにスライム達ならしてくれそうじゃの。
環境局を通じてこの街の住民に協力を仰ぐかの。
そうすれば当面の卵の殻の仕入れは出来そうじゃ。
それを訓練場の広場に専用の小屋を建てればスライム達に働いて貰えるかもしれぬの。」
「では環境局に連絡を入れて卵の殻だけの分別を皆にお願いするようにしましょう。
それを私共で管理してハワース商会に卸す事業を始めようと思います。」
「うむ。
それともしかしたら養鶏場を作る事業の一環で将来的には各町ごとにスライムによる分別をする可能性もあるの。
それも考えないといけないの。」
「という事は夕霧達には他の森にいるエルダームーンスライムの生息状況の確認と協力の要請をしておいた方が良いかもしれませんね。」
「うむ。
タケオ、夕霧達に説明をしておいてくれるかの。」
「わかりました。
それと各町で専用の小屋を用意して貰ってスライムを住まわせて貰う必要があるかもしれません。
その辺の意識改革をしておいて貰わないといけません。」
「それは総監部で少し研修内容を考えます。
どちらにしてもとりあえずはハワース商会用の卵の殻の分別事業を成功させないといけないでしょうが、夕霧様達への報酬はどのような形に致しましょうか。」
「ん~・・・この間周囲2kmの仮囲いが終わったのじゃったの。」
「はい。」
フレデリックが頷く。
「で、タケオの方も小屋が出来て残飯の樽も環境局から毎日4個配達するように出来たの。」
「はい。夕霧達が喜んでいました。
あとアリスお嬢様から借りている衣装の衣装小屋も完成したみたいで綺麗に使うと言っていましたね。」
武雄が頷く。
「んー・・・フレデリック、1樽増やせるかの?」
「そうですね・・・残飯の樽を増やすにしても現状の4樽用で作りましたし、体液用の小屋も併設していますから簡単に拡張は出来ないでしょうし・・・」
フレデリックが悩む。
「とりあえず保留ですね。
それと卵の殻の分別の小屋の建設も環境局が実施の可否を聞いてからの話になるでしょうから。
それまでに夕霧達に何が欲しいかを聞いておきます。」
「うむ。タケオ、頼むの。」
「はい。」
武雄が頷くのだった。
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