第670話 61日目 夕食後の報告会。
多少の混乱が見受けられた夕飯後、客間にエルヴィス爺さん、スミス、武雄が移動する。
ヴィクターとフレデリックが食後のお茶を入れ、皆の前に置き、皆から少し後ろに下がる。
ちなみにアリスとジーナ、ミアと夕霧は夕飯の後、物置部屋でアリスの古着を探している。
「ふむ。
夕方に別れたと思ったら夕霧を連れてきたので驚いたの。」
「ええ、そうですね。」
エルヴィス爺さんの言葉にフレデリックが答えスミスやヴィクターも頷く。
「で、タケオ、アリスが慌てていたが・・・これまでずっと裸だったのかの?」
「はい、そうですね。
まぁ外見が人間なので皆さん何か混乱していますが、夕霧達はスライムなのでそもそも裸が恥ずかしいという概念はないようです。
裸が当たり前なのですよ。
それに初対面の時に向こうは堂々と立たれているのにこっちが挙動不審になってどうするのですか?
まぁ・・・女の子の体型ですけど・・・すぐに慣れました。」
「・・・タケオ様、ある意味達観しているのですね。」
「スミス坊ちゃんも耐性を付けますか?
裸の夕霧達と2時間ぐらい一緒にいれば慣れますよ?」
「えぇ!?・・・・それは・・・その・・・慣れて良いのですか?」
スミスが顔を赤らめて聞いてくる。
「・・・そう聞かれると・・・難しいですね。」
武雄が明後日の方を見ながら「エイミー殿下の件があるからなぁ」と目を細めて思っていたりする。
と、客間の扉がノックされ、アリス達が入って来る。
「タケオ様、用意が出来ましたよ。」
「はい、お疲れ様です。
うん、夕霧もサイズが合っているようですね。」
「ん、服に合わせて体を変えてみました。」
武雄の言葉に夕霧が頷く。
「と、ジーナ、何だか疲れているみたいですが、大丈夫ですか?」
「いえ・・・ご主人様、問題はありません。」
ジーナがくたびれた顔をさせながら言う。
「?」
ジーナが何でそこまで疲れたのかわからないスミスが首を傾げる。
ジーナは目の前で夕霧が体付きを変化させる・・・正確には胸の大きさを変えたのを目の当たりにしており、アリスは「へぇー便利ですね」と感心していたが、ジーナからすれば「卑怯」の一言だった。
そしてジーナは誰かに言われたわけでもないが無性に敗北感を感じているのだった。
「そうですか。
今日はぐっすりと寝なさい。」
「はい、ご主人様。」
ジーナが頷く。
「夕霧もゆっくりしていきなさい。」
「わかりました。
私はどこに行けば?」
「夕霧は私の隣で。」
とアリスが夕霧を連れて席につく。
「さて、今日も1日何事もなかったの。」
「「はい。」」
武雄とフレデリックが頷く。
「タケオの方は作業服だったの。
フレデリック、今後はどう思うかの?」
「そうですね。
エルヴィス家での採用は見送りでしょう。
確かにタケオ様の仰る通り緑色の作業服は潜入には有利に働きますが、現状の組織構成や偵察の任務では必ずしも必要ではないように考えます。」
「という事じゃ。」
「それで構いません。
トレンチコートとは違って制服も作業服も私達の為に作りますので今の所、流行らす気はありません。」
「ふむ、タケオ的には小銃のように普及はしない方が良いと思うかの?」
「ええ。極論から言えば私達さえ見つからなければ良いのです。
ですから大軍で動く貴族領の方々には派手にしておいて貰った方がやりやすいですね。
そうすれば相手も『見窄らしい』格好はしないでしょうから。」
「ふむ・・・
ヴィクター、お主達は獣人なのに確か慣例の戦争では皆衣服を着ていたの。」
「はい、伯爵様。
獣の方が移動が速く、攻撃力も高いので戦闘においては便利ではあるのですが、運動が激しいという事はそれだけ腹を空かせてしまいます。なので食料がかなり必要になってしまいます。
対して人型では必要な食糧が獣人に比べて少ない為、遠征には持って来いなのです。
なので、本気で戦う以外は人型で過ごす事が結果的な経費の節減につながります。
ただし、主の言う見窄らしいという所については何とも言えません。
ですが、森に人間が潜むのに便利であるという事が今回確認出来ました。
相手も同じ様に見つかり辛い服装をされるよりかは今のまま『軍装は華美で』が当たり前という風潮を残して置く事は良い事とは思います。」
「ふむ、なるほどの。
フレデリック、当分は今のままじゃの。」
「はい。
ですが、そうですね・・・何か急変が起こった際には考えないといけないのかもしれないという事は知っておかないといけないでしょう。
その意味でも作業服を試験運用をしてくれるというのはありがたい事かと。」
「うむ、そうじゃの。
試験小隊は武具の試験をするからの。その一環で制服も試験していると言い張れば良いのかもしれぬの。」
「はい。」
武雄も頷くのだった。
「そう言えば、ヴィクターとジーナの研修はどうじゃ?
一応、毎日タケオに報告は来ておるが、現段階で困ったことはないかの?」
エルヴィス爺さんがヴィクターとジーナに聞いてくる。
「今、研修は主のウスターソースや黒板等の契約書作りをしております。
今日は素案の契約内容の確認を各所にお願いしておきました。
契約書も事前にトレンチコートで使われている内容を踏襲していますので不備は少ないとも思いますが、今は約款関係を覚えるのに苦労をしています。」
ヴィクターが報告してくる。
「研修内容もこれと言って困っている事はありません。
皆さんも良くしてくれています。問題はありません。」
ジーナもヴィクターに続いて報告してくる。
「研修について総監部からの報告としては。
主、タケオ様、ヴィクターもジーナも優秀で困っています。」
フレデリックが苦笑して報告してくる。
「ん?優秀で困るのかの?」
「あぁ、教育係が育たないのですか?」
エルヴィス爺さんが不思議そうな顔を武雄が苦笑を返してくる。
「はい。
タケオ様の仰る通り優秀なので教育係が間違い箇所を1か所指摘すると次からはちゃんと直っていて、その後も間違えを起こさないのです。」
「ふむ、良い事のように聞こえるがの。」
「ええ、実にこの2人は優秀です。
研修の日程がどんどん短縮していって微笑ましいのですが、前にタケオ様も体験しておりますが失敗をしないと経験が積めない事もあります。
ですので、今はこの調子でどんどん知識を蓄えていって貰い、もう少ししたら少し難しい試験をしようかと思います。」
「「・・・」」
フレデリックの言葉をヴィクターもジーナも真面目に聞いている。
「ふむ、その試験は何をするかは決まっておるのかの?」
「いえ、これから総監部で考えます。
タケオ様にも知恵を貸して頂こうかと思っております。」
「わかりました。
検討する際は呼んで頂ければ伺います。」
武雄が頷く。
「ふむ。ヴィクター、ジーナ、気が抜けないの。」
「はい。ですが、与えられた試練に打ち勝ってこその成長ですのでその試験も達成できるように準備させていただきます。」
「私も皆さんに納得いただけるように準備させていただきます。」
ヴィクターもジーナも覚悟を新たにする。
「うむ、本当に2人は優秀じゃの。
うむうむ。」
エルヴィス爺さん以下皆が朗らかに頷くのだった。
「さてと。
今日はこのぐらいじゃの。
今日はヴィクターと勝負じゃ!」
そしてエルヴィス家の客間でいつもの戦いが始まるのだった。
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