第656話 王都に手紙が届く。5(第3皇子一家の交渉後。)
レイラ達は自分達の執務室に戻って来てお茶をしていた。
「皆さま、お疲れ様でした。」
エリカは交渉の場には行かず、ここで留守番をしていた。
「んん~・・・終わったわぁ~♪」
アルマがお菓子を頬張りながら言ってくる。
「はぁ、まさか金額無記入を渡すとはね~。
タケオさんの真似ですかね?」
レイラがお茶をすすりながら言ってくる。
「アルマ、すまないけど合意文書を書いてね。」
「は~い。あの程度の合意文書は楽な物よ。
さっさと終わらせるわ。」
「さてと、まぁ波乱もなく終始した訳だけど。
レイラが言った通り、向こうの希望金額欄が無記入の状態で渡されたね。
これはタケオさんがアルマ達にした『気持ちをください』の真似という感じかな?」
「ん~・・・結果として真似だけどエイミーの考えその物だったんじゃないの?
私達が書面を見た時のエイミーの表情は変わらなかったからね。」
「まぁ緊張やしてやったり感もなく自然体だったかなぁ。
リネットさんは緊張しまくっていた感じでしたけど。」
レイラが苦笑する。
「それはしょうがないんじゃない?
私達は異動に際しての交渉が立て続けにあったから、若干慣れてはいたけど。
リネットは武官としての交渉はあっても、王家としての交渉はまだなさそうだし。
まぁ誰と比べるかに寄るんだろうけど・・・私は頑張っていたと思うけどなぁ。」
とアルマが言いながらエリカと目が合う。
「うちの相談役は大丈夫かしら?」
アルマの呟きにレイラとウィリアムもエリカを見る。
「え?」
エリカが話題を振られて驚く。
「そっかぁ。
エリカさんは比べられるかぁ。」
「そうだね・・・」
ウィリアム達がエリカに同情の目を向ける。
「・・・一応・・・一応聞きますが・・・誰と比べられますか?」
「「「タケオさん。」」」
「ですよね・・・」
エリカがガックリとする。
「私達だけなら各王家筆頭の文官なんだろうけど。
王都側の文官達が比べるなら、同時期に名が伝わった者同士だろうからね。」
レイラが腕を組んで悩みながら言う。
「・・・名が伝わった?」
「あれ?知らないの?
エリカさんには言わなかったかな?」
アルマが「はて?」と首を傾げる。
「な・・・何がですか?」
「まだ、王城内でも一部だけどね。
タケオさんとエリカさんを評価している声があるのよ。」
「・・・どんな風にですか?」
「エリカさんは卸売市場の説明で【経済の先駆者】としての名声。
タケオさんは先の陛下を守った戦いや、アリスとやらかした件での武名、更には研究所の提唱者であり、トレンチコートとか料理等の幅広い知識を兼ね備えている【賢者】としての名があるんだけど。」
アルマが嬉しそうに言う。
「・・・一つ良いでしょうか・・・
タケオさんとアリス殿は何をしたのですか?」
「ん?簡単よ。
第2騎士団がアリスとタケオさんに喧嘩を売って、危うく壊滅しかかっただけね。」
レイラが人差し指を上にあげながら言う。
「・・・」
エリカが額に手を当てながらガックリとする。
「レイラ、それは端折り過ぎだよ?
実際はもっと複雑だね・・・エリカさん、聞きたいですか?」
「ん~・・・聞いて良い物なのでしょうか?」
「口外しなければ・・・ですかね?
王家としての外聞は良くはないけど、王城で仕事をするなら聞いておかないといけない事でもあるかな?」
ウィリアムが苦笑する。
「・・・わかりました。
聞きます。」
「はい。じゃあ・・・最初はどこから言えば良いんでしょうかね?」
「タケオさんとアリスに会いに行った所じゃない?」
レイラが楽しそうに言う。
「ふむ・・・じゃあ、その辺から話しますか。」
ウィリアムとレイラが武雄の物語を話すのだった。
・・
・
「・・・聞くんじゃなかった・・・」
エリカはアリスと会った時にからかったのを「命があって良かった」と心底後悔していた。
「とまぁこんな感じで、今の王都の武官も文官も王家も、タケオさんとアリスの逆鱗に触れると誰も抑えられないと考えられている状態なのよ。
さらに第1皇子一家はパットの件や、ウスターソースで相当タケオさんに借りがあってね。
第2皇子一家はエイミーが今回で借りを作っているし、私達は街造りで協力して貰っているし。
王家一同、頭が上がらないわね。」
アルマが「あはは」と楽しそうに言う。
「・・・タケオさん、その辺の事は何も言わないんですけど。」
「ええ。
アリスもタケオさんも『田舎で楽しく過ごす』事を計画しているからね。
王都もその方が楽だから研究所という仕事を与えて『のんびりしてくれ』という感じだしね。」
レイラも楽しそうに言う。
「その中で僕たちは、タケオさんの知識が国内で使い物になるのかを考えるのがお仕事なんだよね。」
「?・・・研究所は陛下の直属では?」
「国防はね。
それ以外の知識はレイラを通じて教えて貰おうかと思っていたんだけど・・・
タケオさんと面識のある者を雇えたのは大きいよね。」
「・・・それが私だと?」
「存分に動いて貰って構わないから。
文官達も卸売市場でエリカさんを評価しているし、割りと自由に動けるはずよ。」
アルマがにっこりと笑いかける。
「はぁ・・・わかりました。
とりあえず殿下方・・・湯あみを先に頂きます。
その・・・いろいろ整理したいので・・・」
エリカは説明を聞き終えて少し疲れが出ていた。
「そう?
行ってらっしゃい。」
「はい・・・では失礼します。」
エリカが礼をして退出して行った。
「エリカさん、疲れた顔をして出ていちゃったわ。」
「ですね。
でもまぁ、タケオさんの今までの業績と比べられるとわかってしまうと、ああなるのではないですか?」
「そうだね。」
3人とも苦笑しか出来ないのだった。
「で?ウィリアム、随分持ち直したようだけど?」
「持ち直した?・・・体調は崩していないよ?」
「違うわよ。エリカさんへの恋煩い・・・終わった?」
「あぁ・・・それ・
平気、終わった・・・ほんと僕は一目惚れしやすくて困るよね。
あの時は何で『妃に迎えなくては!』と思うのか不思議でならないよ。」
ウィリアムが「あはは」と笑う・・・笑うしかないようだ。
「その勢いのままで求婚したのがレイラなんだけど・・・
ほんとうちのウィリアムは面倒だわ。
政略等々は出来る癖に女性問題は一直線だからね。
熟慮という物を女性関係でもして欲しいわ。これはやっぱり手綱を握らないとダメだね。」
アルマがため息をつく。
「恋煩いが終わろうが、ウィリアム自身が平気だろうと言おうが、前に言った通り勝手にエリカさんを妃にすると決めちゃダメ。
あくまでエリカさんが『ウィリアムの妃になっても良い』と言ったら私達で考慮を始めます。
ウィリアムが決めてはダメです。
わかりましたか?」
レイラが目を細めてウィリアムに忠告する。
「ああ、平気だよ。もう僕から言い出す事はないよ。」
ウィリアムがにこやかに言う。
「「絶対だからね!」」
アルマとレイラが食ってかかるのだった。
「平気だって。」
「万が一、破ったら・・・」
「破ったら?」
「タケオさんにアリス、ゴドウィン伯爵家とお爺さまに頼んでウィリアムをこき使います。
エリカさんと一緒に過ごせない・・・いやそもそも女性と一緒になんかさせません。」
「うちのテンプル伯爵家も加勢するわ。
さらに王都守備隊も加勢させる事も可能ね。」
「・・・ええ?そこまで?」
「はい、だから絶対しない事を誓いなさい!」
レイラが脅迫する。
「大丈夫、もうエリカさんを側室に入れたいとは僕からは言わないよ。」
「「監視を続行します!」」
アルマとレイラが目を細めながら宣言するのだった。
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