第655話 王都に手紙が届く。4(第1皇子一家の話と交渉の行方。)
15時半前後の第1皇子一家の寝室にて。
「・・・なるほどな。」
クリフが皇子妃達の説明を聞いて頷いていた。
「貴方、どう思う?」
セリーナが聞いてくる。
「どうと言われてもな・・・まぁ、リネットとアルマがやり合いをするのだろうが・・・
実質の所はエイミーとレイラが考えているだろう。
だが、別に本気で交渉をするわけではないのだろう?」
「ん~・・・そうよね。」
ローナが答える。
「ですが、第2皇子一家が正式に交渉に臨むと言っていました。」
クラリッサが付け足す。
「正式になぁ・・・文章化するのか?」
「そうなんじゃないかな?
いつもなら口頭確認で終わる話なのにね。
珍しく文章化での交渉なんてね。
王家同士で正式交渉は何年ぶりかな?」
「・・・前回は・・・確かうちとニールの所の専売局がらみだったか?」
「確かね。それにしても随分と前になるわね。」
セリーナが頷く。
「それにしても普通、レシピ程度ではしないと思うんだが・・・
まぁ食が変わるであろうソース・・・いや調味料ならしてもおかしくはないか。」
「うちもウスターソースで契約ごとにしているしね。
ニールの所もウィリアムの所も調味料がもたらす利益はわかっているだろうから。
口約束でなくてしっかりとした文章で残してさらに製造方法を両家で補完し合いたいんだろうね。」
ローナが頷く。
「そうだな。
という訳でクラリッサ、正式交渉だが特に不協和音はないという事だ。」
「はぁ・・・」
クラリッサが生返事を返してくる。
「そうそう、言っておくけど、王家同士で本気での交渉はほとんどしないわ。
うちが困っていればニールやウィリアムが助けてくれるし、逆にニールやウィリアムが困っているなら私達が助けに行く。
王家は争う為にあるのではないの。お互いに助け合い、より良い国家を作る為にあるの。
クラリッサ、間違っても王家同士で争ってはダメよ?」
セリーナがクラリッサを諭す。
「王家が争えば一番の被害者は国民になる。
それは絶対にしてはいけない事よ。わかった?クラリッサ。」
ローナも言ってくる。
「はい!」
クラリッサが頷くのだった。
「あ、それとタケオさんから回答が来ていますよ。」
「ん?タケオからか?随分と早い回答だな。」
ローナがクリフに言ってくる。
「ええ。前に送ったウスターソースの価格についてです。」
セリーナが言ってくる
「・・・早いな。
ということは向こうも動き出していると見るべきだな。」
「ええ。一読してクリフの感想を聞かせて欲しいわ。
一応私達3人はさっき読んだから。」
ローナが言い。
「そうか。
わかった、その回答はあるか?」
「はい、ここに。」
セリーナが手紙を渡すのだった。
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アルマとレイラは第2皇子一家から提示された金額欄が無記入のレシピの希望価格表を見て「「あぁ、なるほどね」」と思っていたし、ウィリアムは横目で見ていたが「良くも悪くもタケオさんの影響を受けているなぁ」と考えていた。
「では・・・こちらのお支払いできる金額を提示させていただきます。」
今度はアルマが紙を裏にした状態でリネットの前に置く。
リネットが書面を持ち上げ内容を確認する。
「・・・エイミー、確認して。」
「はい。」
エイミーがリネットから受け取り、中身を見るとエイミーが頷く。
リネットもエイミーも内容を見ても顔色を変化させない。
「こちらとしてはこの金額で構いません。」
リネットが答える。
「ではよろしくお願いします。」
アルマも答える。
「はい、わかりました。
・・・エイミー。」
「はい。」
エイミーは席を立ちアルマの元に行って書類を渡し席に戻る。
「お渡ししたのはタケオ・エルヴィス・キタミザト子爵より頂いている『魚醤』、『さつま揚げ』、『つみれ』のレシピの原本になります。
お受け取り下さい。」
「わかりました。
あと文書化するに当たり、この3つのレシピに対して製造方法で新たな発見があった場合は双方で情報を共有する旨の文言を記載願います。」
「はい、こちらとしてもそれで構いません。」
アルマの言葉にリネットが頷く。
「王家同士の正式交渉ですので、各々で今回の合意文書を作り封蝋した物を互いに交換し合う事になります。
第2皇子一家はいつまでに出来ますでしょうか。」
レイラが聞いてくる。
「本日の21時に第3皇子一家の執務室にお持ちいたします。」
エイミーが答える。
「わかりました。
ではこちらも21時に執務室でお渡しいたします。」
レイラが礼をする。
「はい、よろしくおねがいします。」
エイミーも礼をする。
と、第2皇子一家が立ち上がり。
「では交渉は以上になります。
皆さま、ありがとうございました。」
アルマが宣言し、アズパール王と第1皇子一家、第2皇子一家に礼をして退出して行った。
・・
・
第3皇子一家が退出した後で残った皆でお茶をしていた。
「淡々としていたな。
もっと面白い展開になると期待したんだが・・・」
アズパール王が顎に手を当てて言う。
「そうですね。
でもこんな物でしょう?」
セリーナが答える。
「あのローナお姉様・・・アルマお姉様とレイラお姉様はこの後もあの感じなんですか?」
クラリッサが恐る恐る聞いてくる。
「ん?このあと夕食だからその時にはいつもの2人になっているわよ。
今は交渉に臨む精神状態だったからあの感じだけどね。」
ローナが朗らかに言う。
「リネット、お疲れ。」
ニールがリネットの肩をポンと叩いて労っていた。
「つ・・・疲れたぁ・・・」
リネットが机に突っ伏す。
「お母様、まだまだですね。」
エイミーがお茶を片手に厳しい評価を下す。
「うぅ・・・エイミーは慣れているでしょうけど。
私は初めての交渉なんです!怖かったよぉ・・・」
「初めて?・・・いやいや。リネット、この間タケオさんとしたじゃない。」
ローナが言ってくる。
「あれは交渉ですらないです。
ただ単にタケオさんの言う通りに紙に金額を書いただけです。」
リネットが疲れた顔をさせながら言う。
「あぁ・・・確かに交渉ではなかったか。
でも似たような物でしょう?」
ローナが苦笑する。
「緊張度が違うんですけど!?」
リネットが真顔で返答してくる。
「そうかなぁ・・・タケオさんの方が難しかったと思うんですけど。」
エイミーが考えながら言ってくる。
「えぇ?どこが?」
リネットがエイミーの考えがわからず困惑するのだった。
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