第653話 王都に手紙が届く。2(エイミーの依頼に対する武雄からの回答)
皇子妃達が居る部屋の扉がノックされエイミーが入って来る。
「皆さま、戻りました。」
「良いタイミングね。」
セリーナが頷く。
「はい?
どうされましたか?」
「エイミー。
手紙が来ているわよ。」
とリネットが隣の空席に武雄の手紙を置く。
「私に手紙?・・・」
エイミーが首を傾げながら自分の分のお茶を入れて席に着く。
「・・・タケオさんから・・・」
エイミーが手紙の差出人を見て固まる。
大豆と小豆のレシピをお願いした回答なのはその場の皆がわかっていた。
「・・・」
少しの間、差出人名を見ていたエイミーが意を決して手紙を開けて中を見る。
他の面々は固唾を飲んで見守るのだが・・・
「「「「「!?」」」」」
手紙を読んでいたエイミーが口に手を当てながらぽろぽろと泣き始めてしまう。
「ちょ!ちょっと!エイミー!?
どうしたの!?タケオさんに何て言われたの!?」
ローナが慌てる。
他の面々も「どうすれば良いの!?」とちょっとしたパニックになる。
「いえ・・・違うんです・・・違うんです・・・
リネットぉ・・・やったよぉ・・・」
「エイミー殿下!どうしたのですか!?」
リネットがエイミーを抱きしめる。
「やった・・・これでうちも生き残れる・・・」
「はぃ?生き残れる?」
「・・・これ・・・」
エイミーがリネットに武雄の手紙を渡す。
「・・・え?・・・嘘でしょう?」
中身を見たリネットがエイミーとは対称的に口に手を当てながら驚く。
「はぁ・・・お母様、この後家族会議です。」
リネットの抱擁から身を起こし涙を拭いたエイミーが姿勢を正しながら言う。
「はい!重大事項ですからね。」
リネットも頷く。
「皆さま、すみません。少し取り乱しました。」
「いいえ、構わないわよ。
で?タケオさんからは何と?
さっきの言葉なら良い結果になっている様だけど。」
セリーナが言って来る。
「端的に言ってタケオさんは私の要求以上の回答をしてくれました。
大豆の料理が3つとその派生で2つ、小豆については今の所、教えられないとの事でお断り。」
「・・・エイミーちゃん。タケオさんが『今の所』と書いたの?」
レイラが聞いてくる。
「はい。何かしら作ったのでしょうが・・・満足いかなかったか・・・」
「タケオさんとエルヴィス伯爵が相談しているのならエルヴィス家のみ提供される料理が出来たと見るべきね。」
「はい、セリーナお姉様の言う通りです。
タケオさんからは大豆も小豆も一定量の購入をする旨の依頼が書いてあります。」
「・・・そう・・・それだけ?」
「いえ・・・小豆料理を記載しない代わりに『魚醤』の作り方と」
「「はぁ!?」」
アルマとレイラが驚く。
「な・・・何よ2人して。」
ローナが驚く。
「嘘でしょう・・・」
「タケオさん・・・」
アルマとレイラが驚愕の表情で固まっている。
「どういう事よ!?」
「え・・・魚醤はタケオさんが王都で見出した調味料なんです。
今の所、タケオさんしか作り方を知りません。」
「「え!?」」
レイラの説明にローナとセリーナも固まる。
「それと魚の身を磨り潰して作る『さつま揚げ』と『つみれ』という食品の作り方が書いてあります。」
「「「「・・・」」」」
その場の面々がエイミーが語る内容に驚愕の表情を浮かべながら固まっている。
「・・・エイミーさん、つまり・・・タケオさんから8つもレシピが来たという事でしょうか?」
クラリッサが聞いてくる。
「はい。
さらにタケオさんは大豆と小豆、そして魚醤とさつま揚げは卸売市場に持ってくれば買うとの文言があります。」
「・・・タケオさん、私達の卸売市場まで考えているの?」
「はい、アルマお姉様。」
「レイラ、どう思う?」
「んー・・・確かに魚醤については『買うから』と言いましたけど・・・
まさかエイミーちゃんに製造を依頼するとは思いもよりませんでしたね。」
「まったくね・・・
あれ、元々はうちで作っていた珍品なんだけどなぁ・・・
はぁ、こんなに早く手放すなら王都に居る時にうちが手を付けておけばよかったわよ。」
「ちなみにですが・・・アルマお姉様とレイラお姉様に伝言が書かれています。」
「なんでこっちに書かないかなぁ?」
レイラが苦笑する。
「で?なんて?」
アルマも苦笑しながら聞いてくる。
「じゃあ読みますね。
『アルマさん、レイラさん、ごめんなさい。
エイミーさんからの切羽詰まっている要請が来たのでニール殿下領で出来そうなレシピを書きました。
ニール殿下領とテンプル伯爵領は海に面しているという環境が似ていると思いますので魚醤やさつま揚げ、つみれについては出来ると思います。
魚醤の元はテンプル伯爵領からの珍味でしたね。
まぁこの3つのレシピが欲しいならエイミーさん達と交渉をお願いします。
エイミーさんを通さずにウィリアム殿下の方に教えるのも気が引けるのでこっちに書きます。
あとはよろしく。』
以上になります。」
「・・・交渉権はエイミーが握っているのね。」
セリーナが言う。
「はぁ・・・タケオさん、わざとそっちに書いたわね。」
「そうですね。
タケオさん的には第2皇子一家にレシピを売ったからあとの取引はそっちでと書いたんでしょうね。
さらにそれをエイミーちゃんに読ませて私達との交渉に『どう臨むの?』と投げかけているし・・・」
アルマとレイラがため息をつく。
「アルマお姉様、レイラお姉様、どうされますか?
私としてはタケオさんが言った3つについては提供する事は構いませんが。」
「ふむ・・・レイラどうする?」
「そうですね・・・確かに特産品は欲しいですよね。
・・・では第2皇子妃リネット殿下、第2皇子息女エイミー殿下に対し、私達第3皇子妃アルマ及びレイラは正式交渉の場を用意して頂くよう依頼をします。」
「は・・・はい!」
「はい。」
レイラが改まった言い方をしてリネットは緊張し、エイミーは普通に答える。
「本日の夕刻・・・懐中時計で17時にこの場所で『魚醤』、『さつま揚げ』、『つみれ』のレシピの価格についてお話合いをさせて頂きたいと思います。
その際には売って頂ける際の最初の金額を提示して頂きますようお願いします。」
「わかりました!」
「・・・はい。
第3皇子妃アルマ殿下、第3皇子妃レイラ殿下、17時にこの場所でお願いします。
私達としては1回のみの開催を望みますのでご留意願います。」
レイラ達に向かってリネットがちょっとテンパりながら答え、エイミーがしっかりとした回答をする。
「わかりました。
私達もその所存です。」
レイラが答え、アルマも頷く。
その様子をローナとセリーナとエリカが「あら?王家同士の正式交渉は久しぶりね。」と楽しそうに見ているが、クラリッサだけが「この空気、怖いんだけど!」といきなり空気が変わったことに驚いているのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




