第650話 60日目 コラに指導をしよう。
午前2時前。
試験小隊の射撃場の中央、小道の奥の広場との合流点で簡易かまどで焚き火しながら鍋で肉のワイン煮をコトコト煮ていた。
傍らには料理長が用意した20㎏の生ゴミが入った樽(密封したので匂いはしない)が2個置かれていた。
「ファァ・・・」
「ニャ・・・」
コラとモモが並んでお座りをしながら焚き火を囲んでいる。
武雄は焚き火に向かってコラに背を持たせながらマッタリしているし、タマとミアはモモの上で寝転がっている。
朝霧は武雄の横でちょこんとしていたりする。
ここに来て焚き火を開始してから武雄たちはのんびりと話をしていた。
「ニャ。ニャ?」
「主、コラ達もやっぱりスライムが配下というの聞いた事がないそうです。」
「ふむ。
コラ、モモ、スライムはコラ達の住み家にも居たのですか?」
「ニャ。」
「ニャ・・・ニャ?」
「居たみたいですが、基本的に真ん丸みたいです。
エルダームーンスライムはコラは2、3度会った事があって、モモはないそうです。」
「テトがスライムは生き物が居る近くには近寄らないと言っていましたね。」
「ニャ?・・・ニャ・・・」
コラが若干うな垂れる。
「主、スライムを部下に持つのは初めてだそうです。
あと基本的に他種族を下に持つのはした事がないそうで不安だと。」
「コラ、モモ、良いですか?
他者を統べる人は誰しもが虚像という物を知ります。」
「ニャ?」
コラが首を傾げる。
「虚像。
つまりはですね。
他者から見たコラはコラが自分で思っているのとは違うという考えです。
そして他者から見るコラはラジコチカのコラではなくこの辺の魔物達の主であるコラという役職で見ているという事です。」
「ニャ?」
「主、コラが『部下はモモとスライムしかいないですが?』と言っています。」
「部下のあるなしではなく、そして数の問題でもありません。
コラは私が連れて来ましたが、私が皆に『この辺の統治をさせる』と明言をしています。
そして皆はコラを魔物達の主として見ています。これが虚像です。
出来る出来ないではなく、コラはもう魔物達の主をしなくてはならないのです。」
「ニャ・・・」
コラが考え込む。
「出来る出来ないは関係ありません。まずはこの辺の魔物の主として行動をしなさい。
実力が虚像に伴わないのなら態度だけでもそうしなさい。
そして虚像に追い付く為に実力を付けなさい。」
「ニャ?」
「どうやってコラが他の魔物を従えさせるのですか?」
コラとミアが聞いてくる。
「1対1で勝つ事だけが魔物達の主ではないと思っていますよ。
状況を見て最善の判断をし、部下の特性を生かしてその場で勝利をもぎ取る。もしくは有益な情報を他者にもたらし、自身の陣営を勝利に導く。
見識の深さと観察力、そして部下からの信頼を持っている物が魔物達の主ではないのですか?
コラ、モモ、どうしてカトランダ帝国とアズパール王国の間の住み家で他者に敗れたのですか?
その敗因はなんですか?」
「ニャ?・・・・ニャ??」
「主、コラが言うには実力が相手よりなかったからだと。
それに相手は空を飛んでいたので戦いようがなかったとも。」
「実力が相手よりなかった?相手が飛んでいた?
コラ、それは違います。それはただ単に言い訳でしかありません。
コラ、貴方は相手がどんな種族でどのような数でどんな攻撃を仕掛けてくるのか事前に調べたのですか?」
「・・・ニャ?」
「それは調べようがなかったそうです。」
「コラ・・・ちゃんと考えなさい。
些細な事でも事前に攻めてくる兆候は本当になかったのですか?」
「・・・ニャ。」
「『確か2週間前から森の中で獲物が取り辛くなった』と。」
「コラ、その原因は調べましたか?
ただ単に『季節の変わり目』だとか『今年は不作だ』とか安易な事を考えたのではないですか?」
「・・・ニャ・・・」
コラが弱々しく頷く。
「もしかしたらそこでちゃんと調べていれば余所者が侵入していたのに気が付いていたかもしれません。
さらに鳥のような空を飛ぶ物が相手だった場合に対応策を考える時間が取れたかもしれません。」
「ニャ?」
「例えば?」
「例えば・・・そうですね。
鳥は獲物を攻撃する際は基本的に直線でしか移動出来ません。
それは大型だろうが小型だろうが関係なく同じ動きをするんです。
ならここの訓練場の広場の横にあるような1本道に誘い込み、正面からの対峙を装って逆に鳥の逃げ場を失わせ・・・網を張って生け捕るとか?」
「ニャ~。」
「コラでは網を張れないと言っています。」
「ふむ・・・ならモモと協力し鳥がコラに攻撃を仕掛ける瞬間に横から襲わせましょうか。
魔物や人に関わらず他者を襲う瞬間と言うのは襲う側は襲う相手しか見ていない物です。
まぁ失敗すればコラは重傷ですけどね。
ですが・・・コラは重傷でも相手は倒せます。
さらに今のコラなら私達人間の回復が出来る魔法師が付いています。
そのくらいの冒険をしても死にはしない程度で相当勝てる割合が高くなるでしょう。」
「ニャ!」
コラが頷く。
「それとですね、コラ。
他者の上に立つ者は頭をちゃんと下げなさい。
他者に協力を求めるならばちゃんと説明をし、頭を下げ、誠意を込めて、お願いをしなさい。
主だから頭を下げないというのは間違いです。
主だからこそ率先して勝利の為に頭を下げなさい。
踏ん反り返っているものには誰も協力をしないし、助言もしてくれません。
わかりましたか?」
「「ニャ!」」
コラとモモが頷く。
「とりあえずは今日はこの森に住む魔物の生息状況を夕霧達から聞きましょう。」
武雄がそう締めくくると同時に森から夕霧達がやって来るのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




