第649話 59日目 今日も何事もなかったね。魔王国王の暇つぶし。
夕飯後のいつものティータイム。
今日1日の報告も終わり、スミスが「僕が欲しい家具の方向性がわかりました」と嬉しそうに言っていた。
「ふむ、スミス良かったの。
気に入った家具を見つけるのは1つの楽しみだからの。
そしてタケオ、とりあえずこれで一段落かの?」
「はい。
現状で私が作りたい物はお願いしましたね。」
「そうか。
じゃがまだ始まったばかりじゃ。
これから品々を売り込まないといけないの。」
「タケオ様、ラルフ様とロー様より現状は順調との報告が来ております。
主、新人小隊2個分60着のトレンチコートは来週納品予定との事です。」
「うむ。
何とか合同訓練に間に合ったの。」
「はい。
ですが、随行する魔法師小隊分はギリギリとの事です。」
「ふむ。
今回の合同訓練はトレンチコートのお披露目もあるからの。
皆で統一感を出したいのぉ。
最悪は行軍中に配達させるしかないかもしれぬ。」
「そうですね。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが頷く。
「さて。
エルヴィス領、ウィリアム殿下領に続き採用されますかね?」
「されるじゃろ。」
「されますね。」
武雄の質問に2人して即答してくる。
「そうでしょうか?」
「うむ。
少なくともフレッドとジェシーが気に入っていたからの。向こうの騎士団は買い揃えるのではないかの?」
「そうですね。
あとはテンプル伯爵は周りが持つから買うかもしれませんね。」
「そうすると・・・あとどのくらい注文が来るのでしょうか?」
「フレッドの所はうちの3倍じゃからの騎士団だけで900名ぐらいじゃったかの?」
「そうですね。
テンプル伯爵家はうちと同じですから騎士団は300名ですね。」
「・・・エルヴィス家が900着、ウィリアム殿下が・・・確かラルフ店長から850着と言われていましたね。
それでゴドウィン家から900着、テンプル家から300着。
・・・エルヴィス家の騎士団にはしないのですか?」
「・・・んー・・・フレデリック、どうするかの?」
「予算ですね・・・
とりあえず兵士の方が終わり次第ですが・・・その頃には注文が殺到しそうですね。
ならウィリアム殿下の後にうちの騎士団分300着の予定を入れておきましょうか。」
「そうじゃのぉ・・・
どちらにしても今建設している工場では足らんかもしれぬの。」
エルヴィス爺さんがため息を漏らす。
「何だか全部がトントン拍子で進んでいますね。」
武雄が他人事のように言い放つ。
「うむ・・・
当分はこの街も慌ただしいかもしれぬの。
さてタケオ、まだ寝るまでは時間があるじゃろう?」
「今日もですか?
フレデリックさんとしてはどうですか?」
「ふふん。
フレデリックとは昼にやっておる!
今日は勝つのじゃ!」
「あ!お爺さま、タケオ様は今日の夜は僕とのリバーシ対決ですよ!
割り込み禁止です!」
「昨日と同じで一緒にやれば良かろう?
さぁ!勝負じゃ!」
「あぁ・・・2日連続で2面打ちなのですか・・・」
エルヴィス家のティータイムはのんびりなのだった。
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魔王国のとある寝室にて。
「ふんふん♪」
「随分と楽しそうですね。」
ヴァレーリが書き物をしているのだが、その様子をタローマティが目を細めながら見ている。
「ん~?
ふふふ、先代からの宿題だな!」
ヴァレーリがニヤリと笑う。
「絶対幹部達が了承しませんよ?」
「ふふん、それはそれ。
考えるだけなら誰にも怒られる謂れはない。」
「はぁ・・・領地替え案なんて無駄だと思いますよ?」
「あ~・・・ファロンとパーニを移動させちゃうかなぁ。
あそこも随分と長く同じ領地にいるし・・・
でも、隣がアズパール王国だから戦争時に防壁とするにはうってつけでもあるんだよね~♪」
タローマティの言葉を無視して楽しそうにヴァレーリが落書きしている。
「いやいや、あのお二方は何も失策はしていませんよ?
ファロン子爵は当主になったばかりですし。」
「・・・んー・・・駄馬や引きこもり達が欲しがっているんだよね~。」
「・・・馬種とエルフですか。
確かに向こうは不作続きで牧草地帯が減っているらしいですね。
それとエルフの方は何故ですか?あそこは安定していると思いますが・・・」
「蟲が最近、侵略してくるそうだ。」
「蟲?・・・あぁ、領主ではなく国の方ですか。
それは報告にも出てきていましたね。」
「魔王国として考えると・・・あの国とファロンの所を入れ換えれるなら魅力的だろう。」
「まぁ、ファロン子爵の所の1.5倍の領地で畑もちゃんとありますからね。
たかが蟲程度の被害で領土が増えるならありがたいとは思いますけど。」
「ファロンは先代と違って戦いたいみたいだからな。
蟲相手に遅れはとらんだろう。
さらに森の1部を切り取れるかもしれん。」
「あの森はアズパール王国との緩衝地帯です。
あまり切り開くのは良しとされませんね。」
「まぁな。
だが、だからこそ制圧しておく必要がある。
それに引きこもり達に恩が売れて、アズパール王国との戦争に2国で臨めば魔王国としては万が一の際の被害が少なくて済むという特典付きと良い事尽くめなんだな。」
「・・・陛下にしてはマトモな言い分ですね。
本心は?」
「人間相手に準備をしているのに領地替えと蟲相手に戦う命令。
良い感じで病みそうだろ?
その時のファロンの顔が楽しみだ。」
「相変わらず性格がひん曲がっていますが・・・
国としての利点だけで国の配置を変更は出来ないでしょうし、ファロン子爵や幹部達が納得しないでしょうから領地替えはダメですね。」
「・・・んな事は最初からわかっている。
想像で楽しんでいるだけでなんでダメ出しされなきゃいけないんだ・・・」
ヴァレーリがため息をつく。
「陰湿な趣味な物ですから。」
「あぁ、楽しいこと起きないかな!」
ヴァレーリが席を立ち、子供のような事を言ってベッドにダイブする。
「年が明ければ慌ただしいでしょう。」
「あれは他人が慌ただしいだけで我にとってはどうでも良い事だ。
はぁ・・・早く退官して流浪の旅に出たいな~。
あ、アズパール王国のアリスに決闘を申し込まないと!」
「受けてくれますかね?」
「ん~・・・武術大会とかはあるのだろうか?」
「調べますか?」
「いや!それを知るのも旅をしながらの方が良いだろう!
時間は無限にあるんだ、行き当たりばったりもまた楽しいはずだ!」
「そーですねー。」
「やる気ないな。」
「私は陛下の精霊ですよ?
精神的に病んでくれないとおまんまの食い上げです。
さぁさぁ、もっと非道に!もっと快楽に!もっと堕落に溺れましょう!」
「お前に言われるとやる気をなくす・・・
はぁ・・・何か面白い事ないものか・・・」
ヴァレーリが天井を見ながら呟くのだった。
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