第648話 帰宅途中。
「まさか武雄さんがいたとは・・・
寄っているとは聞いていましたけど帰ったから呼ばれたのだろうと思っていました。
・・私がいなくても武雄さんが見れば良かったのではないですか?」
ハワース商会を出た武雄とスミスと鈴音が帰路をてくてく歩いていた。
そんな中鈴音が呆れながら言ってくる。
「いや、黒板関係も鉛筆も鈴音に任せましたからね。
担当を差し置いて私が指図するのもねぇ。」
武雄が苦笑する。
「まぁ良いです。
それにしても鉛筆もチョークもほぼ私達の思った通りの仕上がりでしたね。」
「ええ。
ここまで作ってくれて感謝ですね。
まぁ黒板の緑色は再塗装をお願いしましたが・・・」
「ええ、鮮やかな緑でしたね。」
鈴音が苦笑する。
「タケオ様、スズネさん、とりあえず要望通りの物が出来ているのですか?」
スミスが聞いてくる。
「はい。
鉛筆と黒板、チョークは問題なく出来ていますね。
鈴音はどう見ますか?」
「ん~・・・確かに要望通りなんですが・・・
もう少し種類が欲しいですよね。」
「まぁ、そうですね。
ですが、それは次の段階でしょう。
今は初期なのです。まずは作って普及させてから色々と改良や種類を増やしていけば良いでしょうね。」
「急いではいけないのですね。」
「急いでは良い結果はあまり出ませんよ。
それに急ぐ理由もあまりありませんし。」
「そうですね。」
「タケオ様もスズネさんも満足はされていないのですね。」
スミスが苦笑しながら言う。
「私も鈴音も現状の出来には満足していますよ。
ただもう少し種類を増やしたいという願望があるだけです。
無いなら無いで構わないという感じなんですよ。」
「ですね~。」
「ん~・・・わかりませんね。
あ、もう屋敷ですから僕はこれで。
タケオ様、スズネさん、気をつけて。」
「はい、ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
スミスが屋敷に戻っていく。
武雄達は遠目にスミスが屋敷に入って行くのを確認してから次はステノ技研を目指す。
・・
・
「武雄さん。」
「ん?どうしましたか?」
「いえ、今武雄さんが契約しているのはどんな店があるのか気になって。」
「仕立て屋、酒屋、木材加工、青果屋とウスターソース、時計屋と試作工房、そして今回の製作所という所ですか?」
「随分と広範囲に手を出しているんですね。」
鈴音が呆れる。
「皆さん優秀で私がしたい事を快く事業化するんですよ。」
「快く・・・ですか?」
「はい。
『やれないなら他を当たります』と言うと笑顔で快諾しますよ。
何故でしょうね~。
あ、ちなみにこれは私だけが使えるらしいので、鈴音は口にしてはダメですよ。」
「そんな恐ろしい言葉は使えませんよ。
武雄さんだからです。
私だったらただお願いするだけですね。」
「・・・鈴音。
営業や交渉というのはこうだというやり方はありません。
ありませんが、一つ確かな事があります。」
「はい。」
「交渉相手とはとことん話をしなさい。
こちらが妥協できる内容なら妥協をして良いでしょう。
ですが、それでもゴネるならキッパリと席を立つ勇気を持ちなさい。」
「キッパリと席を立つのですか?」
「ええ。相手が望む資料を全部提出したり、ちゃんと説明もしてこちらから渡せる物は渡して、それでも値下げやこちらが飲めない内容を要求するなら交渉を打ち切るべきです。
今まで努力しているからといって、ズルズル交渉を続けても意味はありません。
そういった相手はたぶん自分の意見は妥協しないでしょうから、こちらから交渉のテーブルを降りるしかありません。
それで相手が諦めるならそれまでですし、相手が妥協してくるなら再度交渉をすれば良いのです。」
「難しそうです。」
鈴音が悩む。
「そうですね。
なので、まずは簡単な交渉をさせたいから黒板等を頼んだのですが、私がしちゃいましたし・・・
鈴音、他に何か作りたい物はないですか?」
「ん~・・・ん~・・・思い付かないです。」
「そうですか。
私も考えますが、何か浮かんだら話し合いましょう。」
「それを私が交渉するんですか?」
「はい、そうですよ。」
「・・・安くて簡単な物を考え付けば良いのですけど・・・」
鈴音が思案する横で武雄は「単価が安い方が交渉としては難しかったりするんだよなぁ」と思っていたりする。
「そう言えば拳銃のイメージ図は描けたのですか?」
「・・・武雄さん、武雄さんの頭の中ではどんな拳銃がありますか?」
武雄はそう言われていくつか想像をするのだが、小銃用の弾丸サイズを使うのを思いだし、警察官が持っているような割りと小型の物は想像から削除するが、「太股に配置したいから20~30cmくらいにはして欲しいかなぁ」とも思ったりする。
「・・・小銃の弾丸サイズのシリンダーだと全体的にそれなりに大きくしないと何だかバランスが悪いんです。」
「・・・どういった拳銃にするか、もしくは出来るのかは私からは今の所、言う気はないです。
鈴音とテイラー店長で考えなさい。」
「うぅ・・・難しいんですよ。
何か武雄さんが欲しいイメージをください。」
「・・・そうですね。
作業服では右太股に、制服では左脇に配置したいですね。」
「ん~・・・わかりました。
少し考えます。」
鈴音がさらに悩むのだった。
「ん?もうステノ技研ですね。
じゃあ鈴音、納得した図面を期待しています。」
「うぅ・・・テイラーさんと考えながら図面を描きます。
では武雄さん、失礼します。」
鈴音は若干ガックリしながら工房に帰っていくのだった。
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