第642話 59日目 スライムとの交渉。4
今は午前2時前。
試験小隊の射撃場の中央、小道の奥の広場との合流点で武雄は安座しながら昨日の簡易かまどで焚き火しながら鍋でタマゴスープをコトコト煮ていた。
傍らには料理長が用意した20㎏の生ゴミが入った樽(密封したので匂いはしない)が置かれていた。
「主、暇です。」
傍らにはミアが座っていて暇そうにしている。
「寝ていて良いですよ。」
武雄はほのぼのとしていた。
アリスに言ったように今日も1人で来るつもりだったが、ミアが先回りして武雄のコートに潜んでいた。
で、訓練場に着いてから「付いてきました!」とネタばらしをしていた。
武雄も「昨日もどうせ見ていたのでしょう?」と思っていたので同行を許可していた。
で、今はエルダームーンスライムの到着待ち。
「主、冒険者組合から貰った大袋は使いやすそうですね。」
「そうですね。
少し面倒ではありますが、便利ですね。」
「面倒なのですか?」
「ええ。少し試してみましたが、私が入れた物はアリスお嬢様は取り出せず、アリスお嬢様が入れた物は私は取り出せませんでした。
つまりこれは入れた人しか取り出すことが出来ない個人認証付き袋なんですよ。
それに大袋ではありますが、周囲2mまでの物・・・つまりはこれの間口より大きな物は入らないのです。」
「?・・・逆に言えばその袋に入る物は何でも入るという事ですよね。」
「そうですね。
そして入れる物にも制限があってですね・・・生き物は入れません。」
「??入れない?
強引に入ってしまえば良いのでは?」
「そこが不思議なんですけど、入らないんです。
でも私が物を取り出す為に手を入れる事は出来ます。」
「???変じゃないですか?
生き物は入れないのに持ち主の腕は入る。」
「たぶん・・・そこが個人認証なんでしょうね。
そして中に入れた物は時間が経過していません。」
「主確かめたのですか?」
「懐中時計を入れて10分後に取り出しました。
結果は時間が止まっていましたね。」
「ふーん・・・つまりその袋は持ち主の荷物を無制限に入れられる袋でしかないのですね?」
「そうなりますね。
袋を向こうに送れば向こうの人が取り出せるという物ではなくて、あくまで持ち主の移動時の荷物を入れられるようにした袋ですね。」
「旅には便利そうです。」
「そうですね。」
森の奥から人影が見え輪郭がはっきりしてくるとエルダームーンスライムとわかる。
「また来たのですね。」
「はい。
昨日の報告にきましたよ。
とりあえず今日の分になります。」
「わかりました。」
武雄は前置きをせずに普通に会話を始める。
エルダームーンスライムも躊躇せずに武雄の横まで来て座るのだった。
「まずは昨日の報告をします。
樽についてですが、こちらからは4樽を毎日提供できるように今調整をしています。」
「4樽?・・・3樽ではないのですか?」
「私のお仕事用で3樽、迷惑料で1樽になります。」
「わかりました。」
「次に立入禁止地区ですが、昨日言っていた通りここを起点に西に500m北に500mで設定をします。」
「はい。」
「それと今後の樽の置き場なのですが・・・」
武雄は地図を広げる。
「コラとモモ・・・昨日言っていたラジコチカの寝床をこの辺りに作ります。
そしてその裏の森に面した所に生ゴミの置き場、隣にスライムの体液の採取所を作ります。
それと少し離れた広場の中央部分のここら辺に試験小隊の休憩所も作りたいと思っています。」
「・・・その魔物の小屋の裏に樽を置くのですね。」
「はい。
森に面した広場の縁に設置予定です。」
「わかりました。」
エルダームーンスライムが頷く。
「では、私達の調査結果を・・・」
「「調査?」」
武雄とミアが聞き返す。
「北の森に住む魔物の監視。
昨日そう言われましたが?」
「確かに私から依頼はしましたが、もう終わったのですか?」
「ん、下から上を見るだけなのですぐに終わりました。」
「そうですか。
今日は周辺の地図を持ってきていません。
明日は地図を持ってきますので聞かせてください。」
「ん。」
「主、コラとモモも呼ばないと。」
「そうですね。
スライム達とコラ達で相手の習性を観察して引き込むか排除するのか決めないといけないでしょうか。
とりあえずどんな魔物がいるのか知ってから対策を考えましょう。」
「はい。」
「そういえば、ミアとエルダームーンスライム殿は初対面でしたね。」
「え!?・・・は・・・はじめまして!」
「はじめまして?」
ミアが焦りながら挨拶をしてエルダームーンスライムが首を傾げる。
「はじめましてです!
タケオ・キタミザトの部下です!
ラジコチカのコラとモモの上司です!
エルダームーンスライム殿!よろしくお願いします!」
ミアが早口でまくし立てる。
「はぁ・・・」
「ところでエルダームーンスライムは種族名ですよね?
個別の呼び方はないのですか?」
「呼び名?」
「私の事はタケオと呼んでください。
ミアもミアと呼べば良いでしょう。
私達が貴女を特定で呼ぶ名があった方が楽なのです。」
「好きに呼んで良いです。」
「・・・ミア、クゥ、タマ、コラ、モモ、スー、ニオ、テト・・・
さて、どうしますかね。」
武雄は空を見て森を見て考える。
「・・・夕霧にしますか。」
「ユウギリ?主、誰を斬るのですか?」
ミアが変な勘違いをする。
「夕方に立ちこめる霧の事ですよ。」
「ユウギリ・・・わかりました。
今後は私の事はそう言ってください。」
エルダームーンスライムの夕霧が頷く。
「はい、わかりました。
ん?・・・もう1体が来ましたね?」
武雄が森を見ると夕霧とほぼ同じ体付きのエルダームーンスライムが1体やってくる。
「・・・」
夕霧の横に立ち夕霧と手を合わせる。
「・・・タケオ、これは最近エルダームーンスライムになった個体なのですが、呼び名が欲しいそうです。」
「じゃあ、そちらは初雪で。」
「ハツユキ・・・ありがとう。」
ハツユキは武雄に礼を言って森に帰っていく。
「・・・あまりしゃべれないので?」
「普通スライムは他種族としゃべりません。
それにスライム同士なら触れ合うだけで情報の共有が出来ます。
特に喋る必要もないです。」
「夕霧はしゃべれますね。」
「この森のエルダームーンスライムで一番古いのが私です。
いろんな情報を長い間蓄積しました。」
「その情報は他のスライムには渡さないので?」
武雄が不思議そうに言う。
「情報量が多すぎると破裂するので。
年月を見ながら渡しています。
ちなみにさっきのハツユキはこの森で3体目のエルダームーンスライムになります。」
「もう1体がいるのですか?」
「はい。
私達3体がこの森のスライムの長となるのでしょう。
ちなみにもう1体は他の種族の監視をしています。
明日は連れてきます。」
「わかりました。
ではそのエルダームーンスライムも名が欲しければ言ってください。」
「伝えます。
と、これをどうぞ。」
夕霧が掌から8㎝くらいの水まんじゅうを出す。
「これは?」
「緑スライムです。
タケオの言う事は聞くようにしています。
人間社会を見せてください。」
「・・・夕霧はこれから情報を得るのですか?」
「はい。
タケオがここに来る時には連れて来てください。
人間社会の事は知らないといけないと昨日の精霊殿に言われています。
で、出来るだけ私とハツユキあと1体で情報を共有しておきます。」
「わかりました。
あと出来ればで良いのですが、この広場全体の草刈りをお願いして良いですか?」
「・・・わかりました。
草が生えて来たら私達で吸収しておきます。」
夕霧が頷く。
「すみませんがお願いします。」
武雄が頭を下げる。
「さて、今日はこれぐらいにしましょうか。
何とか早々に小屋を作って樽を毎日持って来させるようには交渉をします。
すみませんが、当分は樽1個でお願いしますね。
それともしかしたら私が毎日来れないかもしれませんが、その場合は夕方か朝方にここに樽を置いて行きますのでお願いします。」
「わかりました。」
夕霧が頷く。
「では、スープでも飲んで空の樽を回収して帰りますかね。」
「はい、主。」
ミアが頷く。
夕霧は何も言わないで武雄の横で静かに頷くのだった。
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